創業者の「悪夢」、インシュアテックSureはベンチャー支援者が模倣企業設立、出資したと主張

人間関係は厄介になり得る。スタートアップの創業者とそのベンチャー投資家との関係もそうだ。しかしそれが極端になると、カリフォルニア州サンタモニカにあるインシュアテック企業Sure(シュア)が、シリーズAの投資家が機密情報を利用して、ニューヨーク拠点の非常に類似したBoost(ブースト)というスタートアップを立ち上げたと主張するようなことが起きる。

Sureはさらに、ニューヨークにある創業29年のベンチャー企業IA Capital Group(IAキャピタルグループ)が、利益相反を理由に受ける資格がなくなった情報権利をめぐり、Sureに「嫌がらせ」を続けてきたと主張している。

Sureの創業者兼CEOであるWayne Slavin(ウェイン・スラビン)氏は同社に依然として関心が集まっていると考える理由をたずねられ、Sureの成長がBoostを上回っているからだと答えた。「新型コロナウイルス感染症の影響で、当社の従業員数は約50%増加した」と同氏はいう。また、Sureの年間経常収益は現在「数千万ドル(数十億円)規模」に達し黒字になっているとつけ加え、Boostの業績が好調でないことをほのめかした。

1995年からIA Capitalの業務執行社員を務めるAndy Lerner(アンディ・ラーナー)氏は、この出来事に対するSureの主張に異議を唱えている。そしてSureの主張に関して、次のように答えた。「注意すべき点として、当社は投資した際、両社が直接の競争相手であるとは知らなかった」。

Alex Maffeo(アレックス・マフェオ)氏は、IA Capitalグループの前パートナーで、Sureの取締役を務めた後、Boostをインキュベートして同社のCEOに就任した人物だ。同氏はSureの主張に対して次のように述べた。「当社はSureとIA Capital両社の状況をまったく知らず、IAのポートフォリオに含まれる企業に関する情報も一切受け取っていない。私がIA Capitalに勤務していたのは4年程前になるが、Boostは当初からインシュアテックのスタートアップや他のデジタル配信パートナーを支援するという使命に注力していた。両社が今後もそれぞれの道でともに繫栄していく上で、ウェイン氏と彼のチームの成功を祈っている」。

いったい何があったのか。両社の対立は2017年近くまで遡る。IA Capitalが、Sureの800万ドル(約8億5000万円)のシリーズAラウンドをリードしたときだ。具体的にいうとIA CapitalがSureに対し、保険大手のPrudential(プルデンシャル)を唯一のリミテッドパートナーとするファンドから200万ドル(約2億1000万円)の小切手を振り出した。

ラーナー氏によると、当時Sureは「モバイル保険代理店」であり、「航空保険、スマートフォン保険、手荷物保険」など、移動時の品目に特化していた。しかしスラビン氏はこれを誤りだという。同氏によると、SureはTesla(テスラ)、Intuit(インテュイット)、Mastercard(マスターカード)など、同社の技術を使ってデジタル保険プログラムを運営している大企業にSoftware as a Service(SaaS)を販売しているが、2015年のシードラウンド終了直後から、保険APIを組み込む戦略に着手していたという。

Boostが現在、同じサービスを提供しているのは偶然かもしれないが、スラビン氏はそうは考えていない。実際、両社の主張によれば、インシュアテックのスタートアップのみを投資対象とするIA Capitalで、マフェオ氏が率いる「Project Boost」と呼ばれる社内プログラムを着手した直後から、亀裂が生じ始めた。スラビン氏によると、IA Capitalの当初の考えは、インシュアテックのスタートアップに、新しい保険商品をより速く市場に投入するために必要な資本を提供し、そのために4000万ドル(約42億2000万円)を調達することだった。大規模なラウンドが実現しなかったとき、IA Capitalとマフェオ氏は方向転換し、マフェオ氏はIA Capitalからシード資金を受け取り、投資家を辞め、Boost InsuranceのCEOに就任した。

問題の最も重要な点は、Boostがそうした動きについてSureと話し合うことなく、あっという間に「私たちの領域に入り込んできた」ことだとスラビン氏はいう。

スラビン氏にとって、これは特に気がかりなことだった。マフェオ氏がほぼ丸1年Sureの取締役に就き、同社のビジョンや技術の複雑さ、ロードマップの内容を理解していたからだ。対抗方法がわからなかったSureは、取締役会とともに、IA Capitalとの間で投資関連文書に関する条項を行使することを決定した。これにより、少なくとも、以前はIA Capitalが受け取る資格があった同レベルの情報を提供することを停止できるようになった。2019年後半までに、SureはIA Capitalへの情報提供を一切停止した。

SureとBoostは「それほど似ていない」と主張するラーナー氏にとって、これは納得のいくものではなかった。いずれにせよ「稀に一致する」ことがあるため、2018年にSureが上場保険持株会社W.R.Berkley(WRバークレー)が主導した1250万ドル(約13億2000万)の出資を受け、シリーズBラウンドをクローズしたとき、IA Capitalは取締役会を離脱した。

ラーナー氏はさらに次のように述べた。「数回のやりとりの後、IA Capitalは必要最小限の損益計算書と貸借対照表を受け取ることに同意した。それにより当社はSureを評価し、四半期ごとにLPへ報告することができた。当社は機密情報や技術情報、顧客情報を一切求めず、基本的に監査と株式評価を実施するための財務情報のみを要求した。それに対してSureは、いかなる情報も送りたくないと言ったのだ」。

両社が敵意を抱く中、最大の問題はこれからどうなっていくかだ。

スラビン氏は「私たちが経験している、そしてIA Capitalが認めようとしない悪しき支配という悪夢」に黙って耐えようとしていたことを示唆している。しかし、2020年のクリスマス数日前にIA Capitalの弁護士から送られてきた驚きの手紙は、再び株主の個人情報を要求するものだった。これは常識の範囲を超えていると同氏はいう。

2021年2月第1週の初めに、スラビン氏はSureの株主全員に初めてこの舞台裏の対立について伝える手紙を送った。同社はSureの弁護士であるFenwick&West(フェンウィック&ウェスト)のEvan Bienstock(エバン・ビエンストック)氏を通じ、IA Capitalに対し、出資者のPrudentialがSureについての詳細情報を求めているなら、その情報をPrudentialに直接提供すると伝えた(Prudentialにコメントを求めたが、まだ回答は得られていない)。

「もっと早くこの弱い者いじめに抵抗しておくべきであった。しかし創業者として、リファレンスチェックや、サポートしてくれるゲートキーパーが必要な場合でも、そのゲートキーパーが必ずしも会社や他の株主の利益に気を配ってくれるわけではないことを知るのは非常につらい」とスラビン氏はいう。

一方、ラーナー氏はこれはすべて大きな誤解であるとし、Boostが「十分軌道に乗る」まで、IA Capitalは衝突の可能性があったことに気付かなかったと言っている。

また、「IA Capitalは、Sureと良好な関係を築きたいと考えている。対立が生じたことを遺憾に思う。当社が求めるのは、今後監査を行い、LPにレポートを提出できるよう、必要最小限の情報を送ってもらうことだ」とつけ加えた。

ラーナー氏は「当社の要求は妥当であり、問題をうまく解決したいと思っている。Sureは業績好調なインシュアテック企業であり、当社はインシュアテックの大手ベンチャーキャピタルである。当社は必ずSureの役に立つことができる」という。

ラーナー氏は、IA Capitalが問題解決のために既存の株主に株式を売却したり、Sureに株式を買い戻させたりしない理由をたずねられると、同社が株式を売却する意思があると主張したが、まずは「適正価格を評価するための情報が必要だ」と述べた。

スラビン氏によると、Sureは最近、案件獲得においてBoostと2度対立したが、現時点ではどうなるかわからないという。受けた被害はあまりにも大きいようだ。さらにスラビン氏によれば、ラーナー氏は財務諸表から収益率を判断することができ、同氏の質問によってSureの契約規模を把握されてしまうと述べている。

そのため、すべての関係者に影響がおよぶ。

SureはこれまでにMenlo Ventures(メンローベンチャーズ)やff Venture Capital(ffベンチャーキャピタル)などから2310万ドル(約24億2000万)の資金を調達している。

一方Boostは、Coatue(コート)、Greycroft(グレークロフト)、Tusk Venture Partners(タスクベンチャーパートナーズ)などから1700万ドル(約17億8000万円)を調達している。

スラビン氏によると、IA Capitalが保有しているSureの株式は5%未満だという。ラーナー氏は、IA CapitalがBoostの株式をどれだけ保有しているかについての言及を避けた。

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画像クレジット:画像クレジット:Kim Schandorff

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(文:Connie Loizos、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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