動画の“グローバル総合代理店”目指すバベルが藤田ファンドらから3.4億円を調達

日本と中国において、動画メディア事業や動画広告プランニング事業を手がけるバベル。同社は3月11日、サイバーエージェント(いわゆる藤田ファンド)などを引受先とした第三者割当増資により、総額で3.4億円を調達したことを明らかにした。

バベルでは2017年8月にエンジェルラウンド(メルペイ取締役CPOの松本龍祐氏やユーザーローカル代表取締役の伊藤将雄氏、PKSHA Technology 代表取締役の上野山勝也氏など)、2018年2月にシードラウンド(East Venturesとジェネシア・ベンチャーズから6500万円を調達)の資金調達を実施していて、今回を含めた累計の調達額は約5億円になるとのこと。

組織体制の強化を進めながら、動画領域でのグローバル総合代理店を目指して事業を推進していくという。なお今回のラウンドに参加した投資家は以下の通りだ。

  • サイバーエージェント
  • DEEPCORE
  • 三菱UFJキャピタル
  • ジェネシア・ベンチャーズ
  • キャナルベンチャーズ
  • AGキャピタル
  • みずほキャピタル
  • メルカリ 共同創業者 富島寛氏

認知獲得から購入まで、一気通貫で動画広告をプランニング

先日、電通が毎年恒例となる「日本の広告費」の2018年度版を発表した。このデータを見るとインターネット広告費が5年連続で2桁成長を遂げ、いよいよ地上波のテレビ広告費と肩を並べる規模にまで拡大していることがわかる。

特に近年注目を集めているのが動画広告だ。昨年サイバーエージェントの調査データを紹介したけれど、動画広告市場は2018年から2024年にかけて約2.6倍まで広がると予想されている。これから高速大容量の5Gが実用化されていけばこの市場はさらに盛り上がっていくだろう。

もちろん動画の普及は広告に限った話ではない。近年日本でもTikTokを筆頭にショートムービー(短尺動画)が人気だ。スタートアップ界隈では「kurashiru」のdelyや「DELISH KITCHEN」のエブリーが大型のファイナンスを実施して注目も集めた。

今回紹介するバベルもこの“動画”領域に着目し、日本と中国を軸に動画メディア事業とクライアント向けの動画広告プランニング事業を手がけるスタートアップだ。

現在バベルでは工具・DIYジャンルの動画メディア「Yoitem」を始め、日中で6つのバーティカルメディアを運営。中国向けにはWeChatやWeibo、Bytedanceの運営するToutiaoなどほぼ全ての主要動画プラットフォームへコンテンツの配信と提携を行っている。

動画広告用のクリエイティブも含めると、直近1年間で配信してきた動画は累計で2500本以上。バベル代表取締役CEOの杉山大幹氏によると「(自社メディア)単体でマネタイズを目指すというよりは、各カテゴリ・ターゲットごとの反応や違いをリサーチする目的も兼ねている」という。

そこで培ってきたナレッジを活かして、クライアント企業の動画活用をトータルでサポートするのが総合動画広告プランニング事業。現在は中国へのマーケティングや、中国からのインバウンド顧客へのマーケティングを強化したい日本企業の支援が中心だ。

「内需だけではダメという危機感を持っているお客さんが多い。対中国の越境ECが近年伸びていることを始め、中国でのマーケティングを強化したいというニーズが強い一方で『現地の商慣習がわからない』『現地でウケるクリエイティブがわからない』という共通の課題がある。そこを動画の活用によって支援するのが自分たちの役割だ」(杉山氏)

特徴は商品の認知獲得フェーズから購入後までを一気通貫でカバーしていること。

たとえば工具やDIY領域に関するクライアントの場合、まずは自社で保有するメディアや協業関係にある他社メディア上で動画広告を配信し、ユーザーの認知や興味を獲得。そのユーザーにFacebookやTwitter上で別の動画を届け、理解を深めてもらう。

次のステップでは実際にこの両方の動画を視聴したユーザーのみをターゲティングし、Amazonや楽天といった購買サイトへの遷移を促進する。遷移先では購買を後押しする自社制作の動画広告を掲載。その後のシェアに繋がる仕掛けや購入後の体験を良くする工夫(商品の説明書にQRコードを入れておき、そこから動画版の説明書がみれるなど)も取り入れる。

このように一連の流れをまるっとプランニングし、動画制作も含めて提案・サポートしていくのがバベルのビジネスモデルだ。

「(既存のプレイヤーでは)タオバオなどすでに大量のユーザーがいるプラットフォーム上でキャンペーンの代行をしたり、広告を展開するところが多かった印象だ。中国では動画メディアがものすごく増えていて、ジャンルごとに何十個もあるような状況。その中には認知獲得に適している場所もあれば、興味関心を高めるのに向いている場所もある。クライアントの商品やニーズも踏まえて、それらを上手く組み合わせることでより効率的なマーケティングを実現できると考えている」(杉山氏)

共同創業者はメルカリ・エブリー出身、メンバーには映画監督も

バベルは2017年8月の創業。代表の杉山氏はEast Venturesを経てメルカリにジョインし、子会社のソウゾウで地域コミュニティアプリ「メルカリ アッテ」の立ち上げなどに携わっていた。

そんな杉山氏は自社の強みを「自社メディアと蓄積してきたデータ、そして質の高いクリエイティブを作れるチーム」と話すが、その鍵を握るのが同社のコアメンバー達だ。

共同創業者で取締役COOを務める北村功太氏はエブリーで初期からDELISH KITCHENのマーケティングやプロモーション、オペレーションに関わってきた人物。動画制作や動画マーケティング領域の幅広い知見を持つ。

動画クリエイティブの総合監督を担う執行役員の佐野智樹氏は、東野圭吾原作の映画やウルトラマンシリーズのメイン監督を務めた現役の映画監督・演出家。バベルには佐野氏を中心にTV番組やCMを制作してきたメンバーが集まっているそうで、動画系スタートアップの中でも少し異質な存在と言えるだろう。

また同社の事業においては中国の商慣習やトレンドへの理解が欠かせない。もう1人の執行役員である倉上剛氏は中国現地のアクセラレーターやスタートアップで約2年間働いた後、リサーチ担当としてバベルに参画。現在は中国統括として、現地での事業を牽引する。

今後はデジタル屋外広告の展開や定量分析ツールの開発も

今後バベルでは調達した資金を活用してさらに組織体制を強化する計画。中国向けの事業を一層加速させつつ、デジタル屋外広告(DOOH)などオフライン領域への進出や定量的な広告分析を行うためのBIツールの開発、動画クリエイティブを効率化するAIツールのR&Dにも取り組む。

杉山氏によると、日本ではデジタル屋外広告の活用があまり進んでいないそう。JapanTaxiとフリークアウト・ホールディングスの合弁会社でタクシー搭載のデジタルサイネージを手がけるIRISなど、少しずつ事例は増えているがこのあたりはまだまだ拡大の余地があるという。

バベルでもゆくゆくは東南アジアなど対象領域を広げながら、オンライン・オフライン問わず動画広告を通じてブランド企業とユーザーを繋ぐ「動画領域での“グローバル総合代理店”」を目指す方針だ。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。