医療現場のバラバラな書類からデータ構造を解明するMendelが約19.7億円調達

医療業界には膨大なデータが存在するが、データが非構造化されていたり、バラバラな場所に存在していたりするため、多くの場合その価値を理解することは難しい。

情報の内容を取り込み、整理するためのAIプラットフォームを構築しているスタートアップ企業Mendel(メンデル)は2021年6月上旬、その成長を継続し「臨床データ市場」を構築するための1800万ドル(約19億7100万円)の資金調達を発表した。またこの資金は、カリフォルニア州サンノゼとエジプトのカイロにある2つのオフィスで、技術面やサポート面での人材を増やすためにも使用される予定だ。

今回のシリーズAラウンドには、DCMを筆頭に、OliveTree(オリーブツリー)、Zola Global(ゾラグローバル)、MTVLPの他、以前からのサポーターであるLaunch Capital(ローンチキャピタル)、SOSV、Bootstrap Labs(ブートストラップラブズ)、UCSF Health Hub(UCSFヘルスハブ)の会長であるMark Goldstein(マーク・ゴールドスタイン)も参加している。

メンデルによると、研究機関や製薬会社の間では、患者の長期的な治療や経過をより良く理解するために、より優れたデータを収集することへの関心が高まっている。特により広範なユーザーにおいてのデータ収集に関心が高まっており、これは現在人の観察や試験の実施が困難だからという理由だけではなく、AIを使用して大きなデータセットを活用することで、より良い洞察を得ることができると考えられているからだ。今回の資金調達はこうした見解に基づくものだ。

これは例えば、具体的な病気の症状や病理の特定だけでなく、具体的な治療コースに対する反復的でより典型的な反応を積極的に特定する上で重要となる。

メンデルについては、2017年に、定期的に実施されているさまざまな臨床試験とがん患者をよりよくマッチングさせるための200万ドル(約2億1900万円)のシードラウンドを同社が受けた際の記事を書いた。この際のアイデアは、特定の臨床試験は特定のタイプのがんや患者のタイプに対応しているため、新しいアプローチを試したいと思っている人には、適しているアプローチとそうでないものがあるというものだった。

しかし結局のところ、マッチングアルゴリズムを機能させるために必要なデータに問題があったということが、メンデルのCEOであり創業者のKarim Galil(カリム・ガリル)博士によって明らかになった。

彼はインタビューでこう述べた。「トライアルビジネスを立ち上げようとする中で、もっと基本的な問題が解決されていないことに気づいたのです。それは、患者さんの医療記録を読んで理解することでした。それができなければ、臨床試験のマッチングはできません」。

「そこで当スタートアップは、少なくとも3年間は研究開発屋になって、その問題を解決してからトライアルを行うことにしました」と彼は続けた。

今日、非構造化情報を解析してより良い洞察を得ようとしているAI企業は数多くあるが、メンデルは、個別の業種や専門分野に特化したAI知識ベースを構築しているハイテク企業の代表格と言える(例として、GoogleのDeepMind(ディープマインド)も医療分野でのデータ活用を検討している主要なAIプレイヤーだが、別の業種なら法律や経済業界に注力しているEigenが挙げられる)。

自然言語を「読む」ことの問題は、医療の世界ではこれが想像以上にニュアンスに左右されるということだ。ガリル氏は、英語の「I’m going to leave you」というフレーズになぞらえて、これが例えば部屋を出て行くという意味と、人間関係から抜け出すという意味があると説明する。真の答えは ─ 人間である私たちは、真実でさえわかりにくいことがあるとわかっているが─ 文脈の中でしか見つからない。

ガリル氏は、医師とその観察記録も同様であると述べる。「行間には多くのことが隠されていて、問題は人(や状況)によって異なることもあります」。

この分野に取り組めば、利益を得られることがわかっている。

メンデルは、臨床環境とAIアルゴリズムの構築の両方において豊富な経験を持つチームによって構築されたコンピュータビジョンと自然言語処理を組み合わせて使用しており、現在、臨床データの抽出を自動化するツール、OCR、記録を共有する際に個人を特定できる情報を自動的に再編集・削除できる特別なツール、臨床データを検索するための検索エンジン、そして例の臨床試験と人とのより良いマッチングを可能にするためのエンジンを提供している。顧客は、製薬会社やライフサイエンス企業、リアルワールドデータとリアルワールドエビデンス(RWDとRWE)のプロバイダー、研究グループなどだ。

またメンデルは、今回の資金調達と同時に、多くの医療機関で利用されているオンラインファックスソリューション「eFax」との提携を発表し、医療の世界にはまだやるべきことがたくさんあることを強調している。

私の子どもたち(10代)は「Fax」が何であるかさえ知らないかもしれないが、ヘルスケアや医療の世界では、Faxは人と人との間で文書や情報をやり取りするための最も一般的な手段の1つであり、現在では業界の90%がFaxを使用している。メンデルとのパートナーシップにより、これらのeFaxが「読まれ」、デジタル化され、より広範なプラットフォームに取り込まれ、そのデータをより有用な方法で活用できるようになるだろう。

メンデルの役員であり、DCMのパートナーでもあるKyle Lui(カイル・ルイ)氏は、声明の中でこう述べている。「世界のヘルスケア業界がAIを活用することには大きな可能性があります。メンデルは、医療機関がAIを使用して臨床データを自動で意味がわかるものにするための、ユニークでシームレスなソリューションを生み出しました。私たちは、次の成長段階に向けて引き続きチームと協力していくことを楽しみにしています」。

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:Mendel資金調達医療人工知能コンピュータービジョン自然言語処理

画像クレジット:National Cancer Institute / Unsplash

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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