半導体投資の回復

[筆者: Ilgiz Akhmetshin]

編集者注記: Ilgiz AkhmetshinはSKTA Innopartnersで事業開発とマーケティングを担当している。IlgizはITと情報システムの分野で、さまざまな経験を積み重ねてきた。

これまでの数年間、半導体への投資は低迷していた。SGAの調査によると、2010年の北米、ヨーロッパ、およびイスラエルでは、半導体企業へのシリーズAの投資はわずか5件、出口はわずか10件だった。それまで半導体企業に投資してきたVCも、スケーラビリティが大きくて出口までの期間が短く、失敗のコストが低いソフトウェアのスタートアップに軸足を移してきた。

しかしながら、半導体投資は2013年に底を打ち、徐々に回復に向かっていると私は思う。CrunchBaseなど一般に公開されている取り引きデータを見ても、最近の投資トレンドには明るい材料がいくつか見つかる。

VCの集団脱走

資本費用の高騰

半導体スタートアップがVCにとって魅力薄になった理由はいくつかある。第一の理由は、コンセプトの段階から概念実証の段階へ進むために必要な資本の大きさだ。半導体製品は通常、試作品を設計してコンセプトをテストするまでに最大18か月/100万ドルを要し、最初のサンプルチップができあがるまでにさらに200万ドルを要する。

半導体スタートアップを起業するために必要とされる資本の額はVCたちに、緩和努力のありえない大きなリスクをもたらす。半導体開発はソフトウェアと違って、フェイルファスト(fail fast, 早い失敗, 失敗が早めにわかること)の機会がないからだ。この投資構造のゆえに、ベンチャーキャピタリストは半導体スタートアップを避けようとする。

買収による整理統合

半導体がVCにとって魅力がなくなった第二の理由は、半導体業界における大規模な整理統合だ。ほんの数社の巨大企業が残り、買収能力のあるそのほかの企業(出口機会)や、またスタートアップがスケールしていけるための大きな顧客は、もうほとんど残っていない。

たとえば、今の業界の最大の問題のひとつは、10ナノメートル未満の加工技術に必要な安価で信頼性の高いEUVがないことだ。優秀なソリューションを抱えたスタートアップが数社あり、それぞれが製品を市場に出すまでに200〜300万ドルを必要としていた。ところが、彼らにスケールアップの機会、出口の機会を与えうる顧客はASML一社しかなく、しかも同社はすでにCymerに投資していた。このような状況があるため、スタートアップが資金を調達することはきわめて難しいのだ。

また、設計ツールの費用も高い。メーカーはCadenceSynopsys、わずか2社だ。彼らは小さなスタートアップに対して一人一年あたり50000〜75000ドルのライセンス料を課金する。これによってスタートアップのバーンレート(資本燃焼率)が大きく上昇する。

販売サイクルが長い

販売サイクルが長いことも、半導体スタートアップが投資家にとって魅力薄である理由の一つだ。あるスタートアップが、あらゆる問題を解決克服して最良のチップを作ったとしよう。そのチップは、最終設計の完成から市場で一般的に入手可能になるまで、平均3年を要する。かつて優れた製品を作ったCalxedaは、この長い坂の途中で息切れ(資金切れ)し、落伍した。半導体スタートアップは市場からの需要の牽引力を早めに得ることができないため、投資家も初期の投資(育成的投資)をためらうのだ。

半導体スタートアップへの投資が戻ってきた

上で挙げたようなさまざまな問題があるにもかかわらず、半導体企業への投資は徐々に回復している。2014年の最初の6か月のデータを見ると、2013年に比べ、投資ラウンドの回数は30回から35回に増加し、投資を受けたスタートアップは27社から31社に増加した。

この程度の増加は統計的に意味がないかもしれないが、しかし真の変化はその細部にある。

2012年の前半における32回の投資ラウンドのうち、新しい企業への投資はわずかに2件だった。そのほかの投資は、すでに投資をされている企業への追加的ラウンドだ。2013年の前半も同じ傾向で、スタートアップへの投資はわずかに3件だった。ところが今年は、1月から6月までで、新しい半導体スタートアップへの投資が20件近くに達した。

またLPたちも半導体企業とコア技術への関心を新たにしているようだ。Walden Internationalは最近、半導体向けのファンドとして1億ドルを確保した。噂では、某ファウンドリ企業が、スタートアップインキュベータ/アクセラレータ事業の立ち上げを検討している、といわれる。

過去数年間、資本集約型のスタートアップにとって、投資の欠如が致命的な問題だった。しかしながら、投資家たちはこの分野に戻りつつあるようだ。このトレンドが今後も続き、コアテクノロジにおけるイノベーションに火をつけ、新世代のIoTデバイスを可能にし、業界を大きく変貌させるアプリケーションが作り出されることを、期待してやまない。


資料:

  1. CrunchBase Data Export
  2. GSA Capital Lite Working Group Update

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。