名刺の復活、株式公開はなぜ良いことなのか、BNPLはどこにでもある

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター「The TechCrunch Exchange」へようこそ。
みなさんこんにちは。昼食にグリルドチーズを堪能したあと、この記事を書きはじめている。だがアイスコーヒーをたっぷり用意したおかげで、食後の眠気をかわしながら仕事にとりかかることができているというわけだ。今回はまず、かなりすてきベンチャーラウンドについて話し、とある創業者に対象の産業分野の話を聞き、Marqeta(マルケタ)の収益レポートについてとりあげる。ということで、手元にはフィンテックとSaaSと公開企業に関するメモを用意している。では始めよう。

HiHello(ハイヘロー)の野心的なシリーズA

Manu Kumar(マヌ・クマール)氏のことはよくご存かもしれない。彼はK9 Venturesのベンチャーキャピタリストだ。しかし、彼は同時にスタートアップも立ち上げており、今回私たちが興味を寄せるのはそちらの方の取り組みだ。

HiHelloという名のそのスタートアップは、最近750万ドル(約8億2000万円)のシリーズA調達を行ったことを発表した。Foundryがラウンドを主導し、Lux Capitalが参加し、多くのエンジェルたちも小切手を切っている。ここまでは、ごく普通の話だ。しかし、このラウンドがHiHelloのストーリーのおもしろい部分というわけではない。おもしろいのは同社が作っているものだ。

ここで質問。名刺を最後に注文したのはいつだろう?率直に言って私は思い出せないが、最後の仕事からTechCrunchに戻るまでの間のどこかで、新しいカードを入手することをやめてしまった。それは、単に新型コロナの影響や、私が今サンフランシスコから遠く離れて住んでいることだけが理由ではない。実際あまり役に立っていないように見えたので、考えることもなかったのだ。

HiHelloは、インターネット用の未来の名刺といったものを構築している。クマール氏によれば、たとえデジタルの世界であっても、誰もが自分のアイデンティティを示し、自己紹介する方法を必要としているという。もちろん、予定された集会ならば事前に準備することはできるだろう、と彼はいう。しかし、どちらかといえば予定外に人と会うときには、自分のアイデンティティを伝える方法を持っていることは役に立つ。

ということで、HiHelloを使用すれば、一種の仮想名刺を自分で作成することができる。ただし1つだけではなく、ペルソナごとにそれぞれ1種類ずつ、複数の名刺を持てるようにしようというのがアイデアだ。クマール氏は、たとえば私がポッドキャスト(EQUITY)用に1つ、TechCrunch本体用に1つと複数の名刺を持つことができるという。もちろん仕事用ではない個人用名刺も作ることができる。

私は名刺は死んだと思っていたし、二度とそれを用意する必要はないと思っていた。クマール氏の意見は違う。彼は、HiHelloが事実上、コンテキストを中心とした個人的なソーシャルネットワークを生み出すことができる未来を見ているのだ。それは大胆で直感に反する主張だ。言い換えるなら、スタートアップの良いネタだ。

HiHelloは現在、消費者から収益を得ており、ビジネスプロダクトも持っている。このスタートアップがどれだけ早く成長できるか見守りたい。新しい種類のソーシャル製品に期待できる時が来たのだろう。

対象産業を選ぶ

Skyflow(スカイフロー)については何度か書いたことがある。共同創業者のAnshu Sharma(アンシュ・シャルマ)氏は長年の知り合いだ。最初に会ったのは彼がStorm Ventures(ストーム・ベンチャーズ)にいたときのことだ。その後、彼はエンジェルとして投資を続け、何社かを創業した。そのうちの1つがSkyflowだ。このソフトウェアスタートアップは、PII(個人情報)やその他の重要な情報を顧客に代わって保護し、安全な方法でアクセスできるようにする「デジタル金庫」を販売していて、情報セキュリティに全力を注げない企業が、侵害を回避できるようにしている。

このビジネスモデルは成功しており、Skyflowはかなりの速さで資本を調達している。シャルマ氏はこれまでのところ、顧客の広がりを喜んでいるようだ(シャルマ氏はまた、私が先日エッセイを書くのに役立ったメモを提供してくれた)。

そんなSkyflowが最近、ヘルスケア市場向けに特化した製品を発表した。会社の最初の立ち上げから追跡をしてきたので、私は興味を惹かれた。それで、私はシャルマ氏に電話をかけて彼の産業戦略の話を聞いた。彼がどのように追求していく市場を選んでいるのか、そして彼が次に会社をどちらへ連れて行くのかに興味があったのだ。

シャルマ氏は、彼の会社の計画は、複雑な市場でその技術を証明し、その後、時間の経過とともにその力を拡大することであるという。ということからヘルスケアを推進し、財務データの保管をSkyflowの中で扱うのだ。難しい問題を解決し、彼がいうところの複雑な顧客に販売することによって、Skyflowは他の人びとにその技術を提供するための信用を市場から得ることができる。

彼の視点からは、私たちはプライバシーを重視して、インターネットをゼロから「再配線」する必要があるように思えるのだ。初期段階から決済技術を取り込まなかったことがいかに間違いであったかを語るMarc Andreeseen(マーク・アンドリーセン)氏の言葉をシャルマ氏は引用しながら、ウェブの黎明期に2つのことが忘れられていたのだと主張する。そう、支払いプライバシーだ。

したがって、Skyflowの産業戦略は、可能な限り最も困難な問題(医療データはあらゆる種類の規則や規制に関係している)に取り組み、PIIがすべての人にとってより安全になるまで範囲を広げていくことなのだ。これは、インターネットがどこに向かっうかについての、基本的には楽観的な取り組みである。それはプライバシーが理屈の世界に留まりアドテックが永遠に残り続けるFacebookの世界ではなく、データがユーザー自身のものであり、安全に保存され外からは手の届かない世界のことだ。

Skyflowがこの先向かう環境での競争は厳しくなるだろう。しかし、個人にプライバシーを取り戻したいというスタートアップの、たとえ一部だけでも成功するならば、私は満足するだろう。

Marqetaの初の業績報告会

2021年見たIPOの波の中でやや目立たなかったのは、カード発行分野に携わるフィンテックユニコーンのMarqetaのデビューだった。同社は先週、初の公的業績報告会を行った。そこで同社CEOのJason Gardner(ジェイソン・ガードナー)氏と、その内容について電話で大いに話し合った。

簡単にいえば、Marqetaは第2四半期に急速に成長し、期待を軽々と上回った。しかし、同社は市場が予想していたよりも多くの金を失い、その結果IPO後の株価の値上がり分を事実上すべて失った。

電話からのメモをいくつか。第一に、ガードナー氏は公募価格を上回ったことに満足しているようだ。1年半にわたるIPOが終了した今、会社経営に打ち込めるチャンスを取り戻せたという。また、これまでは年に一度話していた取締役会での計画発表が、四半期報告書になったことが楽しかったという。より定期的な情報開示が会社の仕事に緊張感をもたらすからだ。

普段は非公開企業のCEOが、わずらわしい業績報告会などを心配している話を聞くことが多いので、公開企業の経営者が自分の会社の発展を褒めているのを聞くのは、少し新鮮だった。このことを聞いて、公開を好む理由は違っているもののBigCommerce(ビッグコマース)のCEOであるBrent Bellm(ブレント・ベルム)氏から聞いた公開に関するコメントを思い出した。

関連記事:ローコードの後に来るものは?そして、何故公開をする必要があるのか?

しかし、スタートアップの世界を理解する上でより重要だったのは、MarqetaのBNPL(後払い)市場に関するメモだった。Klarna(クラーナ)の台頭をきっかけに、Square(スクエア)がAfterpay(アフターペイ)を買収し、そして数多くのBNPLスタートアップのラウンドを経て、Marqetaが自社の成長市場としてBNPL(今すぐ購入、後で支払い)の分野に注目していることが私たちの関心をとらえた。BNPLが、カード発行プラットフォームの役に立つのは何故だろう?

要するに、Marqetaなどが顧客のために発行したバーチャルカードが、BNPLの取引を可能にするソフトウェアの一部として使用されることが多いことがわかったからだ。フィンテックの世界は、常に予想以上に相互につながっている。ということで、BNPLというカテゴリーを考える際には、その成長が他のどのような分野の成長と関わっているのかにも注目したいと思う。これにより、BNPLの波に乗ることができるスタートアップの数が増えるからだ。

最後にもう1つ。馴染みのない市場のダイナミズムの説明を得るには、公開されている企業のCEOに説明してもらうのが一番早い。ただ、このようなやり方の欠点は、もう少しで理解しかけていたのに、たった1つの重要な要素を見逃していただけという場合に、CEOがささやかな一言で気づかせてくれたときに、自分が理解できなかったことをとても残念に感じてしまうことだ。

とはいえ、実際には自分がとても愚かだという自覚はあるので、何かを知らないことで顔を真っ赤にすることはない。さて、今日はここまでにしよう。

ではまた、ワクチン接種が無事に終わりますように。

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:The TechCrunch ExchangeHiHello名刺新規上場SkyflowMarqetaBNPL

画像クレジット:Nigel Sussman

原文へ

(文: Alex Wilhelm、翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。