“商品サンプリング”の概念を変えるリアル版アドテク「aircatalog」、提供元が資金調達

街を歩いていると、女性に化粧品の試供品のようなものを配っている人の姿を見かけることがある。残念ながら僕自身はターゲット層ではないのか、無愛想に見えるのかティッシュくらいしか受け取ったことがないのだけれど。いわゆる「商品サンプリング」とよばれるものだ。

このサンプリングという仕組みには、まだまだ改善できる余地が残されている。今回紹介する「aircatalog(エアカタログ)」は、テクノロジーを活用することでサンプリングが抱える課題の解決を目指すサービスだ。

同サービスを提供するキャトルは2月28日、ハックベンチャーズ名古屋テレビ・ベンチャーズ、元スカイプジャパン代表取締役で現ATOMICOパートナーの岩田真一氏らを引受先とした第三者割当増資により、総額5250万円を調達したことを明らかにした。

合わせてアドテクノロジー開発やインターネットマーケティング支援を行うフルスピードと戦略的業務提携契約を締結したことも発表。デジタル広告と商品サンプリングを組み合わせた体験誘導型プロモーション「AD OFFICE(アドオフィス)」を3月から開始するという。

サンプリング商品と配布場所をマッチングするリアル版DSP

aircatalogはサンプリング商品を持つメーカーと、配布場所となる施設をマッチングするサービスだ。

化粧品や健康食品などを配りたいメーカーの担当者は、aircatalog上で年齢や性別、職業などターゲットの情報を登録する。一方で商品を配布したいホテルやフィットネスジムといった施設も同様に、サービス上に普段訪れる顧客の属性を入力。

これらのデータによる最適なマッチングを通じて、効果的なサンプリングの仕組みを実現するのがaircatalogの目的だ。

流れとしては登録したデータを基に、施設側へマッチしそうな商品がレコメンドされる。施設側の担当者は自分たちで配布したい商品を選び申請。メーカー側が承認した場合にはマッチング成立、商品が施設へ届きサンプリングが開始する。

「サンプリングの概念を変えたいという思いが強い。従来の仕組みでは、いわゆる『商品のばらまき』が発生したり、そもそもきちんと配られたのかがメーカー側からわかりづらかったりといろいろな課題があった。『先が見えない』という声も聞いたことがあり、(メーカーからは)あまりイメージが良くなかった」(キャトル代表取締役の横町享之氏)

横町氏の話では、街中でサンプリング商品をもらった女性の8~9割は試供品を捨てているそう。その一方で、まずは試供品を使って良かったら購入するという女性も多いという(これは同社が限定的な人数を対象に行った調査結果のため、あくまで参考程度ではあるが)。

このギャップを埋めることで、つまりサンプリングのミスマッチをなくし「商品体験をして欲しい人、したい人にきちんと商品が届く仕組み」を構築することで、サンプリングの可能性はもっと広がるのではないか。そんな思いから生まれたのがaircatalogだ。

それならばメーカーと商品を試したい個人を直接つないでしまう方が効率的なんじゃないだろうか、そう思って聞いてみると「個人を直接マッチングすると『サンプルゲッター』と呼ばれる、実際に商品を買う気はないけど試供品だけ試したい人たちが群がってきてしまう。最近では集めてきた試供品をフリマサイトなどで売る人もでてきているほど」(横町氏)だという。

この「サンプルゲッター問題」をなくすためにも、直接個人へ商品を送るのではなく、施設を間に挟むのがポイントなのだそうだ。

顧客の満足度向上や社員の福利厚生に活用

サービスのリリースは2017年7月。まだ開始から半年ほどではあるが、すでに15000の施設・店舗が配布先として登録。マッチングの数も増えてきているという。

たとえば美容家電メーカーとホテルの事例だ。両社がタッグを組み、ホテルの宿泊客が人気美顔器を体験できるレディースプランを設計。メーカーとしては使って欲しい層のユーザーに美顔器を試してもらうことができ、ホテルとしても宿泊客の満足度向上に活かせる。

「施設側の担当者も、サンプリングと聞くと面倒なイメージを持つ人が多い。ただ新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客の満足度を上げる目的でも活用できる『販促ツール』ならば、積極的に試したいという声がほとんど。それが結果的にメーカーの要望を満たすことにも繋がる」(横町氏)

ユニークなものだと、新聞配達所や一般企業が施設としてメーカーとマッチングが生まれている。たとえば主婦層に商品を試してもらいたい飲料メーカーと新聞配達所をマッチング。メーカーが自分たちでリーチするのが難しい層に対してアプローチする手段となる。

企業の場合も同様だ。ビジネスマンをターゲットにしたコーヒーやビール、エナジードリングを企業に試供品として提供する。企業側にとっては無料の福利厚生ツールとして活用できるため、評判も良いという。

顧客の満足度向上や社員の福利厚生に活用

企業向けにサンプリング商品を提供するという点に関しては、より一歩進んだプラン「AD OFFICE(アドオフィス)」を3月から始める予定だ。

これはIPアドレスを活用して特定の企業にディスプレイ広告を配信(オフィスターゲティング)する技術を持つ、フルスピードとタッグを組んで行うもの。サンプリング商品を提供した企業に対して、その商品のディスプレイ広告を配信することで商品の認知や購買を訴求する。

対象となる企業の社員からすると、今しがた飲んでいたコーヒーの広告がピンポイントで表示されるようなものだから、少しビックリするかもしれない。とはいえ従来のサンプリングの仕組みではできなかった新しい取り組みだ。

キャトル代表取締役の横町享之氏

横町氏は美容師としてキャリアをスタートした後、ぐるなびやアイスタイルで広告に携わり、2014年に起業したというユニークな経歴の持ち主。

前職でサンプリングに関わることもあり、その際にさまざまな課題に直面したことがaircatalogにつながっているそうだ。

テクノロジーによって日々進化し続けているデジタル広告のように「リアルプロモーションももっと科学的にやれる部分や、可視化できる部分は多い。『リアルDSP』のような形で、サンプリングももっと進化できる」と横町氏は話す。

同社では今回調達した資金を元に組織体制を強化。施設データベースの拡充やマッチングアルゴリズムの改善などを通じて、サービスの拡大を目指すという。

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TechCrunch Japan

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