地元の独立系書店を支えるBookshop.orgでの売上好調、Amazonとの競う未来を見据える

もしグーテンベルクが生きていたら、多忙なエンジェル投資家になっていただろう。

2020年の新型コロナウイルス(COVID-19)によるロックダウンの最中に書籍の売り上げが急増したことを受けて、この控えめな書き言葉が突如としてVCや創業者たちの間で脚光を浴びるようになった。アルゴリズムを使ったレコメンデーションエンジンのBingeBooks、ブッククラブスタートアップLiteratiやその名のとおりのBookClub、ストリーミングサービスのLitnerdなど、新規プロダクトや資金調達の途切れのない華麗な行進を私たちは目にしてきた。またGloseLitChartsEpicなども、イグジットを果たしたか、そのポテンシャルを有している。

しかし、多くの読者の想像力を捉えたのはBookshop.orgであり、オンラインストアを構築してAmazonのジャガーノート(絶対的な力)に対抗するための、地元の独立系書店にとって頼りになるプラットフォームとなっている。新型コロナのパンデミックが広がり始めた2020年1月にデビューを果たした同社は、読書エコシステムに深い愛情を持つ勤勉なパブリッシャーである創業者のAndy Hunter(アンディ・ハンター)氏のヘッドラインとプロフィールを急速に蓄積していった。

1年半が過ぎた今、状況はどうなっているだろうか。幸いなことに、書店を含む小売店に顧客が戻ってきているにもかかわらず、Bookshopは低迷していない。ハンター氏によると、8月の売り上げは7月に比べて10%増加しており、2021年は2020年と同程度の売り上げを達成する見込みだという。同氏は5月のBookshopの売り上げが前年同月比で130%増加していることを挙げ、その予測値を説明した。「当社の売り上げは加法的であることが示されています」と同氏は述べている。

Bookshopのプラットフォーム上には現在1100のストアがあり、3万以上のアフィリエイトが本のレコメンデーションをキュレートしている。これらのリストはBookshopのオファリングの中心となっている。「こうしたレコメンデーションリストは、書店だけでなく、文学雑誌、文学団体、本愛好家、図書館員などからも得られています」とハンター氏はいう。

公益法人であるBookshopは、すべてのeコマース事業と同様、在庫を移動することで収益を上げている。しかし差別化要因として、アフィリエイトやプラットフォームセラープログラムに参加している書店への支払いがかなりリベラルであることが挙げられる。アフィリエイトには売り上げの10%が支払われ、書店自身はプラットフォームを通じて得た売り上げからカバー価格の30%を受け取る。さらに、Bookshopのアフィリエイトと直販の10%が利益分配プールに入れられ、それが加盟書店と共有される。同社のウェブサイトによると、Bookshopはローンチ以来、書店に1580万ドル(約17億2700万円)を支払っている。

同社は最初の1年半で多くの開発を行ってきたが、次の展開はどのようなものになるのだろうか。ハンター氏にとって鍵となるのは、可能な限りシンプルな方法で顧客と書店の両方を魅了し続けるプロダクトを構築することだ。「オッカムの剃刀(『必要なしに多くのものを定立してはならない』という原則)を堅持します」と同氏は自身のプロダクト哲学について語っている。すべての機能について「エクスペリエンスへの付加が行われますが、顧客を混乱させることはありません」。

もちろん、言うは易く行うは難しではある。「私にとって目下の課題は、顧客に対して圧倒的な魅力を放ちながら、書店が当社に求めていることすべてを実現するようなプラットフォームを作り、最高のオンライン書籍購入および販売エクスペリエンスを創出することです」とハンター氏。このことが実際的に意味するものとしては、(書店での買い物のような)プロダクトの「人間味」を維持しつつ、書店がオンライン上での優位性を最大化するのを支援する、というものであろう。

Bookshop.orgのCEOで創業者のアンディ・ハンター氏(画像クレジット:Idris Solomon)

例えば、同社は書店と協力して、検索エンジン発見のためのレコメンデーションリストの最適化に努めているとハンター氏は説明する。SEOは、従来の小売業界で身につけるようなスキルではないが、オンラインで競争力を維持する上では欠かせないものだ。「Googleで第1位にランクインするような本のレコメンデーションを生み出すブックリストを当社のストアたちはいまや有しています」と同氏はいう。「2年前であれば、こうしたリンクはすべてAmazonのリンクだったでしょう」。ハンター氏によると、同社はEメールマーケティング、顧客とのコミュニケーション、そしてプラットフォーム上でのコンバージョン率の最適化に関するベストプラクティスも積み重ねているという。

Bookshop.orgは何万ものリストを提供しており、アルゴリズムによるレコメンデーションよりも「人間的」なアプローチで本を探すことができる

顧客に向けては、Bookshopは今後、シリコンバレーのトップ企業の間で人気のアルゴリズムによるレコメンデーションモデルを避け、それよりもはるかに人間味のあるキュレーションのエクスペリエンスを提供しようとしている。何万ものアフィリエイトを擁していることから「活気あふれるミツバチの巣のような一大拠点です【略】本を取り巻く多様なエコシステムを構成する機関や小売業者も存在しています」とハンター氏。「彼らは皆それぞれの個性を持ってますので、それを発揮してもらいたいと考えています」。

やるべきことはたくさんあるが、暗い雲が地平線を脅かさないということでもない。

Amazonはもちろん、同社にとって最大の課題だ。Kindleデバイスの人気は非常に高く、これによりAmazonは物理的な販売では得られない強固な囲い込みを手に入れたとハンター氏は指摘する。「DRMおよびパブリッシャーとの契約がありますので、電子書籍を販売してそれをKindleで読めるようにすることは非常に困難です」と同氏は述べ、その結びつきをMicrosoftがWindowsにInternet Explorerをバンドルしたことになぞらえた。「法廷に持ち込まれることになるでしょう」。人々がKindleを好んでいることは事実だが「Amazonを気に入っているとしても【略】健康的ではないことを認識する必要があると思います」。

著者はハンター氏に、本の分野で資金提供を受けるスタートアップの数や、その資金がBookshopを締め出す可能性について懸念しているかどうかを尋ねた。「ブッククラブスタートアップは、本、そして本に関する会話を最大のオーディエンスの前に置くことで成功を収める」とハンター氏は考えている。「そうすれば誰もが成功するでしょう」。しかし「破壊」へのフォーカスに憂慮を示し「既存の独立系書店やコミュニティのメンバーと提携する形で成功することを願っています」と語った。

結局のところ、ハンター氏の戦略的な懸案事項は競合他社に向けられたものではなく、本が廃れているかどうか(廃れてはいない)という問題でもない。より具体的な課題は、現在のパブリッシングエコシステムが、一握りの本だけが成功することを保証しているという点にある。

「ミッドリスト問題」とも呼ばれるが、ハンター氏は最近の本の大ベストセラー体質を案じている。「1冊の本がほとんどの酸素を吸い取り、話題やトップ20の本の大半を吸い上げてしまう一方、若い作家や多様性のある声による優れた革新的な作品は、それに値する注目を集めることができません」と同氏は述べている。常に読者を最大の勝者に押しつけるレコメンデーションアルゴリズムではなく、リストによる人間的なキュレーションがより活気ある本のエコシステムの維持に役立つことを、Bookshopは期待している。

Bookshopが創業3年目を迎えるにあたり、人間に焦点を当て、店舗での豊富なブラウジングエクスペリエンスをオンラインの世界にもたらしていきたいと、ハンター氏は考えている。究極的には、それは志向性に関するものである。「どこで、どのように買い物をするかについての小さな決断のすべてを伴いながら、私たちは自分たちが生きる未来を創造しているのだということ、そしてそうした決断をどのように熟考するかについて、強く意識し続けるべきだということを、人々に理解してもらいたいと心から願っています」と同氏は語る。「Bookshopが単なる市民的な義務を果たす場所ではなく、楽しく買い物ができる場所であることを私は望んでいます」。

画像クレジット:MirageC / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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