契約書を“条項単位で”ナレッジ化、法務業務を効率化するエディタ「LAWGUE」が8000万円を調達

「エディタを作るって、何か夢があるなと思ったんです」——法務文書にフォーカスしたエディタ型ナレッジ管理システム「LAWGUE」を開発する日本法務システム研究所(JLSI)の代表取締役CEO・堀口圭氏は、自身が法務×エディタの切り口でプロダクトを立ち上げた理由についてそう話す。

JLSIは2018年設立のリーガルテックスタートアップだ。もともと弁護士として法律事務所で働いていた堀口氏が、法務の仕事の課題をテクロジーで解決するべく創業した。

最近はTechCrunch Japanでも弁護士資格を持つ起業家の手がけるプロダクトを取りあげることも増えてきているけれど、この領域は特にWord文化が強いこともあり、JLSIのように文書を編集するためのエディタ自体をがっつり作り込もうとしているスタートアップは珍しいかもしれない。

そのJLSIは12月18日、プロダクトの機能拡充や事業拡大に向けて弁護士ドットコム、UB Ventures、フューチャーベンチャーキャピタル、マネックスベンチャーズ、KVPを引受先とする第三者割当増資により総額約8000万円を調達したことを明らかにした。

契約書を条項ごとに分割してナレッジ化

同社が手がけるLAWGUEは冒頭でも触れた通り、法務向けのエディタサービスだ。エディタとは言え契約書を中心とした法務文書を作成するだけでなく、その際のコミュニケーションを一元化する機能や作成した文書を管理するストレージのような機能も備える。要は法務文書の作成から管理までを一箇所で効率的に、スピーディーに行えるサービスだ。

ユーザーはまず過去に作成した契約書のWordファイルをドラッグ&ドロップでシステムに取り込むことから始める。するとLAWGUEが独自のアルゴリズムを基に契約書を“自動で条項ごとに分割”し、各条項ごとに引き出して使えるような形で保存する。契約書という大きな塊を1つ1つのパーツに自動で分けてくれるようなイメージだ。

こうしてデータを取り込んだら参考になりそうな文書をフォーマットとしてエディタ上で文章を編集したり、順番を入れ替えながら契約書を作っていくのだが(ゼロベースで作成することも可能)、その際にLAWGUEの特徴的な機能の1つでもある「類似条項の検索機能」が役に立つ。

その名の通り、この機能は選択した条項と類似する条項をAIが契約書データベースの中から引っ張り出してきてくれるというものだ。ユニークなのは契約書単位ではなく、条項単位であること。仮に自分が参考にしたい条項がどの契約書に書かれているかすぐにわからなかったとしても、LAWGUEの場合は簡単に探し出すことができる。

堀口氏によると、法律事務所で勤めていた際に「契約書を作るにあたって、その前段階となるテンプレートの探索(過去に作成した類似する契約書)にほとんどの時間を使っていた」そう。自社の契約書をデータベース化して便利に使いこなせるシステムがあれば業務を効率化できると考えたことが、起業してプロダクトを作った背景だ。

それも踏まえてLAWGUEでは過去の契約書や条項をナレッジとしてどんどん蓄積しながら、必要に応じてすぐに参照できる仕組みを構築した。堀口氏の話ではExcelで条項集を作っているような法律事務所などもあるようで、条項ごとに管理・利用できる部分には明確なニーズがあるそう。契約書を取り込むだけで使い勝手の良い条項集が自動で生成されるのはLAWGUEのウリだ。

条番号の自動調整や表記揺れのアラート機能も搭載

また「エディタ型ナレッジ管理システム」という打ち出し方をしている通り、LAWGUEではエディタ部分の機能にもこだわっている。

契約書を条項単位で管理することで「条番号を自動で変える」機能のほか、インデントの自動補正や表記揺れのアラート機能を搭載。たとえばWordで契約書を作っていると条番号がズレたり、変な箇所で改行が入ってしまったりすることもあるが、LAWGUEの場合はそういった細かい修正作業を自動化している点がポイントだ。

そのほか従来はWordとメールを行き来して行なっていたような契約書に関するコメントを一元化する機能やバージョン管理機能も導入。コメントも履歴管理も“条項ごと”に行うことができるので、ピンポイントで論点を整理できるのはもちろん、過去の条項を参照する際にもそれぞれどのような議論を経て今の内容に落ち着いているのかを簡単に振り返ることもできる。

LAWGUEは前身となる「COMMONS PAL」からのアップデートを経て、月額制のSaaSプロダクトとして2019年5月にリリース。現在までに大手企業・官公庁を中心に200社程度から問い合わせを受けている状況で、現在は数十社がすでに利用を始めているという(トライアル含め)。

今後は規程などで法令に抵触するものをアラートする機能や定義漏れなどをチェックするプルーフリーディング機能のほか、文書作成に関するタスク管理機能などを追加する計画。過去のデータと照らし合わせ、不足している可能性のある条項をサジェストする仕組みなども取り入れていく予定だ。

また弁護士ドットコムのクラウドサイン事業やUB Venturesの親会社であるSpeeda事業とはノウハウ習得や各社とのマーケティング連携による事業展開も計っていくという。

今回UB Ventures代表取締役社長の岩澤脩氏にも少し話を聞くことができたのだけど「プロダクトが非常にしっかりしていて痒いところに手が届き、顧客からもそこに魅力を感じてもらえていること」が出資に繋がったことに加え、グローバルでは法務に限らずバーティカル軸で無駄を排除したエディタを手がけるプレイヤーが徐々に注目を集め始めていることもあり、その観点でも期待しているそう。

デザイン領域における「Canva」やプレゼン資料作成における「Beautiful.AI」がその代表格だが、まだ契約書を含めた法務文書用のエディタとして広く浸透しているものはないので(アメリカとイギリスで1社ずつ出てきているそう)、今後LAWGUEがどのように広がっていくかに注目したい。

日本法務システム研究所のメンバー

投稿者:

TechCrunch Japan

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