宇宙船や先進的製造の未来をより良くより早く実現する工場を建設するHadrian

もし、新しいスタートアップHadrian(ヘイドリアン)の8人の仲間がこの道を突き進めば、次の10年で製造業界は一変する。

少なくともそれが、サンフランシスコに2020年に創設されたばかりのこのスタートアップの目標だ。彼らは、人工衛星、宇宙船、先進エネルギー技術を開発する企業が思い描く未来を、より良くより早く実現できる先進製造技術の新モデル構築を目指している。

「私たちの仕事は、世界で最も効率的な宇宙防衛産業のための工場を提供することだと考えています」とHadrianの創設者Chris Power(クリス・パワー)氏は話す。

パワー氏によれば、創設当初はロケットの部品を製造する工場を建設しようとしていたという。しかしその事業には、製品の製造に特注部品を必要とするすべての企業にも対応できる可能性が含まれていた。

「今がどれほど最悪で、20年後にはどうなるかをお話しましょう。現在、SpaceX(スペースエックス)もLockheed Martin(ロッキード・マーティン)も、宇宙防衛産業のあらゆる企業は部品と製造を全国の小さな工場に発注しています。それらはめちゃくちゃ高価で、信頼性が低く、顧客からは一切見えません」とパワー氏。「これが宇宙防衛関連の製造業者に、設計段階での大きな問題を引き起こしています。なぜなら、リードタイムが非常に長く、作り込みにかかる時間がさらに長いからです。ソフトウェアの関係上、製品の作り直しは20日に1度だけ可能だとしましょう。ロケット製造の場合、その作業工程表の60パーセントは待機時間です。そのため3カ月前に送られてきた部品のせいで、打ち上げやら何やらの工程が大幅に遅れます。つまり、マクドナルドの経営者が、ハンバーガーやポテトの納品業者からいつ商品が届くかを教えてもらえない状態と同じです」。

航空宇宙、防衛、先進的機械の企業に部品を納入する業者にとって戦略がどれほど重要であるかは、言葉では言い尽くせない。他ならぬ製造業の権威Elon Musk(イーロン・マスク)氏もこうツイートしていた。「工場が製品だ」と。米国を卓越した製造業の中心地として返り咲かせるためは、地政学的要素もまた言葉では言い尽くせないほど重要だと、Hadrianに投資しているLux Capital、Founders Fund、Construct Capitalは語っている。それが、この非常に若いアーリーステージの企業に950万ドル(約10億円)を投入した理由にもなっている。

「米国は90年代初頭に大きな戦略的過ちを犯しました。それが全国の製造業エコシステムを完全に荒廃させてしまったのです」とFounders Fundの会長Delian Asparouhov(デリアン・アスパロホフ)氏は話す。「この悲惨な状況から抜け出す唯一の方法は、航空宇宙産業と防衛産業のサプライチェーンへのもっとも基礎的なインプットを考え直し、金属部品をすばやく製造して、許容性を高めることです。今現在、米国でもっと革新的な企業であるSpaceXも、引退間近の機械工のネットワークに依存して宇宙品質の金属部品を作らせています。テック業界で、この問題を重視している者はいません」

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Elon Musk「工場が製品だ」

パワー氏は、前に務めていたブルーカラーの顧客に人材管理ソフトウェアを販売する会社Ento(エント)で、その問題を実感することになった。職人の高齢化の問題と、製造業者の独自の技術スタックのほぼあらゆる側面をアップグレードする必要性を感じたのは、そのときだった。「工業分野にテクノロジーを適切に導入する方法は、企業にソフトウェアを売ることではなく、ソフトウェアとともに工業という業種を一から作り直すことだと悟りました」。

当初、Hadrianは宇宙産業に全精力を傾けていた。そこでは特に部品製造の問題が深刻だったからだ。しかし、同社が構築を目指す製造能力は、高度な技術で部品を製造する産業全体に、広く関わるものでもあった。

「製造の需要は、SpaceXやBlue Origin(ブルー・オリジン)といった大手から、ロングテールのずっと末端のAnduril(アンデュリル)、Relativity(レラティビティー)、 Varda(バーダ)に至るまであります」と、Lux Capitalの共同創設者Josh Wolfe(ジョシュ・ウルフ)氏はいう。「そのほとんどが、家族経営の工場を利用しています。そしてそうした工場は、恐ろしいまでに非効率です。一貫性がなく、信頼性も低い。ソフトウェアによる自動化とハードウェアを用いることで、製造工程のあらゆる非効率なステップを排除できます。価値の創造は、無駄の削減だという考え方が私は好きです。見積もりから、予定組み、入札、計画、プログラミングに至る製造業の日常的な作業は、その1つ1つで数時間、数十時間、数日、数週間という時間がかかります。それを数分で済ませられるようになれば、悩みは解消です。Hadrianは、新しい、そして航空宇宙防衛産業に明確に特化した企業のための、最先端の選択肢となります」。

パワー氏は、まずは宇宙防衛産業全体の65パーセントをカバーする製造施設のネットワーク作りを思い描いている。ゆくゆくは95パーセントにまで拡大したい考えだ。すでに、最大手クラスのロケット打ち上げ企業や衛星製造企業数社から、数百単位の製造を持ちかけられているとパワー氏はいう。その一部の企業は、偶然にもConstruct、Lux、Founders Fundのポートフォリオに入っている。

これは、米国の製造業の雇用を浮揚させる新しい方法でもあると、パワー氏は考えている。「宇宙防衛産業の製造職の給与は、簡単にGoogleのソフトウェア技術者と同じぐらいの高給に引き上げることができます」と彼はいう。理想的には、20世紀の自動車産業が高待遇のユニオンジョブ(労働組合を通して与えられる仕事)をもたらしていたように、21世紀の製造職も高い給与が得られる道筋をつけたいとHadrianは願っている。

「まだ何もできていません。私たちの新しいテクノロジーと新しいシステムの訓練を受けた後に雇用されべき人たちが膨大に存在することに注目すれば、人材の問題や訓練の問題も、私たちの事業の成長の一部です」。

Axiomが計画している商用宇宙ステーションの想像図

カテゴリー:宇宙
タグ:Hadrian製造業工場

画像クレジット:NASA / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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