実店舗での“対面申込み”を電子化する「クラウドサインNOW」公開、データ活用で店舗改革促進へ

「これまでクラウドサインに力を入れて取り組んできたが、その一方で休日に役所や銀行、美容院に行けば未だに申込書や来店カードを紙で書いている。これは今後クラウドサインを5年、10年やったとしても変えられるものではなく、別のプロダクトが必要だと感じたのが最初のきっかけだった」

そう話すのは弁護士ドットコムの取締役でクラウドサイン事業部長も務める橘大地氏だ。ここ1〜2年で日本発のリーガルテックプロダクトを紹介する機会も増えてきたけれど、中でもクラウドサインは国内におけるパイオニア的な存在の1つだと言えるだろう。

Web完結型のクラウド契約サービスとして2015年10月にローンチされて以降、バージョンアップを重ねながら着実に規模を拡大。現在は導入企業数が5万社を超え、累計の契約締結件数も70万件を突破するほどに成長している。

そんなクラウドサインが次に取り組むのは「対面での申込み」のアップデート。本日9月24日に公開した「クラウドサインNOW」を通じて今も紙が主流となっている対面申込みをデジタル化し、もっと便利にしようというチャレンジだ。

具体的にクラウドサインNOWはどんなものなのか。橘氏が「タブレットアプリとCRMを合わせた総称のようなもの」だと話すように、このプロダクトには大きく2つの側面がある。

1つは対面申込みを紙からデジタルに変えるタブレット用のアプリだ。たとえばフィットネスジムや結婚式場、不動産店舗、エステサロンなどで記入する来店カードや申込書類。もしくは飲食店やアパレル店舗での雇用契約書など、今まで紙ベースで行なっていたものをタブレット上で完結できるようにする。

仕組み自体はとてもシンプル。これまで紙の申込書にペンで記入していたことを、タブレットとタッチペンに変えるだけだ。入力した文字は自動でCRM上に同期される仕様のため、申込み内容のデータ化作業や紙の保管、郵送の手間などの負担がなくなる。本人確認書類もカメラで撮影するだけで良く、これまでと同様の申込書や来店カードのフォーマットをそのまま使えるので導入のハードルも高くない。

エンドユーザーは初来店時と正式申込時に同じような情報を記入する手間を避けられるほか、捺印の代わりに電子署名とタイムスタンプを使って電子契約ができるので「印鑑を忘れてしまい再来店しなければいけなくなった」なんてこともなくなる。

そしてもう1つが、データ化した申込み内容を管理する店舗用のCRMだ。アプリを通じて吸い上げられてきたデータを基に顧客種別やエリア、店舗ごとに売上分析をしたり、マーケティング施策に活用したりすることが可能。橘氏によると現在はSalesforceのPaaSをベースに開発しているため、ダッシュボードやChatterなどSalesforceに搭載されている基本的な機能も使える。

冒頭でも触れたように、もともとクラウドサインNOWの構想は橘氏がエンドユーザー側の視点で感じた対面申込みの課題を解決するためのものだった。ただ実際に店舗側にヒアリングをする中で、もっと根深いペインにたどり着いたのだという。

「店舗では紙の申込み書に記入された内容をデータ化するために遅くまで入力作業をやっている。この業務の負担が大きいため、結果的に多くの店舗でしっかりとデータ化できていないのが現状。本部でデータが見えないため現場の店長の勘や経験、根性に依存するしかなく『ソリューション=店長』となってしまっている」(橘氏)

クラウドサインNOWはこれまでデータを十分に活かせなかった店舗が“データドリブンで経営”できるように支援するサービスとも言えるが、これは決して真新しい概念というわけではない。それこそSalesforceを始め顧客データの管理・活用に使える便利なサービスはすでにいくつもある。

「(クラウドサインNOWのCRM機能でできるようなことは)既存のプロダクトでもできたが、実店舗においてはあまり普及してこなかった。それは結局データ入力の部分が大きな課題になっていたからであり、解決手段となるアプリが重要。クラウドサインNOWではタブレット上にユーザーが書いた文字をAIがデータ化し、CRM上に反映する。店舗のオペレーションは今までとほぼ変わらないのに自動でデータ化できるということがポイントだ」(橘氏)

AIの文字認識についてはサードパーティのアプリを使っているそうだが、クオリティ的に実用段階にあるレベルとのこと。エンドユーザーにとっても「記入スピードが半分くらいの時間になる」(橘氏)ほか、いずれは免許証の写真を取るだけで記載のある事項が自動入力されるような機能の実現も目指したいという。

プライシングは1社あたり月額5万円の固定料金に加えて1ID(端末)ごとに8000円。クラウドサインは業界問わず使われる“ホリゾンタルSaaS”だが、今回のクラウドサインNOWは店舗向けの“バーティカルSaaS”として現場の課題解決を図る。

「顧客の情報を分析する場合、今まではPOS情報が軸になっていた。ただPOS情報は購入してくれた人の履歴で、それはデータのごくごく一部にすぎない。実は購入に至らなかった人の情報(失注データ)こそ分析する価値があり、そういったデータを手間なく蓄積し経営に活かせるようにすれば価値は大きい」(橘氏)

橘氏の話では正式ローンチに先駆けすでにフィットネスクラブなど複数社で受注済みとのこと。ウェディング業界や英会話スクール、学習塾などいろいろな分野から引き合いもあり、手応えも感じてようだ。

今後の構想としては「ジムの入退館時に会員証をピッとゲートにかざせばそのデータがCRM上に自動で反映される」といったように、来店や購入情報とコネクトして失注情報から受注情報、受注してからの課金額などを全て統合して管理できるプラットフォームへと進化させていきたいという。

「クラウドサインの派生事業と思われるかもしれないが、全く別の新規事業であり事業部も分けている(来店カード・申込書のデータ化やその活用という)店舗が抱える課題を解決するプロダクトはこれまでなかったと思っているので、大きなチャレンジになる。ベンチマークはAirレジやPayPay。そのくらいの規模で使われるサービスを目指したい」(橘氏)

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TechCrunch Japan

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