小さな企業自らが買収に向かうべきシグナルとは

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【編集部注】著者のChelsea Stoner氏はBattery Venturesのジェネラルパートナーである 。

M&Aが、特にソフトウェア企業のものが、ホットである:大手の未公開株式投資会社たちは、2016年の前半だけで270億2200万ドルの価値のある170のソフトウェア企業への投資を現金で行ったし、悩めるYahooはVerizonによって48億ドルで救い上げられ、Microsoftはプロフェッショナル向けネットワーキングサイトのLinkedInを驚きの260億ドルで買収することを発表した。その取引は、マイクロソフトは自社製品を強化するために、レジュメデータをどのように活用するのだろうか、という多くの憶測を呼び起こした。

しかし、ソフトウェアのM&A狂騒曲はその一方で、小さなハイテク企業がその成長を、高度で戦略的なアドオン的買収により、いかに強力に加速できるかという点にも光を当てている。

筆者は中堅テクノロジー企業に焦点を当てたソフトウェア投資家として、このセグメントにいる会社が新しい方向へ成長する必要があることを示すシグナルに気が付いていない多くのビジネスオーナー達に出会った(シグナルに気が付いているMicrosoftの幹部たちとは好対照である)。それは主として、他の会社を買収することによって、自身のプロダクト系列の穴を埋めることができるとか、補完的なプロダクトやサービスを提供することができるという方向への成長である。こうしたシグナルを見出すことには、単なるスマートなリーダーシップ以上の意味がある。そのことにより成長の機会を見出し ‐ そして、より大きな可能性へと長期的に導いていくこともできるのだ。

更には、未公開テクノロジー企業の評価が下降気味の今日は、こうした成長戦略を考える好機なのである。

気にすべきは顧客数増加「率」だ

M&Aを検討する必要を促すであろう1つの目をつぶることのできないシグナルは、月毎の顧客数増加率の変化(正確に言えば負の変化)である。しかし、このシグナルの観察には注意が必要である。新しい顧客が増え続けている限り、増加の現象は大きな問題ではないような気もするが、どうだろう?規模が大きくなるときに、どんな企業にも起きる典型的な現象ではないのだろうか?

時にはそのようなことも起きるだろう。しかし、顧客数増加率の減少はまた、現在の市場を越えて成長をする必要があることを示すシグナルでもあり、少なくとも現在あなたが提供しているプロダクトの再評価を促すものである筈だ。自らに問いかけなければならない:顧客は更に何を求めているのか?顧客は現在、他の場所では何を買っているのか?この問いは、やがて、新しい顧客増加を後押しする方向へとつながるだろう。

会社はサメのようなものだと思うこと:前に進まなければ、おそらく死んでしまう。

私のビジネスにおける経験則によれば、顧客は収入の1〜2%をソフトウェアに費やしている。たとえば顧客Xにおけるその金額が10万ドルで、そのうちの1万ドルをあなたに支払っているとしよう。そこにはあなたが手にしていない9万ドルが存在している。その支出を手に入れる方法を見つけよう。双方にメリットがある話だが、顧客はしばしばワンストップショップの方が仕事が楽だと思う。古い格言である「絞める首は1つに」は真実なのだ。

Brightree*は、参考になる事例である。当初は家庭用医療機器プロバイダーのビジネス管理ソフトウェア会社だった Brightreeは、その提供するプロダクトを拡大するために、C&S Billing Centerを2009年に買収した。C&S Billingが加わったことにより、Brightreeの顧客たちは課金の悩みから解放されただけではなく、加えて熟練したスタッフが関与するアドオンサービスに対しても、Brightreeへ支払いを行うようになった。買収は、Brightreeの全体的な収益を大幅に押し上げた。

しかし、すべての新規提供が単なるオプション追加によるものというわけではない。あなたのブロダクト系列を拡大することにより、近いところにいる買い手に対してあなたの会社を魅力的に見せ、全体の市場が拡大することが起き得るのだ。例えばBrightreeによる別の買収事例をみてみよう。2013年にCareAnywareを買収した事例であるBrightreeと同様にCareAnywareは、クラウドソフトウェアプロバイダーだったが、在宅医療とホスピスという2つの異なる急性期後市場に対して販売を行っていた。医療分野の新しいセグメントに展開することにより、Brightreeは対象とするパイの潜在的な大きさを大幅に増加させた。ResMed (NYSE:RMD)は2016年4月に8億ドルでBrightreeを買収した。

潜在的なM&Aをあなたが考える際に追うべき、もう一つの重要な指標は、製品の平均販売価格が同じままか低下傾向にあるのかということである。もしあなたが顧客のためのより大きな問題解決を狙って、自社を別のサービスと合わせていたならば、おそらくより大きな収入を上げることができたかもしれない。営業担当者と話をすることで、この評価を開始しよう。彼らは繰り返し、どのような質問を受けているのか?何に顧客は夜も眠れぬほど悩んでいるのか?

理学療法士のビジネスを効率的にすることを助けるWebPT*は、数年前にこれらの問いかけをした企業である。彼らの顧客は、オバマケアによる医療費還元率が最終的には治療成績と結びつくことを認識していた。

WebPTは、短期的には患者の治療成績もセラピストの仕事に役立つだろうということを理解しつつ、長期的に顧客の要求を先回りして助ける方法を探していた。そしてWebOutcomesが仲間に加わった。WebPTが2014年11月に買収を行った会社である。当初は治療成績管理のための、ちょっとした機能だと思われたものが、あれよあれよという間に成長し、会社の核となるサービスの1つとなった。

離れようと考えている顧客を観察せよ

最後に、すべての企業は顧客離れをM&Aに向けてのシグナルとして注意深く追跡する必要がある。のぞむらくは、将来の顧客離れにつながるかもしれない、顧客の不満のシグナルにとても早い段階から敏感でいるべきなのだ。

小さなハイテク企業はその成長を、高度で戦略的なアドオン的買収の追求により、強力に加速できる。

おそらくあなたは顧客サポートまたは電子メールを介しての顧客の声を、しばらく聞いていないかもしれない。もしかすると彼らはサービスプランをダウングレードしているかもしれないし、もしくは ‐ ソフトウェアビジネスの場合なら ‐ ソフトウェアの使い方が変化しているかもしれない。それは彼らがあなたの製品に以前ほど依存していないことを示していて、以前ほどは頻繁に使っていないか、以前ほど多くの機能を使っていないことを意味している。これらはいずれも、プラグを抜く(契約を打ち切る)ことを考えている顧客の、初期のシグナルの可能性がある。

しかし顧客離れはまた、もしあなたがスマートな買収に柔軟であれば、より大きな機会に向けてのシグナルともなる。これを、顧客はどこかに移ろうとしているのか、それは何故なのかを考える機会にするのだ。あなたの営業担当者は既にこの情報を持っているかもしれないし、または改めて顧客に率直に尋ねることもできる。

競合他社があなたのランチをつまみ食いしていることに気がついたら、彼らの提供しているものを評価しよう。こうしたことには、いくつかの対抗手段がある;直接相手を買収してしまう、より優れた技術を使って相手を打ち負かす、あるいは、あなたの方の規模が大きくて、新進のあたらしい玩具と競うというのなら、価格やサービスの組み合わせを変えることができる。資金が潤沢ではなくスタートアップは、気の利いた価格設定変更を行うことのできる余裕ある相手との競争に、耐え切れないかもしれない。

巨大なテクノロジープレイヤーでさえ、しばしばアドオンの買収を経て成長する – 特に業界全体が新しいクラウドベースのソフトウェアに移行する際には。実際、あなたの次の成長段階は、超大物との提携を含むものになるかもしれない。

Oracleは、クラウドソフトウェアの重要さを認めていて、人事ソフトウェア会社のTaleo、マーケティングソフトウェア会社のResponsysとEloqua(クラウド内で営業事務を行うソフトウェアを提供する)、そして最近ではOpowerとTexturaなどを戦略的に買収してきた。

同様に、 Salesforceは的を絞った買収を通じて、CRM専業から、クラウドサービスやマーケティングなどの分野へとビジネス領域を拡大した。同社は、ExactTarget*のような電子メールマーケティングプラットフォームや、Desk.comから名前を変えたAssistlyといった企業の買収を通して、より多くの収入を手に入れ、強力なカスタマーサービスサポートを提供できるレベルアップを行った。今年の6月には、Salesforceは小売業者のためのマーケティングプラットフォームであるDemandwareを買収することを発表している

会社はサメのようなものだと思うこと:前に進まなければ、おそらく死んでしまう。マーケットを見て回ることを怖れてはいけない。そして競合他社や補完企業との提携にいつでもオープンでいること。このことを理解し、適度にビジネスに後押しをしてあげれば、あなたは生き残る(survive)だけではなく、繁栄する(thrive)ことになるだろう。  

*で示したのはBattery Venturesのポートフォリオに含まれる企業である。

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(翻訳:Sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。