市場規模も競合も知らなかったデンマーク発「Zendesk」がグローバルで成功したワケ

「市場規模も競合も、なんにも分かってませんでしたよ」。自分たちが参入しようとしている市場について、市場規模調査や競合分析など何もやらなかった――、そう語るのはのはZendeskの創業者で現CEOのMikkel Svane氏だ。

カスタマーサポートのためのヘルプデスクサービスをクラウドでB向けに提供する「Zendesk」。そのZendeskのMikkel Svane CEOが来日して、京都で始まったInfinity Ventures Summit(IVS)のセッションに登壇。デンマーク・コペンハーゲンの狭いロフトに30代後半の男3人が集まって2007年に起業してから6年、500人の社員と3万社の顧客を抱えるようになる今日までを振り返り、なぜ起業環境も良いといえないデンマークからZendeskのようにシリコンバレーで、そして多様な国の市場で成功する企業が出てきたのかを語った。

Svane氏は、イベント主催者のInfinity Venturesの共同代表パートナーである田中章雄氏の質問に答える形で成功の秘訣を少しずつ語った。Svane氏は、成功への過程で得た教訓を広くシェアするのは、自分が受け取ったものを次世代や次にやってくる人々へ受け継いでいく、「Pay it forward」のシリコンバレーの慣習だとして、起業の初期に学んだことをシェアしたいのだと話す。

Svane氏のスライドを元にZendeskのことを念のために説明すると、これは優れたカスタマーサービスのためのクラウドベースのソフトウェアで、企業がカスタマーサポート宛てに受け取るメールやツイート、チャットなど、顧客のやりとりを1箇所に集めることができるヘルプデスクをブラウザやモバイル端末向けに提供している。企業が顧客から受け取るメッセージは分析され、サポート担当者が注意を向けるべきメッセージをハイライトしたりもする。サポートチームでコラボレーションが可能なほか、サポートチームのパフォーマンス分析や同業他社との比較も行うといったサービスだ。現在、ZendeskはMicrosoft、Adobe、SAP、DELLといったシリコンバレーを始めとする北米の大企業から、Airbnb、Hulu、Uber、日本ならGengo、Sansan、Talknoteといったスタートアップ企業が使っている。

わずか5年程度で華々しく成長したスタートアップ企業に見えるが、船出は必ずしも順調でなかったようだ。

「コペンハーゲンで新しい企業を興すなんて普通じゃないですよ。誰もスタートアップがちゃんとした仕事だなんて思っていなくて、趣味のようなものだと考えているし、起業家精神もあまりないんです」

起業のキッカケは、目の前にひどい業務アプリのプロダクトがあって「これよりも良いプロダクトを作ろう」と思ったこと。Svane氏はZendesk起業以前はビジネスプロセスやカスタマーサービスのコンサルをしていたが、このときに見た業務アプリがひどかった。業務アプリはたいていひどいUI/UXだが、Svane氏が会場の聴衆に見せたカスタマーサービスのためのWebアプリはログ解析画面か何かに見えるひどいもので、会場から失笑が漏れるほど。

起業するなら30代後半で家庭や住宅ローンの心配がない今しかないと2人の仲間起業とZendeskを起業した。当初はロフトで3人の30代後半の男3人が働く、ひどい環境だったという。自己資本でやっていたので2年間は苦しい時期が続いた。成功の確率はとても低く、ほとんどのスタートアップは失敗に終わるのが分かっていたからだ。「自転車に乗って丘を越えていくようなもの。丘の向こうに何があるか分からない。1つ目を越えても、また次に丘がある。今でもそれは続いている。ただ、スタートアップにとって、とても素晴らしい瞬間というのがある」。

Svane氏が言う最初の「素晴らしい瞬間」は、シリコンバレーに拠点を移して投資を受けたときだ。米国に移ったのはクレジット・クランチの直後だったこともあり「資金調達はほとんど不可能だった」と振り返る。「外国企業に投資するというのも当時あまりなかったし、われわれ創業者の英語には訛りもある。ビザ取得も簡単ではなかった」。

ただ、人づての紹介でVCに会い、投資が決まってからは一気にトラフィックが伸び始めた。米国のVCから資金調達するというのは、「非常にいいマーケティング」だという。特に業務アプリ市場はクラウドへのシフトが起こっていて、ボトムアップで部署単位で導入が進むようになってきているからだ。「CIOなどによるトップダウンでソフトウェア導入が決定されていたのは昔の話。部署のリーダーレベルの人々がオンラインで1カ月、2カ月ぐらい試してから導入の意思決定ができる」。実際、AdobeでZendeskを最初に利用したのは、本社のあずかり知らないロンドンの拠点だったという。「企業向けソフトウェアにとって、ブランドがますます大切になっている。かつてはロックインが可能だったが、今や乗り換えがすごく簡単だからだ」(Svane氏)。

自社運用していた業務システムは、クラウドへのシフトが起こっている。「企業は莫大な予算をオンプレミスの業務システムに投資してきた。向こう5年は、これはクラウドへシフトする。スゴいチャンスだ」。Zendeskの成功は、このトレンドの波に乗れたことのほかに、最初から英語でサービスを提供したこともある。それはデンマーク市場が小さいこともあるが、たくさん使ってもらうための「直感」だったといい、その結果、日本やブラジルでも使われるようになったという。グローバル市場の攻略としては、英語で北米から普及が進んだこともあるが、Svane氏が挙げる教訓は、異なる国の市場であっても「類似性に目を向けること」という。どこの国でも似たような考えをもった企業はある。

ソーシャルメディアが台頭し、カスタマーサポートの意味が変わってきていることもZendeskの成功の背景にある。「ソーシャルメディアは複雑になっているし、顧客の声は今まで以上に大きくなっている。顧客サービスでしくじると、企業のブランドは大きく傷つく。企業は、良い顧客体験が必要だってことを理解し始めている」。

クラウド、モバイル、ソーシャルの波に乗ったことをZendesk成功の理由に挙げるZendeskのSvane氏だが、成功の本質はプロダクトが新しい市場を切り拓いたことがありそうだ。市場調査なんてやらなかったと言い切った後に、Svane氏はこうも指摘した。

「市場規模を何だかんだといって議論して、それで何になりますか? (Zendeskが取った市場は)それまでExcelやメールを使ってこれまでやってたんです。カスタマーサポートのための業務アプリに企業はそれほど投資なんてしていなかった。だから、(Zendesk登場で)突然市場が拡大したんです」


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TechCrunch Japan

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