希少生物が戻り農作物も育つ日本初の「植生回復」も実現する太陽光発電所の生態系リデザイン事業開始

1922年に創業、間もなく100年目を迎える再生エネルギー事業のETSホールディングスと、京都大学発のベンチャーであるサンリット・シードリングスは、国内初となる太陽光発電所の敷地における生態系リデザイン事業を開始、6月16日にその発表会を行った。

経済産業省資源エネルギー庁は2050年カーボンニュートラルを目指すにあたり、省エネルギー、再生可能エネルギー、脱炭素への取り組みを掲げており、太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギー導入拡大は必要不可欠なものとされている。

今回のETSホールディングスとサンリット・シードリングスによる事業は、その太陽光発電所を増やして再生エネルギーによる発電量を支えるだけでなく、そのために「緑の砂漠」と化した土地を希少生物の生息地に転換させ、さらに発電所敷地内で農作物栽培を行うことによる収益性の向上、地表を覆うことでの土砂流出を抑えることなどを目指すというものだ。

再生可能エネルギー増加と森林保全を両立

太陽光発電所の建設では、山林や農地、大規模未使用地などの土地が利用されるが、以前より樹林地の伐採や土地の造成などによる地形や地質、動植物や生態系への影響が指摘されている。特に30年後、50年後、100年後に稼働終了となる太陽光発電所跡地の扱い、生態系を維持した状態での原状回復、理想的な自然への回帰方法については、事業者および開発の許認可権を持つ自治体にもノウハウが備わっておらず、適切な対応に着手できていないという。そのため本事業では、太陽光発電所の設計から、稼働が終了した土地を、理想的な姿で自然に戻すための生態系・土壌作りまでフォローしていく。

分担としては、ETSホールディングスが太陽光発電所設備の設計・施工・管理運営を、サンリット・シードリングスが太陽光発電所周辺の土壌解析、太陽光発電の発電効率を維持した状態での生態系の管理方法やデザイン、評価を行う。これにより、太陽光発電を行いながら、発電所敷地内での生物多様性の保全や希少動植物の育成などに寄与する未来の生態系構築を目指す。

生物多様性のある理想状態からバックキャスト

理想の生態系については、土地ごとの理想状態からバックキャストし、微生物や菌の管理を設計。土壌設計、防災などの観点からも、土地関連の指標化とその改善を目指す。人間視点からの利便性なのか、生来の生態系視点からの保全性なのか「理想」は主体によって揺らぐこともある。サンリット・シードリングス創業者で、京都大学で准教授を務める東樹宏和氏は「草木が生い茂り日照環境が偏っている、一部の生物が極度に繁殖している、それにより土砂災害が起こりやすくなっているなど、誰にとってもよくない状態にある山林からまず着手したい」と語る。また同社代表取締役CEOの小野曜氏も「最適状況については自治体などと意思疎通しながら設計を進めたい」という。

自治体にはすでに山林管理義務が課せられるようになっているというが、ただ伐採するだけではコストがかさむばかりで、対応に悩むところもあるという。そのため発電による収益化含め、まずは困っている自治体と小規模な発電所設立をする形で連携していく。あわせて、すでに土壌にいる菌を調べDNA解析し、菌株コレクション化していった後、地域由来の菌をベースに木の根を強化して、土砂災害を防いで防災につなげる狙いもある。既存の発電所改善にも取り組んでいくが、今後は提携事業者や自治体を増やして対象先拡大を検討している。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:太陽光発電ETSホールディングスサンリット・シードリングス再生可能エネルギー日本

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TechCrunch Japan

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