急進的なイーサリアムの起業家たちが「DIY性的暴行証拠収集キット」を再定義、支持も非難も受ける野心的なLeda Healthのプロジェクト

投資家たちは彼らを「ディスラプティブイノベーター」(古い価値を破壊し、新しい価値を創造する革新者)と称する。ノースカロライナ州司法長官のJosh Stein(ジョシュ・スタイン)氏は、彼らを「悪質な詐欺師」と表現する。一方、Leda Healthの共同創業者であるMadison Campbell(マディソン・キャンベル)氏とLiesel Vaidya(リーゼル・ヴァイディヤ)氏は、自らを性的暴行被害者の擁護者だと考えている。

Ethereum(イーサリアム)を使用して反体制的ユースケースに取り組んでいるフェミニストたちにとって、Leda Healthの性的暴行被害者のためのDIY証拠収集キットは極めて野心的なプロジェクトだ。これまでのところ16名の連邦議会議員がLeda Healthの発売予定のキット非難しており、ミシガン州のDana Nessel(ダナ・ネッセル)司法長官は「臆面もなく#MeToo運動を利用して金銭的な利益を得ようとしている」と述べている。ニューハンプシャー州ユタ州は、まだ発売前であるLeda HealthのDIYキットをほぼ禁止に近い状態にした。しかし、キャンベル氏とヴァイディヤ氏はこうした動きを受けても躊躇することはなかった。

関連記事:NFT(非代替性トークン)をフェミニストのために使うバンドPussy Riotが「サイファーパンク」の力を示す

キャンベル氏自身も被害者であり、暴行を受けた後すぐに警察に行かない理由を知っている。彼女の場合、トラウマと格闘し、名乗り出ようとする頃には、その声は無力なものになっていただろう。

「あらゆる州において、レイプキット失われています」とキャンベル氏はいう。「性的暴行の被害者が私に連絡をしてきて、この製品は自分の人生を変えてくれるかもしれないと言ってくれたことが、私を前進させ続けている理由です」。

キャンベル氏によると、同スタートアップは2021年秋にこれらのキットの提供を開始し、複数の大学と提携してベータ版を展開する計画だという。この自宅採集キットを補完する支援サービスとして、ライセンスを受けたファシリテーターが運営するセラピーやTransformative Justice(変革的正義)グループが用意されている。

「私たちは企業間取引(Business to Business、B2B)の会社になることを計画しています。大学や企業、軍隊などのパートナー向けです」とキャンベル氏は述べた。「私たちの目標は、最終的に教育機関が学生たちを救済するための製品やサービスの費用負担を行うことです。これが有用であるかどうかを示す多くのケーススタディが必要なこと、そしてそれが難しいことはわかっています【略】説明責任や境界線についての損害を訴えた人々との修復作業を含めて、損害のサイクルを終わらせようとしています」。

医療機関への無料の治療サービスやリソースの提供から始めるのは、簡単なことのように思えるはずだ。しかし、これらのキットは法執行機関や関連診療所が管理するレイプキットよりも法廷での有効性が低いため、被害者に誤った希望を与えてしまうと批判者は主張している。一方で、毎年何万ものレイプキットが警察によって検査されない状態にある。

ヴァイディヤ氏は、Leda Healthのイーサリアムを利用したモバイルアプリは、キットに収集された証拠をタイムスタンプするブロックチェーン技術を使用して、被害者に自分のアカウントを記録する選択肢を提供し、被害者の手に力を取り戻すものだと述べている。

「承諾の証明をビジネスにするものではありません。リソースの提供をビジネスにしているだけです」とヴァイディヤ氏は続けた。

カリフォルニア州リバーサイド郡のJohn Henry(ジョン・ヘンリー)地方検事補は、この種の商品は初めてだろうと語る。理由の如何にかかわらず、すぐに法執行機関に訴えることをためらう被害者に対して、これが助けとなるかどうかを判断するのは時期尚早だという見解を同氏は示している。タイミングも重要な要素の1つだ。被害後すぐに病院に行けなかった場合、生物学的証拠を収集することはできない。

「看護師や警察は、質問すべき内容や、どこでフォローアップすべきか、どのような情報が重要なのかについて、一定の経験と訓練を積んでいます。それは一般市民が持ち合わせていない知見です。私は検察官として、法執行機関や医療関係者による陳述や追加調査を考慮していきたいと思います」とヘンリー氏は述べた。「キットが規制やベストプラクティスと相反する方法で収集されていても、容認できないものではありません。しかし、陪審員はそれを十分に勘案する必要があります【略】証拠が存在しない場合とは対照的に、ある種の証拠の有用性は存在し得ると思います。Leda Healthが良いアイデアなのか悪いアイデアなのかについて、決定的な意見を述べることは現時点ではできません」。

どのような種類のレイプキットであっても、単独では有罪判決や追放措置を導くことはできず、広範な調査の一環として使用されるツールに過ぎない。それでも、被害者が自分のデータを管理するという考えに対し、激しい反発が起きている。

「2019年に、私たちのオフィスに不法侵入がありました」とヴァイディヤ氏は語る。「また、私たちに刑務所行きを求めるソーシャルメディアへの投稿に潜在的な投資家が関わっていたことも記録しています」。

現在も2人は日常的なオンラインハラスメントを受けているとキャンベル氏は言い添えた。

「2019年以降、会議やオフィスから自宅へ帰るのにUberを使用しています。弁護士から地下鉄に乗らないようにと言われたからです。後をつけられるかもしれません」。

物議を醸しているこのキットは、目立たない箱の中にビニール袋、綿棒、説明書が入っており、すべてにQRコードが記されている。ユーザーはLeda Healthのアプリをダウンロードして情報を入力し、破れたショーツなど暴行の証拠になるものを個別のZiplocの袋に保存する。

「ブロックチェーンはアカウンタビリティ(説明責任)を創出します。こうした記録は変更できないからです」とヴァイディヤ氏はいう。「データにアクセスできるのは私とおそらくもう1名の社員だけで、データは暗号化されています【略】時間とプロセスに関するアクセスロックが存在し、法的権限による強制を受けた場合には、データにアクセスできる可能性があります」。

Leda Healthは、複雑なイーサリアムのソフトウェアサポートの大部分をブロックチェーンのスタートアップDeqodeに委託している。DeqodeのエンジニアShivam Bohare(シバム・ボハレ)氏によると、Leda Healthのシステムは、Coinbase Venturesから投資を受けたBlocknativeと、イーサリアムの共同創業者Joe Lubin(ジョー・ルービン)氏が部分的に所有するスタートアップInfuraが提供するイーサリアムのインフラサービスを利用しているという。暗号化されたデータとプロファイルは特定のユーザーアカウントにアタッチされており、セルフカストディ(自己保管・自己管理)のトークンにはアタッチされないため、このアプリのブロックチェーンのアスペクトはすべて内部で発生する。ユーザーはイーサリアムについて何も知る必要はない。

「ユーザーデータへのアクセスは、厳重な認証により保護されています」とボハレ氏は説明する。「データがクラウドにアップロードされた後は、Leda Healthの管理者からの適切な承認がない限り、ユーザー自身のデータにアクセスすることはできません」。

警察によって管理されるキットとは異なり、被害者は弁護士や当局に引き渡すまでキットを物理的に保持することができる。自身のケースが、システムの中で失われる何千ものケースに埋もれてしまうことを懸念するには及ばない。またこのDIYキットは、アプリ内に保存された記録とともに、集団セラピーセッションのような法廷外でのメディエーションにも利用できる。

「米国の裁判システムにおいて、自己収集された証拠は極めて一般的な性質のもので、許容性などの問題について定期的に分析されていることを人々は忘れがちです」と、Leda Healthで顧問弁護士を務めるJiadai Lin(ジアダイ・リン)弁護士は指摘する。

実際、カリフォルニア州モントレー郡で2020年4月、パンデミック対策として開発された暫定的なプロセスの下で、別の民間企業が提供したレイプキットが使用されたことが報告されている

「被害者は自身の身体に関する情報を自らの条件で収集する権利を持つべきであり、起業家はイノベーションに挑む姿勢を持つべきであると私は考えます」とリン氏はいう。「この製品を禁止しようとする立法上の動きは、過度に制限的なものだと思います。そのことが、Leda Healthを支援しようという気持ちをさらに強くしています」。

批評家たちは、同スタートアップの起業家的アプローチを貪欲な機会主義と評している。ハーバード大学ロースクール出身で、ハーバード法律ビジネス協会の共同会長を務めたこともあるRomeen Sheth(ローメン・シェス)氏のようなLeda Healthの投資家たちは、営利戦略がすでにこの分野で活動している非営利団体を補完すると考え、このスタートアップに投資してきた。これまでのところ、Leda Healthはおよそ200万ドル(約2億1770万円)を調達している。

「どの業界においても、ディスラプティブイノベーションは快く受け入れられるものではありません。既存の企業がその精神で活動を開始することはないでしょう」とシェス氏はいう。「私はユーザーを最優先する製品やサービスには前向きです【略】現状維持ではなく、前進への投資に関心を抱いています。Leda Healthは自らの精神を定義しています。その取り組みを通じて、性的トラウマやセクシャルハラスメントを抱えることが恥ずべきものでないことを示し、苦痛やトラウマが取り除かれることを願っています」。

キャンベル氏とヴァイディヤ氏はプロトタイプの開発を終え、Leda Healthではすでに、ライセンスを受けたセラピストが率いる性的暴行被害者支援グループの提供を開始している。

「現在2つのグループが活動中で、5月からはさらに5つのグループが活動を開始します」とヴァイディヤ氏は述べている。

好感を持つか否かは別として、ブロックチェーンに精通した起業家たちが、特に女性に対するサポートが著しく不足している現状に挑戦していることは紛れもない事実だ。

「報告不足、大量のキットの未処理、全般的なサポートサービスの欠如などを含む現状維持に関わる代償は、性的暴行被害者にとって大変大きいものです。Leda Healthは、革新的で低リスクのソリューションが存在することを実証しています」と投資家のDuriya Farooqui(ドゥリヤ・ファルーキ)氏は語る。「また、暴行被害者がすぐに通報しない理由の1つとして、レイプキットで証拠を収集する手続きが侵襲的に感じられ、それ自体がトラウマを助長する可能性があることが挙げられます。Leda Healthが望むのは、選択肢を提供することです」。

カテゴリー:フェムテック
タグ:Leda HealthEthereum

画像クレジット:Leigh Cuen

原文へ

(文:Leigh Cuen、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。