情報通(informed.)になりたい?欧州メディアのベテラントリオがニュースメディア業界の問題に挑む

ニュースは社会にとって欠かせないものだが、その制作には驚くほど費用がかかる。広告料金が業界全体で低下しているため(今夏は明るい兆しがない)、パブリッシャーは収支を合わせるためにペイウォールに頼るところが増えている。唯一の問題は、読者が人類全体の思考を渡り歩くことを可能にしたオープンなインターネットが、怒れる番人によって閉ざされた塀で囲まれている庭の連なりに変化したことだ。筆者が3年前に語ったサブスクリプションの地獄は、実際に加速する一方だ。

地獄の修復にはそれなりの努力が必要だが、欧州のニュースやメディアに精通した3人のベテランが、これに挑戦しようとしている。

Benjamin Mateev(ベンジャミン・マテフ)氏、Martin Kaelble(マーティン・ケイルブル)氏、Axel Bard Bringéus(アクセル・バルド・ブリングェウス)氏が共同でinformed.(公式ブランディングは大文字なし、ピリオド必須)をローンチした。ベルリンを拠点とするこのスタートアップは、著名な有料ニュースサービスの上位レイヤーになりたいと考えている。Read Listと呼ばれる、ニュースやオピニオン記事のキュレートされた「プレイリスト」と読者を結びつけ、オリジナルのサマリーで補強する。同社は1月に設立され、現在はベータ版だ。ローカルショップの468 Capitalから「現代の標準ではかなりのプレシード」を調達している。

興味深いのはそのチームである。ブリングェウス氏は以前Spotifyに6年間在籍し、同社の急速な海外展開の中で最終的にはグローバルマーケットの責任者を務めた。直近では、欧州の有名企業EQT Venturesのディールパートナーを務めている。一方、マテフ氏は、Microsoftの買収によってToDoリストプラットフォームWunderlistのリードエンジニアとなり、オピニオンニュースサイト The Europeanの製品責任者を務めた。ケイルブル氏はCapitalなどで長年にわたりビジネスジャーナリストを務めてきた。

informed.の創業者マーティン・ケイルブル氏、ベンジャミン・マテフ氏、アクセル・バルド・ブリングェウス氏(画像クレジット:informed.)

さまざまなキャリアで成功を収めてきたこのトリオは、一歩離れた視点で、2021年付近のニュース業界の多様な課題を解決する方法を模索した。彼らは「ダイアリースタディ」を実施し、人々にニュースの中で何を読んだかを追跡するよう求め、何千人もの人々を対象に調査を実施した他、メディア幹部や投資家とも話し合いを持った。

その結果、メディア企業のペイウォールはここ数年ほぼ成功しているが、コア読者がサブスクリプションを購入しているため、その成長は鈍化していることがわかった。「新型コロナウイルス以降、そしてトランプ政権以降、ほぼすべてのパブリッシャーがペイウォール戦略で壁に直面しています」とブリングェウス氏はいう。「彼らの多くは自社のコンテンツを自分たちのコア地域で直接収益化することができているので、私たちのような非競合的なサードパーティと協力することに非常に前向きです」。

同時に、Z世代の若者たちは質の高いニュースを熟読したいと思うようになっているが、有名サイトのいくつかで法外な購読料を支払うための手段を欠いている。「彼らは読みたいと思っていますが、経済的に余裕がありません」とマテフ氏。筆者は幾分懐疑的に、私たちの華々しい子孫たちがバイラルなTikTokで質の高いニュースを読みたいと思っているかどうか尋ねたが、マテフ氏は、同社のエビデンスはイエスを強く示していると語った。「そこに興味深いものがあります【略】古いパブリッシャーは、若い人たちの間で高い評価を得ています」。

Informed.はThe Washington Post、The Economist、Financial Times、Bloombergと協力しており、これらの情報源からの記事をRead Listにまとめ、独自のニュースサマリーをイベントに追加する。例えばある日のプラットフォームには、カブール空港からの最新ニュースだけでなく、この中央アジアの国の危機の歴史と展望を語る厳選された深堀り記事やオピニオン記事が含まれた、アフガニスタンに関するRead Listがあると想像できるだろう。「スナック程度でもいいし、望むなら食事としても味わうことができます」とブリングェウス氏はその設計について表現した。

同氏の馴染み深いSpotifyのプレイリストとの類似点はあるが、ニュースは音楽のような性質を持つものではないと指摘する。「ニュースでは、すべてのニュースが必要というわけではありません。また、ニュースは傷みやすいので、クラスタ化する必要があります」。

informed.のロゴとブランディングデザイン(画像クレジット:informed.)

同社はモバイルファーストのプロダクトを年内にローンチする予定だが、ベータテストには今すぐ登録可能だ。最終的に同社は、自社のニュースサマリーを無料で提供する一方で、すべてのライセンスコンテンツを有料で提供するフリーミアムモデルを追求しようとしている。チームは価格設定をテスト中で、現時点ではローンチ価格を決定していない。

これは、過去のスタートアップたちや、あらゆるiOSデバイスに足がかりを持ちながらほとんどユーザーの支持を得られていないApple News+のような大規模企業のイニシアティブの墓石が乱立する領域に挑む、大胆なイニシアティブだ。その痛ましい歴史はさておき、ここでの希望はタイミングが味方をしていることだ。新世代のニュース読者は品質を強く求めており、パブリッシャーはトランプ後のニュース界での成長と引き換えに、オーディエンスに対するコントロールを手放す準備ができている。成功すれば、同社は間違いなく第一面のニュースになるだろう。

関連記事
犯罪ライブ配信「Citizen」が地域ジャーナリズムに取って代わることはない
フランスがグーグルに650億円の罰金、記事使用料交渉で命令に従わず
大手テック企業に対する反トラスト調査の手を強めるドイツ競争規制当局がGoogle News Showcaseの徹底調査開始
画像クレジット:fpm / Getty Images

原文へ

(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。