成長企業の人事、採用、評価制度はどう生まれたか——TechCrunch School #11:パネルディスカッション

9月28日に開催されたイベント「TechCrunch School #11:HR Tech最前線(3) presented by エン・ジャパン」。HR Techをテーマにしたイベントとしては第3弾となる今回は、スタートアップをはじめとする成長企業の人材戦略にフォーカスし、キーノート講演とパネルディスカッションが行われた。この記事では、パネルディスカッションの模様をお伝えする(グロービス・キャピタル・パートナーズの高宮慎一氏が、ベンチャーキャピタリストの立場から、成長企業の組織・人事について語ったキーノート講演のレポートはこちら)。

パネルディスカッションに登壇したのは、サイバーエージェント 取締役 人事統括の曽山哲人氏、メルカリ HRグループの石黒卓弥氏、エン・ジャパン 執行役員 寺田輝之氏の3人。モデレーターはTechCrunch Japan副編集長の岩本有平が務めた。セッションは、登壇する3人が自己紹介も兼ねて、各企業の変遷と人事制度や施策の変化について、紹介するところからスタートした。

写真左からサイバーエージェント 曽山哲人氏、メルカリ 石黒卓弥氏、エン・ジャパン 寺田輝之氏

トップバッターはサイバーエージェントの曽山氏。曽山氏はサイバーエージェントの人事のトップとして10年以上にわたり指揮を執ってきた人物だ。曽山氏からは、サイバーエージェントの業績・事業の変遷と人事制度の変化の紹介があった。

棒グラフ緑は売上高、青が営業利益。吹き出しが人事施策

曽山氏がサイバーエージェントに入社した1999年には、売上は4億円、社員は20名だったという。現在は、従業員数が業務委託まで含めると8000名と約400倍になり、売上は3000億円へと成長。主要事業はBtoBのネット広告から、アメーバブログなどのメディア事業、その後ゲーム、スマホへと移り変わり、現在はAbemaTVに力を入れている。

「上場時には、225億円を調達。アメブロには60億円投資して、5年かけて黒字化。その後2年で80億円の営業利益を生み出して一気に前進した。スマホには2年で80億円を投資して、またぐんと売上と営業利益が伸びた」(曽山氏)

サイバーエージェントでは、こうして、ときに大型投資を行い、同時にスタートアップもたくさん設立していると曽山氏は言う。「昨年だけでも15社のスタートアップの子会社を作って、若い人に経営をどんどん任せている」(曽山氏)

人事制度への取り組みの中でも、サイバーエージェントの業績にとって転換点となったものがいくつかある、と曽山氏は話す(スライド中の黄色の吹き出し)。「2004年に作られた『ジギョつく』は新規事業プランコンテスト、『キャリチャレ』は社内への異動公募制度で他部署への“転職”ができる制度。売上が伸びてきて、いろんな部署ができてきたときに、『同じ仕事をしていると飽きる』という声が出てきて、それに対して“手を挙げれば異動できる”という仕組みを作った。部門間の異動は現在、年間250人ぐらいあるが、キャリアの選択肢を増やすということは、転職リスクを減らすことや離職のケアにつながる。スタートアップ規模では難しいかもしれないが、“飽きる”というキーワードにどう対応するかという点では、大事な制度」(曽山氏)

また「あした会議」は経営陣が行う新規事業バトルで、新規事業や人事制度、コストダウン案など、役員会決議級の題材を持ち込むのがルールとなっている。「この制度のポイントは、経営陣が率先垂範して自分たちの会社の変革を提案するところ。社員だけにアイデアを求めるのではなく、経営側もやっていることを見せるのが大事だ。トーナメントは1位からビリまで点数がついてさらされる、非常に恥ずかしい仕組みで、ビリになると翌週、社員が誰も声をかけてくれなかったりする(笑)。でもビリになっても、決議を出して新しい取り組みができたりして、役員も緊張感があるというのがよい」(曽山氏)

「CA8」は役員の交代制度。2年に1度、8人の役員のうち2人が入れ替わる。既に5期、実施されていて、述べ10人の役員が抜擢・退任していることになる。「役員が変わっていることを見せると、社員も進んで変化してくれる。また『退任は降格ではない』ということを全社に伝えて、出戻りの役員を作ったりもしている。僕自身も役員になって、執行役員になり、また役員に戻った“出戻り役員”だが、そういうことがあるキャリアなんだ、ということを見せていくのが大事だ」(曽山氏)

メルカリの石黒氏からは、メルカリのこれまでのダウンロード(DL)数の推移や事業施策と、人事制度の実施施策について紹介があった。

グラフ下部に書かれているのが人事施策

「メルカリでは、カスタマーサポートが社員の半分以上を占めるが、業務委託ではなく、全て直接雇用している。今はグローバルで7500万DLの規模まで発展しているが、仙台のカスタマーサポートの拠点は200万DLぐらいしかないときに移転している。また、米国では今2500万ダウンロードまで増えているが、サービス自体は日本で500万ダウンロードのときに開始している。私は入社前だったが、その頃から『“Go Bold”な判断をしてきた』会社だった」(石黒氏)
※Go Bold(大胆にやろう)は、メルカリがミッション達成のために設定する3つのバリュー(価値基準)のひとつ。

採用については「最初はなかなか認知がなく広告を使って採用していたが、途中から社員紹介などのリファラル採用など(インバウンド採用)をメインに切り替えていった。その過程で対外的な発信を増やすというようなこともやってきている」と石黒氏は言う。

石黒氏がメルカリに入社した2015年以降も、さまざまな施策を打っている。2016年5月から公開している「mercan(メルカン)」 は、メルカリの情報を発信するメディア。毎日1〜2記事ずつ更新され、現在700〜800記事ぐらいになるそうだ。「(当時は)Wantedlyでもブログを更新していて、『あの記事見ました』ということでの応募もあり、手応えがあった。ただWantedlyのフィードだと情報が流れていってしまうので、ちゃんとストックしておこうということで、自社メディアとしてmercanを作った」(石黒氏)

他にもいろいろな施策を試行錯誤しながら実施したり、ときにはやめたり改善したりしている、と石黒氏は話す。産休・育休中の給与100%保証や認可外保育園補助、介護休業支援などの制度を含む、社員支援の制度「merci box」は、サイバーエージェントが導入している、女性社員の活躍を支援する制度「macalon」を参考にしたそうだ。

「2015年3月には一人だった人事部門が、2年半経って10月にはついに10名になる。スタートアップではよく『2人目の人事はどう採用したらいいか分からない』と聞く。あるいは『メルカリはもう10人も人事がいるんですね』とも言われるが、我々は年間200人、300人採用している。私が入社したときの60人から(3年経たずに)600人と10倍に社員が増えた。これをさらに10倍、100倍にしていくには、やっぱり数多くの採用担当が必要だし、全社を挙げてのコミットメントが必要だと思っている」(石黒氏)

3人目の登壇者は、採用・教育・評価を主要事業として展開する、エン・ジャパンの寺田氏。「うちはずっと右肩上がりで来ていたわけではなかった。紆余曲折ありながら今がある」と寺田氏は話す。

「立ち上げ期は知名度もなく、パッションしかないという状況からスタートした」という寺田氏。インターネットの黎明期で、インターネット企業だという点だけを押し出していたそうだ。採用で活用していたのは、現在「engage(エンゲージ)」で提供している「Talent Analytics」というオンライン適正テストの仕組みだった。

「インターネットビジネスはまだ成り立っておらず、優秀な人どころか応募自体もなかなかこない。その少ない応募の中で、活躍してくれる原石をどう見つけるかに集中していた。ベンチャーなんて、今は営業をやっていても、明日から人事を頼む、とか、経理に来てくれ、ということもある。そうした職種転換も見据えて、地頭がよくて転換についてこられる人を採用しないと成長できない、という課題があった」(寺田氏)

Talent Analyticsは、そうした人材の見極めを行うのに役立ったと寺田氏は振り返る。「企業カルチャーとのフィットといっても、最初はよく分からないので、テストを行って、性格特性やエネルギー量や、どういうところにストレスを感じやすくて、どういう点でストレスがないのかとかを見る。それで当時の社員の特性と比べて、似たような人材を入れていた。キャリア志向が安定型の人をベンチャーのときに採っても、すぐ辞めてしまう。アントレプレナー型の、自分たちでやっていくんだ、という人をしっかり採用するようにした」(寺田氏)

黎明期を過ぎ、その後のインターネットの成長とともに、インターネット求人の広告事業が成長。その波に乗る形でエン・ジャパンは急成長を遂げる。「その頃は知名度・商品力が上がり、営業すれば受注できる、という状況だった。キャリアタイプの選別はせず、ポテンシャルの高い若手の採用に注力し、一気に新卒採用に切り替えた。社員数100名のときに、新卒社員100名を入れるということもあって、どんどん社員を増やしていった」(寺田氏)

しかし、リーマンショックで一気に業績が停滞。混迷の時代に入ったと寺田氏は言う。「プロフェッショナル採用などもやり、即戦力としての能力に期待したが、『悪い状況の中で何とか乗り越えて、会社をよくしていこう』とはならず、評論家みたいな感じになって既存社員と対立して、うまくいかなかったりもした」(寺田氏)

この時期にうまくいった人事施策もあった。「当時は、現場主導で採用を行い、評価基準も現場ごとに違っていた。それを、HR・人事に集約し、採用基準や評価基準を改めてHR主導で再設計した」(寺田氏)

こうした施策や、最近のHR Techに注目が集まる状況の中で、再び業績が上向きに転換。「HR Techの波に乗る形で、各事業のテック化を推進しているところ。エンジニアの採用も引き続き強化していて、今期は売上最高額を達成する見込みとなっている」と寺田氏は現在の状況を説明する。

トップがいかに発言するかが採用成功の決め手

それぞれの事業の成長と人事施策の変遷について聞いたところで、今度はテーマごとの施策について、掘り下げて聞く。最初のテーマは「採用」。創業期から10名規模、100名規模と企業が成長していく中で、各社はどのような採用戦略をとってきたのか。特にエンジニアの採用について、話を聞いていった。

曽山氏は「サイバーエージェントは営業会社から始まっているので、技術部門を作り、大きく技術者を採用したのはアメブロをスタートさせた頃。エンジニア採用をやったのは2006年。当時、藤田(代表取締役社長の藤田晋氏)から『2カ月で20名内定を出して』と言われた」と初期のエンジニア採用について振り返る。

「当時のアメブロはシステムダウンが多くて、外注していたシステムを内製化する経営決定を行ったのだが、採用に一番効果があったのは、藤田がブログを書いたこと。社長が最前線に出るというのが、採用に関しては最も大切だ。我々は最初の新卒採用でも、藤田が会社説明会に自分で出て、そのことをブログに書いていた。スタートアップではこれがすごく大事」(曽山氏)

2006年のエンジニア採用は中途採用だったのだが、曽山氏はその時のエピソードをこう語る。「人数が足りないことを『頭数が足りない』『さらってきてでも採る』と(藤田氏がブログに)書いたら、ネットの掲示板で『頭数とか、さらうとは何だ!』と批判の声が多く上がったのですが、そのおかげでアクセスが急増して(笑)。でもブログ(本文)には当然いいことが書いてあるわけですよ。熱いことが。『今回はアメブロを本当にいいサービスにしたい、自分たちで作って、世界に通用するようなサービスにしたい』というような思いが書いてある。それでエントリーが激増した」(曽山氏)

サイバーエージェントでもうひとつ行われている、エンジニア採用強化のための施策が「エンジニアアカデミー」だ。エンジニア経験が浅い人や、大企業に務めるエンジニアでネットサービスの開発経験がない、という人を対象に、土日に集中8回の講座を開催し、最後に修了証を出して内定を出す、というプログラムで「これはすごく反響があって、採用につながった」と曽山氏は言う。

創業から4年のメルカリではどうだろうか。石黒氏は「山田(代表取締役会長・CEOの山田進太郎氏)も小泉(取締役社長・COOの小泉文明氏)も、『誰かいい人がいたら、採用したいので社員紹介で紹介してくれ』と毎週の経営会議や全社会議で言い続けている。(どうやったら社員紹介が浸透するのかと、)他社の人事担当の人に相談されることがあるが、なかなかこの“毎週言い続ける”というのができない会社、経営者が多いようだ。『先週言ったから今週はいいじゃない』ではなく、毎週言う、しつこいぐらいに言う。伝わってるか伝わってないか分からない、と思うかもしれないが、伝わりきるまでひたすら言うことが大事」と話す。

エンジニア採用に関しては、2つキーになったことがある、と石黒氏。ひとつは現在、メルカリ執行役員 VP of Engineeringを務める柄沢聡太郎氏の入社だという。柄沢氏は著名なエンジニアで「彼が入ってきてからさらに採用力がついていった。また(メルカリのエンジニアとして)メディアに出て話をしてくれることも増えた。入ってきて一番最初に彼がやったのは、エンジニアブログの立ち上げ。入社の翌月には立ち上げて、記事がはてなブックマークでブックマークされたり、読まれたりすることでも(エンジニア向けの)露出が増えはじめた」と石黒氏はいう。

もうひとつは柄沢氏の入社半年後に「エンジニア人事」担当を置いたこと。「元々はソフトウェアエンジニアとして活躍していたメンバーを採用し、今、稼働のほとんどを採用に割いていて、新卒エンジニア採用のイベントに行ったり、書類選考を担ったりしてくれている。“GitHub採用”とかやろうとしたときには彼がそれを判断することで、彼以外のエンジニアはプロダクトに集中できる。非エンジニアの人事はみんな経験していると思うけれども、面接の段階が進んでから初めて同席したエンジニアに『何でこの人を残したの?』なんて言われることがある。そういったコンテキストの共有は非常に難しいが、エンジニアが採用にコミットすることで、そういったコミュニケーションコストは激減する」(石黒氏)

一線級のエンジニアのリソースを採用に割くのは、もったいないような感じもするが、石黒氏によれば「ミスコミュニケーションが減り、後工程がよくなる」ということだった。

また、採用をエンジニアたちに任せきりにするのではなく、人事の努力も必要、と石黒氏は言う。「他社の著名なエンジニアをTwitterなどでフォローしていると、イベントや最近の状況が分かる。反応したり、トレンドなどを知っておくことで、『一応こいつ勉強してるんだな』ということを分かってもらえる。今は無料のプログラミングスクールなども開催されているけれども、プログラミングを学ぶということだけではなくて、エンジニアの生態を知る、コミュニケーションしていくというところにも、チャレンジしていってはどうか」(石黒氏)

メルカリでは経営陣に限らず、HRグループの石黒氏もエンジニアも、ソーシャルメディアで全力で情報発信しているようだが、仕掛け作りなど秘訣などはあるのだろうか。石黒氏は「勝手に発信するのを止めないだけ。性善説に基づいて“これは言わないでね”というのも、逆に“必ずシェアしろ”というのも言わない」という。「僕がmercanの記事で発信したことなどへの感想は(社内ツールの)Slackとかではリアクションがないことも少なくないが、社内の人間からの反響も、Twitterの“いいね”とか、インターネット経由で学ぶことが多い」(石黒氏)

寺田氏はエン・ジャパンのげんじょうについて、さまざまな国の人材を採るなど、多様化していると説明する。「HR Techは米国発祥だということもあり、またエン・ジャパンの事業が第1の創業期には単一事業で成長してきたが、今伸びているのはいろいろな事業。事業が多角化する中で、人材も多様化していき、ダイバーシティが進んでいるので、外国人などの採用もしっかりやっていって、文化の違いなども認識しながら進めてきている」(寺田氏)

事業と人材が成長するための人事評価制度のポイント

続いてのテーマは「制度」。モチベーションを下げずに評価して能力を伸ばし、適材適所で活躍させるためのポイントについて、聞いていった。

メルカリの石黒氏は「すべての制度がうまくいっているわけではない」と前置きしつつ「ただ、工夫している点として、業績評価と同時に3つの我々のバリューの評価もしている」と説明する。

「メルカリの3つのバリュー(Go Bold、All for One、Be Professional)について、3カ月に1回、自己申告による評価をやっていて、それに対する評価も行っている。日本の企業の場合だと“業績評価”と“行動評価”という言葉の使い分けをしているんじゃないかと思うが、業績だけでなくて、行動についても評価をしなければ、納得感が得られない。例えば『社内の誰からも好かれないし、ゴミも拾わないけれども、なぜか達成率だけ250%の人がいて、ボーナスがもらえる』みたいなのは、納得感が全くない。評価の基本は納得感だと思うので、社内のバリューを体現できているか、というのも軸にしている」(石黒氏)

また成長企業としては特徴的な点として石黒氏が挙げたのが、360度評価。「私が入社する前、社員が20人ぐらいの頃から360度評価をやっていた。そういう制度に着手するのは、なかなか遅れがちだが、大手企業から来た自分にも違和感なく、評価される側としても人事としても、評価をはじめとする制度がある程度整っている状況だった。経営陣がシリアルアントレプレナーであることも大きいのかもしれない」(石黒氏)

エン・ジャパンの寺田氏は「スタートアップ期は、昇進・昇格について『立候補制度』を採用していた」と話す。「昇進・昇格したい人は自ら手を挙げて、立候補してください、ということにしていた。立候補すると、今までどんな実績を上げてきたか、昇進・昇格したらどんなことをやりたいかを、全社員の前で発表する。で、社員から直接質問を受けて、それに対して答えていく。一通りの質疑応答が終わったら、立候補者は後ろを向いて、その場で決を採り、それをベースに最後に役員判断で昇進・昇格が決まる。人数が少ない間は、そういう形でオープンにしていこう、ということをやっていた」(寺田氏)

人数が増えてからは、メルカリと同じく、360度評価を取り入れた。「エン・ジャパンのビジョンに対する行動のガイドラインを設けているのだが、それに対して適切な行動を取っているかどうかについて、360度評価を行っている。スキルや業績は上司が見ればよい」と寺田氏。

サイバーエージェントでは、評価制度は半期ごとで、いわゆる目標管理制度に近い。それとは別に月1回の面談を2005年ごろから取り入れている。「今だとOne on Oneとよく言うが、上司・部下で面談をすることを推奨している。半期や四半期での評価では、(上司・部下の間の認識に)ズレが生じる。人が違うので、ズレは必ず生じると思っておいた方がよくて、それを対話によって埋めていく努力をするように習慣化しておいた方が、納得度が高まりやすい」(曽山氏)

もうひとつ、3年ぐらい前から実施していてうまくいっているのが、半期の期初に組織全員で組織の目標を考える、という取り組みだそうだ。「組織の目標を決めて、プロジェクトのレポート、部内報のようなものを作ろうという取り組みだが、20〜30人のプロジェクトメンバーが集まって、ホワイトボードにこの半期の目標を大枠で決める。これで個々人の組織に対するモチベーションが変わる。組織の目標は一人一人、個人の目標までブレイクダウンする。また、組織の目標と個人全員分の目標を冊子やポスターにまとめ、役員会に提出すると、役員会で審査を行い、グランプリには100万円の賞金を出す、ということもやっている」(曽山氏)

ポスターはオフィスに掲示して後からでも見ることができるので、組織の目標を折に触れて思い出し、当事者意識が向上する、という効果もあるそうだ。

しらけ社員やミスマッチには対話が効果あり

パネルディスカッションでは、会場からの質問も受け付けた。その中のいくつかを取り上げて、登壇者の方に答えてもらったので、その内容もご紹介しよう。

まずは、社員数が増えてきたときに出てくる「しらけ社員」について。どのように対処していくべきか、曽山氏は「どんなに社員のためを思って制度を導入しても、必ずしらける社員は出てくる。例えば女性向けの制度を用意することで、男性社員から反発が来るとか。しらけることをあらかじめイメージしておくことで対処ができ、人事制度の成功確率は高まる」という。

「しらけは常に、どこかで生まれている。ネガティブは徹底的に排除しなければ、流行する。ネガティブを黙認しておいていいということはあり得ない。ただし、ネガティブな意見が出るのは、気づけていない上司が悪いので、対話が必要。言い分を聞き、言い分が正しければ会社に提案すべきだし、考え方が違う、ということならちゃんと伝えなければいけない。対話してネガティブを排除していくことが必要」(曽山氏)

「メルカリでも、育休や不妊治療などの制度を集めたmerci boxを導入したときに、独身男性社員からは『あれ? 僕らには何かないんですか』という声があった」という石黒氏も「ネガティブに対しては、お互いに気づく仕組みが必要。上司は万全ではないので、斜めのラインでも気づいたときにレポーティングし、マネージャー間でも情報を共有するということはやっている」と話す。

寺田氏は、人事部門としてではなく自分の部署の話として「しらけは絶対出てくるが、何かやるときには目的をちゃんと話すことが大切。そして、しらけが目的に対してコミットしていないために生まれたのか、手法に納得していないのかを、直接話を聞いて確かめる。目的にコミットしていないということなら、もう一度目的をブレイクダウンする。手法に対してコミットしていないということなら、反論は大いにかまわないので、代案を出すように促している」とのことだ。

続いては、能力のミスマッチややむを得ない会社の状況で退職を促すときに、辞める人、残る人のダメージが最も少ないやり方は? という質問。

曽山氏は「大原則は、率直に言うことと早く言うこと」と話す。「仲良くお別れしたいというときには、信頼関係が大事。信頼関係を生み出すのに、こちらから見せるのは誠実さで、誠実さを見せるには、早いことが大事。いきなり今日の明日のようなタイミングで言うのは避けるべき。今の会社の状況を説明して、この能力のままだと半期後に給与が下がる評価をせざるを得ない、レベルアップしたいならミーティングもするし、手伝うよ、というように、寄り添うところを見せつつ、今のままではダメだということを率直に言うようにしている。そうすることで、3〜4割ぐらいは改善する人もいる」(曽山氏)

サイバーエージェントでは「ミスマッチ制度」として、企業文化や価値観が合わない社員の候補を5%出し、その中から人事で判断して役員会で決議した社員を対象に、役員や事業部長との対話により変化を促す、という制度もある。「率直に伝え、一緒に変わろう、と話すことで、これも結構変わってくれる人がいる」と曽山氏はいう。

メルカリの石黒氏は「入社のときのエントリーマネージメントに、徹底的にこだわる」ことで、ミスマッチをなくすようにしている、という。目標達成のために社員の採用目標が高くなってしまうときに、どうしても採用担当者は数が目標になってしまいがちで、目標設定の難しさは感じる、と石黒氏は言いつつ「でも迷ったら採用を見送るようにしている」と話す。「あとはやはり、誠実に対話をしていくということ。社員であるということは、入社するときに採用試験をクリアし、少なくとも役員の面接には通っているわけで。そういう人は離職するとなっても、外でも活躍していくはずだし、どこにいっても離職者にも応援して欲しいし、応援される会社でありたいと思っている」(石黒氏)

寺田氏は「採用のミスマッチを減らすのは大前提」とし、「責任を持って採ったのなら、いいところも悪いところも伝えていくべき」と話す。「最近ではうちも人数が増えて、階層ができてきている。そこで、何か問題がある社員には、2階層以上上の人間からワーニングレターを紙で出し、本人と直接の上司がいるところで『いつまでに改善してください』という話をオープンにしている。マネージャーにとっては、部下は改善できればずっといてほしいもの。改善まで直属のマネージャーが親身になって動けるようにして、変われるように努力できる環境を作っているところ」と寺田氏は直近の取り組みについても説明する。

「これで変わる社員も出てきている。また、中間管理職はどうしても上を見てしまうが、それを(上司の上司が部下本人に話すことで)あえてやらせないようにする。それで、上司も部下とコミュニケーションを取りやすくなっている。また、自分でダメだと思うというときには、部署異動ができるようになっている」(寺田氏)

また、失敗した人事制度についても聞いてみた。曽山氏は、サイバーエージェントで先に挙げた制度のうち「ジギョつく」は既にやめている、という。「10年間やって、成功した事業が1つもなかったからだ。これで分かったのは、事業の起案者と実行者は必ずしも同じ人である必要はないということ。そこで、考えた事業をベストな人選でやることにしたのが『あした会議』だ」(曽山氏)

寺田氏は、人事で採用・評価基準を集約するまでの状況について、こう語った。「事業部で評価制度や採用基準を決めていたときには、徒弟制度みたいになっていた。“俺が採った自分の部下”という雰囲気になり、異動もしにくく、やりづらかった。あくまでも、企業としての文化に合っているのかをちゃんと見るべきだし、採用時にどういう評価をして採用したのか、というのも人事にちゃんと残すべき。そうすることで、その後の評価と見比べて、反復して分かることもある」(寺田氏)

石黒氏は、メルカリでもいろいろと試行錯誤をしている、という。「何でも一回やってみて、早く決断する。そして、やっても効果がないものはすぐにやめる。それで『やめることもあるんだ、この会社の人事』と知ってもらえる。サービスのA/Bテストと同じこと。日本の大きな会社だと人事が言ったことは変わらない、というイメージが強いと思うが、そんなことはない」という石黒氏に「うまくいっていない制度をすぐやめるのは大事。そのパワーを他の新しいことに割ける」と曽山氏が賛同する。曽山氏は「うちは制度を始めるときに、何年何月には見直します、と宣言している」と制度をやめることを簡単にするTipsも紹介してくれた。

 

パネルディスカッションの最後に、人事担当者はどうあるべきかについて、それぞれに意見を聞いた。石黒氏は「最近、チームメンバーにも99.9を99.99にするといった、小さなことも大切にすることが大事、と話している。採用の場合は、相手に2人同じ人はいない。100人オファーして100人を採用できる会社は、世の中に存在しないはずなので、最後まで、ぎりぎりできることを、ちゃんとやりきることがとても大事だと思っている」と語る。

「また、(今やっていることを)やめること、現状を変えることも大事。スケールしていくことが必要であれば、2人目をチャレンジで採ってみるとか、社内で異動させるとか、スケールする方へ注力するということも、現状を変えるためには必要だと思う」(石黒氏)

曽山氏からは「人事制度を成功させるためには、学習と実験が大切だとよくチームメンバーには話している」とのこと。「インプットがないと、どうしても思考の幅が狭まる。本を読むとか、学習をして選択肢を増やすことと、それを実験することが大事」と曽山氏はいう。

さらに曽山氏は「制度を作ることに頭が行きがちだが、制度じゃなくて、まずは個別の例外対応をやった方がいい」と述べた。「例えば介護についての相談が来た、ということであれば、まずは介護についてその人に向けたアプローチを特例としてやった方がいい。それが増えてきたら、制度化していったらいい。サイバーエージェントの人事制度は、基本的に個別対応が先にある。例外対応をこっそりやる、というのを僕らは結構やっている」(曽山氏)

また寺田氏は、人材サービスを提供している会社としてコメント。「メルカリでもサイバーエージェントでもそうだが、成長企業は人事情報の発信が上手で、しっかりと発信している。採用情報もそうだし、常日頃のアプローチもそうだし、自社がどういうことをやっているのかを、発信していくことは大切。最初は『こんなことを言ってもなあ』ということだったりするが、それでも、やっていることは発信しないと分からないし、理念だってあるのかないのか、どんな人がいるのかということだって、出していかないと分からない。まずはオープンにしていく。メルカリやサイバーエージェントのやっていることはすごいけれども、そこに近づけていくように進めることが重要だと思う」(寺田氏)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。