手数料無料の決済サービス「SPIKE」、いよいよオープンベータ版を公開

2013年にメタップスが発表した手数料無料の決済サービス「SPIKE」が本格始動する。4月14日より日本でオープンベータ版の利用が可能になる。

SPIKEはクレジットカード決済機能のついたリンクを作成することで、手軽に決済を実現できるサービス。同様のサービスには米国では「Stripe」、国内では「WebPay」やヤフーの「Yahoo!ウォレットFastPay」などがある。

無料と有料の2つのプランを用意する。個人事業主や小規模事業者向けの「フリープラン」は、初期費用、月額費用、決済手数料が無料。月間100万円までの決済が利用できる。今後は月間の決済上限額を引き上げていき、最終的に完全無料での提供を目指すという。

中規模事業者向けの「ビジネスプレミアム」は月額3000円。月間1000万円までの決済については手数料が無料となっており、月間1000万円を超える部分に関しては2.5%の決済手数料と30円のトランザクションフィーで利用できるという。また今後は、開発者向けにAPIの提供も予定する。

なお現在はオープンベータ版につき、「フリープラン」のみの提供になるほか、決済に対応するのは日本円とUSドルのみとのこと。今後は対応する通貨も拡大する。2016年に年間2兆円の決済額を目指す。

当初は「昨年夏以降に公開予定」としていた同サービスだが、特許やリスクマネジメントへの対応・仕組みの構築と、各国でのサービス提供のためのレギュレーションや法律上の調整などにかなり時間がかかったという。メタップス代表取締役の佐藤航陽氏によると、「世界中で使われるサービスの提供をしたいと考えていた」とのことで、米国、欧州、日本など主要先進国でリリースに向けた事前の準備に相当時間をかけていたそうだ。

フリーミアムモデルでスモールビジネスの無料化を実現

サービスの発表当初から言われていた「完全無料」のサービスは、現在発表されている限りはいわゆるフリーミアムモデルとなる。メタップスではSPIKEによって「カード決済を導入できなかったスモールビジネスを支援する」としているが、継続可能なビジネスとして、どうやって無料化を実現するのだろうか。

佐藤氏は「決済のトランザクションは、上位1割が全体の9割のボリュームを稼ぎ、その他9割が1割のボリュームを稼ぐ非対称性を持つケースが多い」と説明する。SPIKEでは、今後開始する予定のビジネスプレミアムでその“上位1割”からフィーを得るほか、そこから派生する付加価値の提供によって無料サービスを進めていくという。「そこから派生する付加価値」については詳細が明らかにされなかったが、国内ではベリトランスやカンムなどが決済データを利用したマーケティングサービスを展開しているが(詳細はこちらの記事を参考頂きたい)、そういったサービスも予定されているのかもしれない。

メタップスはアプリのリワード広告事業を手がけるスタートアップ。スタートアップとは言っても2007年創業で当初はコミュニティサービスを運営していた。その経緯についてはこちらの記事に詳しい。最近ではLINEのリワード広告「LINEフリーコイン」の販売パートナーとなっている。

実はこのサービス、メタップスのシンガポール法人からのリリースとなる。アジアでは、国によってはカード決済がまだ主流となっていないケースも少なくない。メタップスでは今後、カード決済以外のモバイル決済の展開も視野に入れているとのことで、サービスの拠点にシンガポールを選んだという。実はメタップスのアプリ広告事業も、もともとシンガポールからアジア全土に展開していったそうで、そのノウハウも生かしたいとしている。

アジアの決済領域というと、たとえばGMOベンチャーパートナーズなどもアジア特化のファンド「GMO Global Payment Fund」を設立して、モバイル決済サービスを展開するアジア企業に出資していたりする。余談にはなるが、先日その理由について現在シンガポールに拠点を置くGMO-VPの取締役 Founding Partnerの村松竜氏に尋ねたところ、「日本人であればカード決済が主流になっていなければ『どうカード決済を拡大させるか』と考える。だが現地で生活してみれば、モバイル決済でも、ATM決済でも、『利用されている決済サービスをどう拡大するか』と考えるようになる」と語っていたのが印象的だった。このあたりはまた別の機会に紹介したい。

現在の「お金」の矛盾を解消したい

話をメタップスに戻すが、僕は佐藤氏が1月に書いたブログエントリー「グローバル化とインターネットのその先にある世界:あらゆる境界線が見直される10年間」を読んで、これまで自分で取材してきた企業、サービスがどのように世界を変えていく可能性があるのか、ということを考える際のヒントをもらった気がしていた。

ブログ内で「テクノロジーが境界線を引き直す」「『営利と非営利』ではなく『価値』がとらえられる社会になる」といった持論を展開していた佐藤氏が、そもそもなぜ手数料無料の決済サービスを開始したのか。「会社の代表者としては、現在の経営資源を活用して大きく成長できそうな分野だと感じたから」とした上で、佐藤氏は次のように答えてくれた。

「創業者のエゴとして言えば、現在の『お金』が作り出した世界全体の矛盾を解消するのが人生の目的。私は、通貨や経済システムも競争にさらされたほうが切磋琢磨してより健全になると考えていた。独占が起こると進化が止まってしまうので、経済の根底の仕組みそのものをテクノロジーで民主化できる方法を探していて、SPIKEはその仮設が正しいかを実世界で実証するための試み。現実世界の経済と仮想世界の経済の接合点である「決済」は最初におさえておきたかった」(佐藤氏)。以前のブログでも、その詳細が語られている。

 


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TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。