技術的、機械的なメンテナンスや修理をより効果的にする拡張現実プラットフォーム「SightCall」

新型コロナウイルス(COVID-19)が企業にデジタルトランスフォーメーションの波を引き起こすはるか前から、カスタマーサービスやカスタマーサポートはオンライン上やバーチャル上で運用されるよう設計されてきた。それでもなお、この分野はテクノロジーの力を借りて引き続き進化し続けているようだ。

2021年5月、SightCallというスタートアップが4200万ドル(約46億円)の資金調達を発表した。同社はフィールドサービスチームやそのチームが所属する企業、そしてその顧客が技術的および機械的なメンテナンスや修理をより効果的に行うための拡張現実プラットフォームを構築している。今回の資金は人工知能ツールの追加や顧客基盤の拡大など、同社の技術スタックへの投資に充てられる予定だ。

CEO兼共同設立者のThomas Cottereau(トーマス・コテロー)氏によると、同社のサービスの中核となるのはAR技術であるという。この機能は同社のアプリや顧客が使用するサービスアプリに組み込まれており、またMicrosoft、SAP、Salesforce、ServiceNowなどの顧客サービス環境で使用される標準的なソフトウェアにも統合されている。この拡張現実では、ビデオストリーム上に追加情報やポインターなどさまざまなツールが重ねて表示される。

例えばフィールドサービスエンジニアが機器を修理する際に本社と連携したり、または緊急時や何かが故障した際にエンジニアを呼ぶよりも顧客自身で修理したほうが早い場合にメーカーが利用したり、あるいはコールセンターがAIの助けを借りて問題を診断したりする際などに、このテクノロジーが使用される。これまで作業指示書や急いで用意した図面、取扱説明書、口頭説明に頼って作業を進められてきた状況が、これにより大きく前進することになる。

「我々はフィールドサービス組織とお客様の間に存在する壁を打ち壊しているのだと自負しています」とコテロー氏は話している。

長年かけて構築された同テクノロジーはSightCall独自のもので、一般的なスマートフォンを使って通常のモバイルネットワークでも使用できるように設計されている。電波状況が悪かったり、離れた場所にいたりする際などに活躍するのだが、その仕組みについては後ほど詳しく説明したいと思う。

当初はフランスのパリで設立され、その後サンフランシスコに移転した同社だが、これまでに保険、電気通信、輸送、テレヘルス、製造、ユーティリティー、ライフサイエンスや医療機器など幅広い分野で大規模なビジネスを構築してきた。

SightCallはKraft-Heinz、Allianz、GE Healthcare、Lincoln Motor Companyなど約200社の有名企業の顧客を抱えており、B2Bベースでサービスを提供している他、現場に出て消費者顧客のために尽力するチームにもサービスを提供している。2019年と2020年の年間経常収益が前年比100%の伸び率を達成したSightCall。同社CEOは2021年もその伸び率を達成できそうだと話し、年間経常収益1億ドル(約110億円)を目標としている。

今回の資金調達は欧州のプライベートエクイティ企業であるInfraViaが主導し、またBpifranceも参加する。今回のラウンドの評価額は公表されていないが、ある投資家から聞いた話によると、PitchBookが発表したポストマネーの1億2200万ドル(約133億5000万円)という見積もりは正確ではないようだ(この件についてはまだ調査中のため、何か分かったら更新しようと思う)。

InfraViaは複数の産業ビジネスに投資しており、最近ではJobandtalentへの投資など産業ビジネスに関連したサービスを提供するテック企業への投資も行っている。これは戦略的な投資であり、SightCallはこれまでに6700万ドル(約73億円3000万円)を調達している。

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近年、最前線や現場で働く人々が使用する技術スタックを構築するスタートアップが続々と登場している。これは新世代のアプリケーションを構築するスタートアップが、ナレッジワーカーに注目しているから故の変化である。

WorkizJobberは中小企業のビジネスマンが仕事を入れたり管理したりするためのプラットフォームを構築しており、BigChangeは大規模なフリートマネジメントをサポート。Hoverは建設業者が自身や潜在顧客のスマートフォンのカメラで撮影した画像をAIで分析することで、工事のコストを評価して見積もることができるプラットフォームを構築している。

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Streemは比較的SightCallに似た競合企業で、同社はGoogleでのSightCallの検索結果に基づいてGoogle広告を取得しているようだ。新型コロナのパンデミックが始まる直前、General Catalystが支援するStreemがFrontdoorに買収され、Frontdoorのホームサービス事業の構築に貢献していることからも、こういった事業がいかに躍進を遂げているかよくわかる。

SightCallが他と比べて際立っている理由はその技術にある。2007年、現在は製品・エンジニアリング担当SVPのAntoine Vervoort(アントイン・ベルボー)氏コテロー氏とが共同で設立した同社だが、この2人は通信業界に長く身を置き、ともに次世代ネットワーク構築の技術面を担当してきた。

モバイルウェブやSMSアプリにリッチメディアサービスを導入しようと各社取り組んでいた当時、同社はWebRTCベースのフレームワーク上で動作するビデオチャットサービスを構築するWeemoという会社として事業を開始している。一般消費者や多くの企業にとって「オーバーザトップ」(携帯電話会社ではなく、携帯電話のOSを運営する企業が配信し、そのために一部をコントロールする)で動作する携帯電話アプリは、メッセージングやメッセージングにおけるイノベーションの市場をリードし、現在も優位に立っている。

その後Weemoは方向性を転換してSightCallに社名を変更し、自社で開発した技術を企業顧客が望むアプリ(ネイティブまたはモバイルウェブ)にパッケージ化することに注力した。

SightCallが構築された方法こそが、同社の仕組みのカギとなったとコテロー氏は説明する。同社は10年の歳月をかけて顧客に近いデータセンターにネットワークを構築、最適化してきた。このネットワークはTier 1の通信事業者と相互接続しており、アップタイムを確保するためにシステムには多くのレイテンシーを持たせている。「この接続性がミッションクリティカルな企業と仕事をしているため、ビデオソリューションは完璧でなければなりません」。

同氏の説明によると、SightCallが構築したハイブリッドシステムはテレコムハードウェアとソフトウェアの両方で動作する独自のIPを組み込んでおり、その結果、ビデオストリーミング向けの10種類の方法を提供するビデオサービスと、ユーザーがどこにいるかによって特定の環境下で最適なものを自動的に選択するというシステムを実現している。これにより、モバイルデータやブロードバンドの電波が届かなくてもビデオストリーミングが可能になるというわけだ。「通信業界とソフトウェア業界の間にはいまだに大きな壁があり、考え方も異なります。だからこそ我々の秘密兵器であるグローバルローミングメカニズムが重要になってくるのです」。

同社がこれまでに構築してきた技術は、この分野への参入を検討している他の企業に対して確固たる基盤を与えたと同時に、顧客からの強い支持も得ることができた。SightCallの技術をすでに使用している業界で採用されている自動化をより深く活用するため、その技術を継続的に構築していくというのが同社にとっての次のステップである。

InfraVia Capital PartnersのパートナーであるAlban Wyniecki(アルバン・ウィニエツキ)氏は声明の中で次のように述べている。「SightCallはARを利用したビジュアルアシスタンスの市場を開拓し、リモートサービスにおけるデジタルトランスフォーメーションを推進するためのベストポジションに立っています。グローバルリーダーとしての能力をさらに押し広げ、よりインテリジェントなサービスを提供するとともに、人々が最大限の力を発揮できるようにするため、今後もますます多くの自動化を実現してくれることでしょう」。

「今回の4200万ドルのシリーズBは、この分野では最大の資金調達ラウンドです。資本、R&Dリソース、業界をリードするテクノロジー企業とのパートナーシップにおいてSightCallは紛れもないリーダーとして確立し、同社のソリューションを企業の複雑なITに組み込むことを可能にしました。より大きなスケールでの顧客中心性を実現すると同時に、効率性を引き出し、継続的なパフォーマンスと利益をもたらす知識と専門性で技術者を増強する、SightCallのようなソリューションを企業は求めています」とBpifranceのAntoine Izak(アントイン・イザック)氏は付け加えている。

コテロー氏によると、同社はこれまでに何度も買収のオファーを受けてきたという。信頼性の低いネットワーク環境でも機能し、異なるキャリアやデータセンター間のビデオネットワークを構築する方法について同社が築き上げてきた基盤技術を考えれば、これはむしろ当然のことである。

「独立した存在であり続けたいと思っています。この先に巨大な市場があると信じているため、自分たちでこの旅を進め、リードしていきたいと思っています。それに、独立性を保ちながら皆とともに仕事を続けていく方法が私には見えているのです」。

カテゴリー:VR / AR / MR
タグ:SightCall資金調達拡張現実フランス

画像クレジット:yoh4nn / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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