技術者はもはや時代遅れ?コーディング不要のツールを開発するBubbleが111億円調達

シリコンバレーでは、コンピュータサイエンスや技術教育の不足が世界のGDPレベルをどの程度押し下げているのかを議論するゲームが盛んに行われている。もし何十万人、何百万人もがコードを書けるようになって、起業家としてアイデアを実現できるようになったら、どれだけ多くのスタートアップ企業が誕生するだろうか?すべての企業で開発者が増えれば、どれだけ多くの官僚的なプロセスを排除できるだろうか?

もちろん、答えは「たくさん」だが、実現までには依然として高い障壁がある。コンピュータサイエンスは難易度の高い分野で、教育現場のカリキュラムにコーディングを導入しようとする議会の積極的な働きかけにもかかわらず、現実の市場ではソフトウェアエンジニアリングの需要が供給を大幅に上回っている。

Bubble(バブル)は、誰もがソフトウェアを開発できるようにして、新たなスタートアップの創出に貢献したいと考えている。同社のプラットフォームでは、コードを書ける人も書けない人も、クリック&ドラッグでデータソースや他のソフトウェアを結びつけることができるフルイドインターフェース(fluid interface、流れるような操作性を持つインターフェース)を使って、誰もがモダンなウェブアプリの構築を始めることができる。

これは大胆な夢だろうか。Bubbleも同様に大胆な賭けに乗ったばかりだ。Bubbleは米国時間7月27日、Insight Partners(インサイトパートナーズ)のRyan Hinkle(ライアン・ヒンクル)氏が主導するシリーズAラウンドで、1億ドル(約111億円)を調達したと発表した。ヒンクル氏は、Insight Partnersで長年マネージング・ディレクターを務め、成熟企業のバイアウトや成長期のSaaS企業を専門としている。

このラウンドの規模を大きいと感じるのは、Bubbleが現在の規模に至るまで、自助努力で長い歴史を歩んできたからだ。共同創業者のEmmanuel Straschnov(エマニュエル・ストラスノフ)氏とJosh Haas(ジョシュ・ハース)氏は、2019年6月にSignalFire(シングルファイヤー)が主導するシードラウンドで650万ドル(約7億2000万円)を調達するまで、7年間にわたって資金調達をせずに製品を開発してきた。興味深いことに、2014年、初めてBubbleに接触してきたベンチャー企業はInsight Partnersだった、とストラスノフ氏はいう。それから7年後、2社は契約を締結した。

関連記事:Bubbleは、コーディング経験がなくてもウェブアプリケーションを作れるサービス

シードラウンドで資金調達して以来、同社は同名のツールの機能を拡充してきた。コーディングを要しない(ノーコード)ツールであるBubbleは、機能が十分でなければ、アプリケーションの開発を妨げてしまう。「私たちのビジネスでは、機能が勝負です」「当社のユーザーは技術者ではありませんが、厳しい目を持っています」とストラスノフ氏は話し、同社がプラグインシステムを導入したことで、Bubbleコミュニティがプラットフォームに独自機能を追加できるようになったことを指摘する。

Bubbleはクリック&ドラッグで動的なウェブアプリを設計できるインターフェースを持つ同社のエディタで(画像クレジット:Bubble)

このプラットフォームの成長と、2020年の新型コロナウイルス感染症のパンデミックはタイミングが一致している。パンデミックの中、人々が先行きの危うい雇用市場の中で、新しいスキルや将来性を求めて奔走していた時期だ。ストラスノフ氏によると、Bubbleの利用者は2020年3月、4月に急増し、過去12カ月間で収益が3倍になったという。

Bubbleは過去8年間、人々が自分のアイデアで起業するのを支援してきた。同社の命題は、(大企業のエンジニアリングチームがゼロからコードを書くような多額の費用をかけずに)Bubbleを利用してたくさんの人が起業して、ベンチャーキャピタルから支援してもらえるようにすることだった。

他社のノーコードツールは企業内アプリの構築に注力しているが、ストラスノフ氏は「まだ市場を拡大する予定はありません。5年前にAWS(Amazon Web Services、アマゾンウェブサービス)やStripe(ストライプ)がやったことと同じことをやろうとしています」と話し、これまでと同様、今も新しい企業に焦点を当てていると説明する。Bubbleは(企業内アプリで)企業を支配しようとするのではなく、設立間もない顧客の成長に合わせて拡大していきたいと考えている。

Bubbleは現在、アプリケーションのパフォーマンスとスケールの要件に応じて、さまざまな価格を設定している(無料版、月額25ドル[約2750円]~のプロフェッショナル版、月額475ドル[約5万2190円]の最上位版)。また、企業価格や、学生向けの特別価格も用意されている。

後者については、Bubbleは新たに調達した資金を使って、教育分野に重点的に投資したいと考えている。使いやすいプラットフォームとはいえ、ウェブアプリのデザインは、初めて使う人、特に技術者ではない人にとっては躊躇するものだ。そこで同社は、多くの学生にこのプラットフォームを利用してもらうために、たくさんのビデオやドキュメントを作成して、大学との提携にも積極的に投資していきたいと考えている。

ノーコードの分野には莫大な投資が行われているが、ストラスノフ氏は「ノーコードのプレイヤーはいずれも競争相手ではありません。本当の競争相手はコードです」と話す。ストラスノフ氏は、ノーコードを謳うスタートアップ企業が増える一方で、Bubbleが手がける特定のニッチ分野に参戦する企業は非常に少なく、同社はそのカテゴリーで魅力的な価値提案を行っている、と確信している。

Bubbleはパンデミック以降人員を倍増。約21人だった従業員は現在は約45人となっている。従業員はニューヨークに多少集中しているが、リモートで業務を行っているので、米国15州とフランスで働く従業員も在籍する。ストラスノフ氏によると、今回の資金を使って製品を拡充するために、技術者を積極的に採用したいと考えている、とのことだ。

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画像クレジット:Bubble

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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