持続可能なデジタルの未来への責任とは、World Wide Webが30周年

【編集部注】著者のムニール・マジュビ(Mounir Mahjoubi)は、フランスのデジタル問題担当国務長官である。

ネットワーク世界の次の30年を確かなものに

2019年3月12日(欧州時間)に、私たちはティム・バーナーズ=リーの画期的発明である「World Wide Web」の30周年を迎えた(30年前のこの日にWWWの最初の提案書が提出された)。

わずか30年の間に、このインターネット上のフラッグシップアプリケーションは、私たちの生活、習慣、考え方、そして世界の見方を一変させてしまった。だが、この記念日は私たちの口の中に、ほろ苦い味を残している。初期の分散型でオープンだった(すなわちユーザー同士がつながることが可能だった)Webは、徐々にとても異質なものへと進化してきた。それは私たちのデータを握り、自分たちのやり方を押し付けてくる巨人たちの手の中に、集約されつつあるのだ。

私たちは自分たちの仕事や気持ち、そして人生の多くの時間を、インターネットの上に注いできた。その結果は善いものもあれば、悪いものもある。大規模テック企業によるビジネス用途を超えて、私たちのデータは悪意ある連中にとって貴重なリソースを提供してきた。彼らはそうした棚ぼた的リソースを用いて、クラッキング、窃盗、そして脅迫を行っているのだ。市民、大小の企業、政府:オンラインの捕食者は誰に対しても容赦することを知らない。この情報と知識の鉱山は、危険な攻撃のための肥沃な基盤を提供してきた:ヘイトスピーチ、サイバーいじめ、情報操作やテロの実行声明 ―― こうしたもの全てが、増幅し、伝達され、国境を超えて広がっていったのだ。

自由放任主義か統制か:2つの悪からの選択

こうした度を超えた問題に直面したことで、Webとインターネットに対する統制を取り戻すことを決意した国家も登場している。情報と通信のフィルタリングを行い、データの流れを制御し、統治と安全のためにデジタル機器を使うのだ。このアプローチの結果として現れるのは、広範囲にわたる検閲と監視である。これは私たちの持つ価値と社会観に対する大きな脅威である、このような「サイバー主権」プロジェクトは、オープン性と束縛からの解放性の精神の下に構築された、最初のWebの目的に反するものでもある。サイバー境界線を設置したり永続的な監視を行うことは、Webにとって致命的なことなのだ。

そのような結果を避けるために、これまで多くの民主主義者は、利益と革新の好循環を維持しながら、自由放任主義と最小限の介入を支持してきた。自主規制が唯一の防波堤なので、悪い影響は残ってしまっていた。だが、もはや自由放任主義は、もはや革新を育むための最良のゆりかごではなくなっている:システマティックになった大企業によってデータは独占され、ユーザーたちの選択の自由は、垂直統合と相互運用性の欠如によって制限されている。無益な競争は私たちの経済の革新能力を脅かす。

さらに、自由放任主義は、より強い介入主義または敵対的な立場を選んだ者たちに対して、脆弱であることを意味している。この問題は、今日のインフラストラクチャにとっては特に深刻だ。私たちはそのことを無視したまま、オープンであることを続けて、ソリューションの選択を単に経済的な競争だけに任せたままにしておくべきなのだろうか?それとも、私たちの技術的主権と安全を守る必要性を、支持すべきなのだろうか?

都市景観上クラウドで接続するモノのインターネット。

写真提供:Getty Images/chombosan

第3の道を拓く

これらの落とし穴を避けるためには、フランス、ヨーロッパそしてすべての民主主義国家が、自分自身のデジタルの未来をコントロールしなければならない。こうしたデジタル成熟時代には、スマートなデジタル規制と高度な技術的主権の両方が必要とされる。

説明責任を負う大きなアクターを用意することは、理にかなっており必要な最初のステップだ。

危険なコンテンツの視聴者たちをつなぎ増大させるプラットフォームたちは、情報と予防に対してより強力な役割を担う覚悟が必要だ。消費者の健康と安全が、ワンクリックで買える危険なもしくは偽造の品によって損なわれるならば、電子商取引にも同じような役割が期待される。同じ関心は、競争する大規模プレイヤーたちにも適用されるべきである。垂直統合は、利用者の商品、サービス、あるいはコンテンツの選択を妨害してはならない。

しかし、私たちの対策が効果的でかつ革新の余地を残すためには、「スマートな規制」をデザインしなければならない。もちろん私たちの目標は、デジタル関係者全てに、無差別で不均衡な規範的負担を強いることではない。

そうではなくて、「スマートな規制」は、公的機関との密接な対話の枠組みの中で、最大のプレーヤーたちの透明性、監査可能性、そして説明責任を求めるものだ。これを念頭に置いて、フランスはFacebookと共同で、ヘイトコンテンツに関する6か月の実験を開始した。この実験の結果は、このトピックに関する現在および今後の立法作業に貢献することだろう。

そうする一方で、私たちの影響力を維持し、このビジョンを推進するために、私たちの技術的主権を強化する必要がある。ヨーロッパでは、この主権はすでに、アメリカとアジアのプレイヤーたちの蔓延によって損なわれている。私たちの経済と社会がますます結び付くようになるにつれて、問題はより切迫したものになっている。

最も戦略的で破壊的な技術への投資、一般の関心が高いデータの共有のための、革新的で規範的な枠組みの構築など、私たちは信頼性があり効果的な解決策の出現の支援に注力している。しかし、インフラストラクチャのセキュリティが危険にさらされる可能性がある場合には、保護対策を回避することはできない。

この持続可能なデジタルの未来を共に構築するために、5月16日には、私のG7カウンターパートをパリに招待する予定だ。議題では、3つの優先事項が取り上げられる:オンラインヘイトとの戦い、人間中心の人工知能、そしてデジタル経済における信頼性の確保(特に5Gとデータ共有の話題を中心に)である。

私たちの目的は?責任を持つことだ。ただ待って見ていれば良い時代は終わった。

私たちの力は?意志と力を結集すれば、私たちの価値観が勝利を収めるだろう。

私たち全員に、信頼できるWorld Wide Webをデザインする責任がある。それはまだ私たちの手の届くところにあるが、もはや行動を起こすべきときがやってきたのだ。

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(翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

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