提携先ベンチャーの視点で語る「ヤフーと組んで良かったこと、悪かったこと」とは


ベンチャーにとってヤフーとの提携は良いことずくめなのか、悪いことはないのか――。2月7日、こんなテーマでヤフー経営陣と提携先であるグリーの田中良和社長、アスクルの岩田彰一郎氏、コミュニティファクトリーの松本龍祐社長がトークを繰り広げた。トークセッションは、ヤフーとの提携に関心がある企業を招待するセミナー「Yahoo! JAPAN 提携・出資説明会 2014春」(関連記事:先着300社、ヤフーが協業・出資に興味のあるスタートアップを今年も募集)の一コマとして開催されたもの。会場には300社を超える企業が詰めかけ、興味深そうに耳を傾けていた。

アスクルの岩田彰一郎氏

「提携直後は株価が暴落したが、めちゃくちゃ良かった」と振り返るのは、2013年4月にヤフーから約330億円の出資を受けたアスクルの岩田社長。当時、証券アナリストからは「なぜ保守的なヤフーと組むのか」と批判されたが、新経営陣と初めて会った時に「自分たちも爆速で走れる」と確信。ヤフーの集客や決済と、アスクルの物流網を組み合わせれば「ECの最強タッグ」が組めると考え、一目惚れで資本・業務提携が決まったと話す。提携半年後の10月には両社でネット通販サイト「LOHACO(ロハコ)」を立ち上げた。

グリーは2012年11月、ソーシャルゲームやコンテンツの相互活用などで包括的な業務提携を発表。同社の田中社長は、ヤフー経由で「相当なトラフィック」を獲得できたことに加えて、仕事の仕方を学べたのが大きかったと語る。

「取締役会の資料でも作り方がぜんぜん違う。ヤフー規模の会社の監査体制はどうなのかと気になって、監査役を紹介してもらったりと、提携先でないと聞きにくいことも聞けた。事業のシナジーだけでなく、会社としての学びがあった。」

コミュニティファクトリーの松本龍祐氏

2012年9月、ヤフーに約10億円で買収されたコミュニティファクトリーは、写真加工アプリ「DECOPIC(デコピク)」を手がけるスタートアップ。2013年4月にオフィスをヤフー社内に移し、自社サービスの開発を続けながら、ヤフーのアプリ開発室室長を務める松本氏は、「ヒト・モノ・カネ」の多さを実感したという。

「4月以降、メンバーの人数が2倍以上増え、アプリのユーザー数も半年で2倍になった。社内にはAWSのような環境や決済などの仕組みがひと通り揃っていたので、フロントの開発部分に集中できたのが大きい。」

ヤフーからのトラフィックは「濡れ手に粟」ではない

グリーの田中良和氏

業務提携、資本提携、子会社化……と立場は異なる3人は、三者三様でヤフーとの提携のメリットを挙げる。その一方で、当初の見込みと違ったことはなかったのか?

この点について松本氏は、「ヒト・モノ・カネがばんばん投入してもらえると思っていたが、半年くらいはトントン拍子に行かなかった」と語る。とはいえ、その理由は「ヤフーに対する理解度が足りなかった」ためで、オフィスをヤフーに移して物理的な距離が近づいたことで、提携にスピード感が増してきたという。

ソーシャルゲーム領域でトラフィックを獲得できたことをメリットに上げた田中氏だが、「濡れ手に粟ではなかった」と振り返る。「ヤフーは子供から老人までが幅広く使っているが、グリーのユーザー層と異なればコンバージョンも悪くなる」。この発言にはモデレーターを務めたヤフー副社長の川邊健太郎氏も「当時はこれだけトラフィックを送ってるんだとヤフーが言うと、グリーも送り込まれても換金しないと言い合うことがあった」と認める。

こんな企業がヤフーにフィットする

ヤフーの川邊健太郎氏

それでは、ヤフーとの提携はどういった企業がフィットするのか。

この点について松本氏は、「ヤフーが弱い部分にハマると良いお見合いになるのでは」と指摘。当時は「女性向けサービスが強くない」と見ていて、提携するメリットを見出したのだという。とはいえ、ヤフーに子会社化されるにあたっては、「自分たちがベンチャーであることを考えると最初は怖かった」が、実際にM&Aされるとスケールの違いが面白かったと語る。

「ネット業界のデバイスシェアやEC化率が何%だからこうなる、といった膨大なデータが社内にあって、それに基づいて新しい戦略を作っていくのはゲリラ的なベンチャーとはぜんぜん違う。こうした仕事のやり方はメンバーの成長にもつながった。ヤフーはいろんな会社を買収しているので、社内に面白いメンバーが多く、一緒に仕事をするのがエキサイティング。」

ヤフーが弱い部分という点では、「グリーにとってゲームがフィットした」と語る田中氏。また、組織面では「ヤフーのような大きな会社と一緒になって動かしていくには、組織を動かすプロトコルを知っていないとやりにくいかもしれない」と指摘。偶然にもグリーでヤフーとの協業を進めている社員は「元ヤフーさんが多い」ことから、来場者に向けては「提携前にはヤフーの社員を引き入れることから始めては」と呼びかけて会場を笑わせる一幕もあった。

ヤフーの大矢俊樹氏

こうした意見に対して、ヤフーの最高財務責任者(CFO)を務め、同社投資子会社のYJキャピタル社長でもある大矢俊樹氏は、「事業的な補完関係も重要だが、最終的には勢いも大事」と語る。「両社が『やろう』と最後に踏み切れるかどうかは相手との信頼関係によるところが大きい。やらない理由は簡単に100個ぐらい挙げられるが、最後に後押しするのは腹を割った関係かどうか」。

2012年4月に経営陣を刷新したヤフーは新体制以降、31社に総額750億円を出資、そして提携先企業が期待するヤフーからのトラフィックは累計で約15億クリックに上るのだという。新体制になってまもなく2年。川邊氏は「外見のサービスは変わっていないかもしれないが、経営の仕組みや精神は完全にベンチャーに戻したつもり」と述べ、来場者に協業を呼びかける。ベンチャー魂を取り戻したヤフーは、同社が経営理念に掲げる「爆速」で世間を賑わせるサービスを生み出せるか。期待したい。


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TechCrunch Japan

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