放射線科のITを根本から再構築するNinesのAIアルゴリズムをSirona Medicalが買収

デジタル放射線科のための「OS(オペレーティングシステム)」を開発しているSirona Medical(シロナメディカル)は、米食品医薬品局(FDA)が認可した分析およびトリアージのアルゴリズムの開発元Nines(ナインズ)を買収した。この買収は、AIを使った放射線技術がやや不安定な時期に行われた。しかし、Sironaはこの動きによって「臨床ワークフローにAIを導入するためには、物事を一から作り直す必要がある」という同社の考えが証明されることに賭けている。

SironaとNinesがどの部分で一緒になってうまくいくのかを理解するには、放射線治療の背後にあるITをレイヤーケーキに見立てて考えるといい。そのケーキの最初の層は、医療画像データベースでできている。2つ目の層は、閲覧や報告のソフトウェアなど、放射線科医が日常的に接するソフトウェアだ。3つ目の層は、これらの画像のパターンを検索したり、医師の意思決定を支援したりするAIアルゴリズムで構成されている。

Sironaの主力製品であるRadOSは、この下の2層をまとめ、その上にAIアルゴリズムを重ねられるようにすることを目指していて、NinesのAIはの下の2層で大きな進歩を遂げた。

Ninesは、実際に医師の意思決定をサポートできるとするアルゴリズムを作り出した。そのうちの1つは、科学者が肺の結節(異常な増殖)の大きさを測定し、呼吸器疾患の発見に役立てるというアルゴリズムだ。もう1つのアルゴリズムは、脳のCT画像を分析し、頭蓋内出血や腫瘤の兆候を検出するものだ。医師が患者をトリアージするのを支えることを目的としている(両アルゴリズムともFDAの510(k)認可を取得している)。

RadOSプラットフォーム(画像クレジット:Sirona Medical)

今回の買収は、臨床医のワークフローにアルゴリズムを真に統合するためには、第1層と第2層を統合する必要があるからだとSirona MedicalのCEO、Cameron Andrews(キャメロン・アンドリュース)氏はTechCrunchに語った。RadOSは、その問題を解決する準備ができているという。

ヘルスケア分野におけるAIは、最近混迷を極めている。一方で、1月にIBM Watson Healthがスピンオフし、AI放射線科の楽観論者に打撃を与えた。しかし、熱意は冷めていない。同じ月に米国最大の外来画像診断プロバイダーであるRadnet(ラドネット)は、がん、肺疾患、神経変性のAI画像解析に投資する2社を買収した。

そして、誰もが触れない点がある。それは、期待されるAI放射線科革命は、まだ到来していないということだ。米放射線学会の会員約1400人を対象に2021年に行われた調査で、現在臨床でAIを使用している放射線科医はわずか30%であることが明らかになった。AIを使用していない人の20%は、5年以内の新AIツール購入を計画していた。

Sironaの主張は、放射線科でのAI活用を阻んできた問題は、業界のレガシー技術に深く食い込んでいるというものだ。前述の「層」はすべて一緒に機能するように設計されていない。

臨床支援アルゴリズムを追加する前でさえ、放射線科医はすでに3つか4つの異なるソフトウェアで作業している、とアンドリュース氏は話す。そして、AI機能を採用した新しいソフトウェアを追加しようとすると、それらのソフトウェアにさらに別のものを追加しなければならない。「Radiology Artificial Intelligence」のあるレビュー論文によると、堅牢なAIソフトウェアは、個々のワークステーションにベンダー固有のソフトウェアをインストールする必要があるとのことだ。このプロセスは、新しい技術を採用する際に複雑さをさらにもたらすことになる、と同論文は指摘している。

「私たちは、基礎となる放射線科ITスタック自体、そしてより広範な基礎となるイメージングITスタックは、放射線科医が抱えるタスクと、サードパーティのAIおよびソフトウェアベンダーが今後10年間に要求するタスクの両方を根本的に処理できないと認識しました」とアンドリュース氏は述べた。

そう考えると、SironaがNinesを買収したことで、それらのトップ層のアルゴリズムがRadOSに統一されることになる。それは医師にとって、実際にどのような意味を持つのだろうか。注釈付き画像からレポートへのシームレスな移行が可能になる、ということだ。肺結節をクリックし、Ninesのアルゴリズムで測定し、さらにクリックすれば、その測定値をレポートに反映させることができる。

「これは、とてもシンプルです。しかし、それにもかかわらず「実現不可能でした」とアンドリュース氏はいう。

RadOsのプラットフォームを利用したメモ帳アプリケーション

「AIやコンピュータビジョンは、ピクセルと言葉を関連付ける能力であり、自然言語処理は、言葉をピクセルそのものに関連付ける能力です」と同氏は説明する。「報告書を作成するためのソフトウェアと画像を見るためのソフトウェアが機能的に分離しているため、このような双方向の接続を今日実現することはできません。そして、それらはアルゴリズムから完全に分離されているのです」。

SironaはNinesの臨床データパイプライン、FDA認可の2つのアルゴリズム、機械学習エンジン、放射線科ワークフロー管理・分析ツールのみを買収した。興味深いことに、同社はNines AIの遠隔放射線の部門を買収していない。Ninesはリモートで働く放射線科医も雇用しており、その専門知識を病院やクリニックに提供している。

Sironaは「放射線科サービス事業を行っていない」ため、遠隔放射線部門はSironaになじまなかったと、アンドリュース氏は話した。しかし、同氏買収の詳細を明らかにするのは却下した。

今回の買収の発端は、投資家の重複と相互のつながりにある。8VCは両社に出資していて、SironaはNinesの投資家であるAccel Partnersとつながりがある。Sironaはこれまでに6250万ドル(約72億円)を調達している。

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(文:Emma Betuel、翻訳:Nariko Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

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