政情不安の中にもチャンス―、私がトルコに戻ってシード投資をする理由

The Republic of Turkey flag hangs on the side of a building as show of solidarity following a July 15 Coup. (DoD Photo by Navy Petty Officer 2nd Class Dominique A. Pineiro)

【編集部注】執筆者のRina Onurは、500 Startups Istanbulのファウンディングパートナー。

トルコでビジネスを拡大したり、スタートアップを立ち上げて資金調達をしようとしているときに、「トルコは今一体どうなってるの?」と国外に住む友人や家族に尋ねられると、げんなりしてしまう。

さらに、ベンチャーファンドを組成しようとしているときに、この地域の複雑さ(さらには自分たちが提供できる価値)を説明するというのもなかなか骨が折れる。

テロ事件に悩まされ、国内や周辺地域の内政問題で不透明感が高まっているトルコが、最近世間を騒がせている。かつては、中東にある世俗的かつ民主的なイスラム国家として、希望の光のように考えられていた国が、今はこのような状態にあるのだ。

また、最近トルコで起きた政権交代によって、この国の「普通」の状態は人に不安感を抱かせるまでになった。クーデーターが発生してから数日後に、私は500 StartupsのDaveからメッセを受け取ったのを覚えている。彼はまず最初に私の安否を尋ね、その次に私たちがその数ヶ月前にローンチした、1500万ドルのアーリーステージ企業向けマイクロVCファンド500 Istanbulをどうするのかを聞いてきた。

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私は、当初の予定から変更はなく、前進あるのみだと答え、それから1週間後の7月22日に、500 Istanbulは最初のクロージングをむかえた。色んな人が私の家族の安否を尋ねるメールを送ってくれる中、私はキャピタルコールのメールを送っていた。国外からトルコを見て何かしらの結論にたどり着くのは簡単だが、トルコに拠点を置く投資家として、私はこの巨大で若く、VCの資本やインフラを貪欲に求める国には、まだ望みがあると思いたい。

未来が見えづらい国であるがゆえに、トルコのスタートアップには十分に投資が行き渡っておらず、結果として大きな成長可能性がまだ秘められているのだ。そもそも私には、この市場で社会的な活動を行う気はない。

500 Istanbulの資金やサービスは、今までにないくらい必要とされているが、それと同時に競合する投資家があまり見当たらないことから、チャンスもこれ以上ないくらいに広がっている。トルコで活動している数少ない既存の大手VCが、レーターステージの企業にばかり投資していることから、アーリーステージの企業は未だ手付かずの状態なのだ。

この背景には、オペレーション上のリスクを抑えようとする、新興国で活動中のVCの戦略もあるだろう。この地域の不確実性から、既にかなりのリスクにさらされていると感じているかもしれない彼らが、実績のあるレーターステージへの投資に専念するというのも理解できる。そこで500 Istanbulがそのギャップを(一部ではあるが)埋めようとしているのだ。

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イスタンブル

上記のような状態にあるトルコのアーリーステージの投資環境で、私は以下の2つのカテゴリーにチャンスがあると考えている。

現地に特化したビジネス

過去10年にわたって、トルコは既に確立された欧米のビジネスモデルを現地市場で上手くコピーしてきた。7500万人に及ぶ人口の平均年齢は26歳で、彼らは驚くくらいインターネットをよく利用しており、支払のための手段も持っている(クレジットカードの保有率はヨーロッパでは第2位)。「クローン」ビジネスを興すというのはあまり魅力的でないというのはわかるが、これは上手くやればかなり儲かる。

さらに、サービスのローカライズや現地社員の採用、サプライヤー探しや規制団体との交渉などのせいで、外資系企業は現地企業に比べて、新興市場でスケールするのが難しい。Gittigidiyor(2011年にeBayが2億1500万ドルで買収)やMarkafoni(2011年にNaspersが2億ドル以上で買収)、Pozitron(2014年にMonitiseが1億ドルで買収)、Yemeksepeti(2015年にDelivery Heroが5億8900万ドルで買収)、Mars(2016年にCJ-CGVが8億ドルで買収)といった例を見ると、グローバル企業が現地のプレイヤーからトルコ市場を奪うことができなかったというのがすぐにわかる。

これはトルコに限った話ではなく、東南アジアでも同じようなパターンが見られた。市場の拡大とともに優秀な企業が巨大化していくという、この地域のマクロ経済的な性質がその背景にある。

世界を相手にしたビジネス

ユニコーン企業のUdemy(500 Startupsが投資)を例として、500 Startupsが過去にトルコで行った、国外に目を向けたスタートアップへの投資は、幸いなことにかなり上手くいっている。このカテゴリーに含まれる企業は、全てトルコ人起業家によって設立され、資金調達やグローバルな成長を求めてアメリカに渡った。UdemyとMobile Actionに関しては、未だにかなりの数のディベロッパーがアンカラで仕事を続けており、彼らはトルコとサンフランシスコを行き来している。

このような企業にとってトルコ市場は、海外市場への進出前に、プロダクトのコンセプト化、テスト、改良を行うテストの場として大きな意味を持っている。結果的に次世代のトルコのディベロッパーは、トルコとシリコンバレー両方で技術を身に付け、将来自分たちが革新的な企業を立ち上げるときのための肥やしにすることができるのだ。

世界に目を向けているアーリーステージ企業への投資の利点は、企業のパフォーマンスとトルコ周辺地域の不確実性の間に関連性があまりないということだ。

移民ファウンダーや、海外のユーザーへプロダクトを届けようとしているファウンダーに投資するということは、トルコ発のテクノロジーの拡散や、未来のトルコのスタートアップエコシステムに寄与しているのと同じことなのだ。

世界に目を向けているアーリーステージ企業への投資の利点は、企業のパフォーマンスとトルコ周辺地域の不確実性の間に関連性があまりないということだ。

WixFiverrWazePlaytikaSimilar Webなど、数々のグローバルプレイヤーを輩出してきたイスラエルがその証拠だ。イスラエルは素晴らしい人材やスタートアップの故郷であり、私はトルコにも同じくらいのポテンシャルがあると信じている。

不確実性によって、今後トルコ周辺地域のイノベーションや投資チャンスが全て消え去ってしまう、とは私は考えていない。長きにわたる激動の時代を生き抜いてきたためか、大多数の欧米人と比較して、私達には粘り強さがあると感じることがある。悪いことが起きたとしても世界は動き続け、人々は何かをつくり、そして消費していくのだ。

これこそ、8年前に私がトルコに戻ってきた理由であり、500 Istanbulが(5年以内に85社へ投資するという目標を掲げ)過去半年の間に15社へ投資を行った理由だ。私は向こう10年の間に、トルコ人起業家の手によって、多くのトルコ発ケンタウルス企業(評価額1億ドル以上の非上場企業)が誕生すると自信を持っており、さらにはいくつかのユニコーン企業も生まれるのではないかと考えている。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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