数百万円の支払い節約もザラ、「モゲチェック」は日本初の住宅ローン借り換えアプリ

mogecheck03

アマゾンで中古書籍を購入するとき、300円か400円で迷うことがある。どの店から買うべきか比較していると1分くらいはかかる。比較すべきは書籍の状態や納期、これまでの書店に対する評価などだ。

支出に慎重になるのは良いことだけど、何をどこで買うかという比較検討にかける時間は、経済合理性から言えば支払う金額に比例していていいはずだ。安いものはカンで選び、10万円、100万円、1000万円とかける時間を増やすべき。もし100円の違いに1分をかける価値があるのなら、100万円の違いを生む買い物なら10000分、つまり1カ月間フルタイムで働く時間くらいをかけても良いはずだ。

現在住宅ローンを抱えている人の多くは、慎重に選んで借り換えをすれば、今後の支払総額が数百万円くらい変わってくることを薄っすら知っていながら、何もしていないのではないだろうか? このところ歴史的な超低金利ということを知りながら、住宅ローンは計算も事務手続きも面倒だからと、つい後回し。そんな人が多いようだ。

6月22日にAndroid版アプリがローンチした住宅ローン借り換えアプリ「モゲチェック」(iOS版は近日公開)は、まさにそういう人のためのローン比較アプリだ。ありそうでなかったこのアプリを使えば、全国120行1000本以上の住宅ローンをランキングして、どこの銀行に借り換えるといくら安くなるかが一目で分かる。

アプリを起動したら、まず現在利用している借り入れ金融機関名を入力する。続いて借り入れの年月、当初借入額、金利タイプを入れると、以下の画面のように借り換えメリット額一覧が表示される。ランキング表示をすれば、金利タイプ別(変動金利、5年固定、10年固定、全期間固定)に各行の住宅ローンが一覧されて、最も安い銀行が表示される。以下のサンプル画面では楽天銀行やイオン銀行などが上位に入っているが、これは店舗型に比べてネット型は販管費が安いぶん、ローンの条件も有利だからだ。

mogecheck02

mogecheck03

mogecheck04

変動金利を選ぶ場合、将来の金利をある程度予測して、その結果がどう総支払額に影響するのかシミュレーションする必要があるが、それができるのがモゲチェックの「アナリシス」という機能。例えば、いま金利が2%上がると仮定すると600万円の差が出るとか、中期的に4%ぐらい上がると考えるのであれば全期間固定でローンを組むのが有利ということが分かる。

mogecheck06

モゲチェックをリリースしたFinTechスタートアップ、MFS創業者の中山田明氏によれば、現在、住宅ローンを組んでいるのは全国約800万世帯と見積もられていて、そのうち借り換えで100万円以上安くできる「メリット潜在層」は400〜500万世帯あるという(情報開示:これを書いているTechCrunch Japan西村とMFS中山田氏は子を介した数年来の友人)。400万世帯で100万円の差額だとしたら、これは総額4兆円に相当する。「本当は借り換えには大きなメリットがあるのに、実際に借り換えをしている人は少ない。現状だと借り換える人たちは1年間で20万世帯ぐらいしかない。気付いてるけどめんどくさいんですよね。金利1.5%だから得するんだろうなとまでは考えるものの、アクションに繋がっていない」(中山田氏)

なぜ今までこのようなアプリがなかったのだろうか? 比較自体はネット上にそうしたサービスがあるのでは? という疑問が湧く。

photo03「確かにに住宅ローン比較サイトはありますが、これは人気ランキングといったよく分からない基準でランキングされたもので、それを使ってもどこの銀行に借換えすれば一番得するのかという答えは出ません。住宅ローンは事務手数料があったり、優遇幅が変更されたり、色々なパターンがあるので、それらを全て加味して比較するには総返済額で比較するしかありません。それを簡単な情報入力でやってくれるのがモゲチェックです」(中山田氏)。

住宅ローンというのは、ほかの一般的な借り入れとは性質が違っていて、期限前弁済にペナルティーが存在しない。貸した側からすれば、今後10年とかで払ってもらえるはずだった利息分なしに繰り上げて返済されると困るわけだが、住宅ローンは借り手が有利にできている。いつでもペナルティーなしに返済ができる「コール・オプション」が貸付条件に権利として付帯する。「これは歴史的にずっとそうなっていること。このオプションは権利なのに、多くの人が行使できていないのが現状」(中山田氏)なのだそうだ。

住宅ローンは比較がとてもむずかしい。通信キャリアの複雑怪奇な通信プランのマトリクスが可愛く見えるほど分かりづらい。例えば、全期間固定金利であれば、単純にWebサイトに掲載されている各行の金利を比較すれば済むように思える。しかし実際には「優遇幅」という割引率設定が銀行ごとに異なっているため、実質金利を計算するには優遇幅も勘案する必要がある。また、初期事務手数料がローンごとに大きく異なる上に、その料金も「29万円」のように絶対額だったり、借入額に対して0.76%と比率だったりと一定しない。さらに、変動金利と固定金利の折衷プランとして「固定特約」と呼ばれるタイプの住宅ローンを利用するのも一般的だが、変動→固定切替時の条件変化を勘案した複数行の比較シミュレーションとなると、さらにむずかしい。自分が検討すべき銀行数だけで言っても5〜10本はある住宅ローンについて、これらを比較検討するのは「プロの自分でもExcelでやりたくない作業」(中山田氏)なのだそう。だから全国120の銀行から毎月変わる住宅ローンの金利などの条件をサーバー上で最新状態にしつつ、アプリで一発比較できるようにするというのは、これまで誰もやっていなかったことなのだという。

中山田氏が何故そんなことをやるかといえば、それは氏が過去にSBIモーゲージと楽天モーゲージでCFOを務めた経歴がある住宅ローンの専門家で、借り手側の立場に立ったサービスがないことを解決したいと思ったからという。

銀行と借り手を繋ぐプラットフォームに

さて、モゲチェックは借り手側のメリットを打ち出しているが、ここに銀行側を引き込むことでマーケットプレイスのようなプラットフォームを作るというのがMFSの狙いだ。

ユーザーは名前など個人情報を入れる必要はないが、年収や就業形態を入力しておくことで、審査基準に合致する住宅ローンを持つ銀行からピンポイントでメッセージが届くようになる。ユーザーは明示的に「説明を受ける」というボタンを押して、時間端や曜日、電話番号を入れておくことで、詳しい説明の電話をもらうことができる。つまり、銀行はモゲチェック利用者に対してダイレクトマーケティングができる。

実際にモゲチェックを使ってMFSの提携銀行から借り換えを行うと、ユーザーは5000円のお祝い金を受け取る。そしてMFSには提携銀行からフィーが入る仕組みだ。

住宅ローンの借り換えは人それぞれ残高も金利も違うので、マーケティングメッセージが不特定多数向けとならざるを得なかったが、モゲチェックのように具体的な条件が比較できれば銀行側からダイレクトな提案が可能になる。こう書くと銀行側にメリットを与える構造に思う人もいるかもしれないが、モゲチェックが普及して利益を得ることになるのは、どちらかと言えば借り手側だ。有利な条件で借り換えができるし、もし借り換えメリットがないことが分かれば現在すでに効率的なローンを組んでるということで安心すればいい。情報の非対称性や事務処理の面倒さをベールにして、4兆円規模の本来不要な利息を銀行に払わされ続けていることに借り手側は気づくべきなのだ。

モゲチェックのサービスモデルは、1度借り換えの妥当性をチェックしたら、それで終わりなのかと思ったのだけど、金利変動による借り換え計画のための「モニター」としても機能する。毎月プッシュ通知で来るので、株の指値注文のように「張る」ことができる。例えば、100万円以上借換メリットが出るようになったら借り換えよう、という意思決定ができるのだ。また、今後、大幅に金利が上昇することがあれば、変動金利から固定金利に借り換えて金銭に余裕のある人が安心感のために「毎月の支払いが2、3万円上がってでも出血を止める」というようなシナリオもあり得て、その場合にもモゲチェックは有効なモニターツールになるだろうという。政府や日銀がいうようにインフレ率が2%となれば、金利が4、5%にならないと銀行に預金が集まらなくなる。すると、住宅ローンの金利をそれ以上に上げないと銀行は逆ざやになる。そういうシナリオを想定した金利ヘッジができていない住宅ローン利用者も多い、というのが中山田氏の見立てで、数百万円得をするというのと逆に、今後は「つらい局面での利用も出てくる」と見ているそうだ。

MFSは現在まで自己資金でシステム開発をしていて、金融系VCや事業会社と資金調達の話も進めている。会社帰りに利用しやすいターミナル駅に有人店舗を置くようなことも考えていて、手続きや銀行との交渉の肩代わりすることで多くの人に最適なローンへの借り換えを促すアイデアも検討しているそう。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。