新型コロナによりリアルから仮想イベントのカレンダーアプリへ方向転換中のIRLがカテゴリー1位に

あなたの企業がイベントディスカバリー関連のスタートアップ企業だったとする。ところが突然法律によって人々がイベントに出席することが禁止された場合、どうするか。文化的シフトと転換を推し進めるのが正解だろう。資本金1100万ドル(約12億円)のカレンダーアプリIRLは現在、「In Real Life」から「In Remote Life」に変化を遂げつつある。IRLは今後、ライブストリーミングコンサートからeスポーツトーナメント、Zoomでのカクテルパーティーまで、ユーザーが仮想イベントの検索、招待、計画、共有、チャットできるよう注力していく。

新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により、IRLはより多くのユーザーに関わりのあるものとなった。以前はイベントがどこで開催されるかは非常に重要な点だったが、In Remote Lifeのコンテンツに地理的制限はない。IRLの共同設立者でCEOのAbe Shafi(エイブ・シャフィ)氏は「みなさんの日常生活がすっかり変わってしまったため、ニーズは飛躍的に拡大しています」と言う。4月3日現在、米国のApp StoreにおけるIRLのランクは第138位で、カレンダーアプリとしては第一位、Googleのカレンダーアプリ(第168位)よりも上位である。

IRL In Remote Life Calendar

RobinhoodのJosh ElmanがIRLに参画

この変化を推進するため、IRLは製品開発に携わる新しい人材を迎え入れた。株式取引アプリRobinhoodのプロダクト事業部長であるJosh Elman(ジョッシュ・エルマン)氏を雇用。同氏はGreylockの元インベスターでありFacebook、Twitter、LinkedInでの仕事を手掛けたことでよく知られている。エルマン氏は2018年の初めにRobinhoodに入社したものの、2019年後半に離職している。機能停止が急増しユーザーを激怒させた出来事が起こったのはその後である。

「私は会社が110%を捧げられる人材を何よりも必要としていることに気づきましたが、私がその人物に該当するか確信が持てませんでした」。エルマン氏は現在76億ドル(約8270億円)の価値があると評価され、拡大に苦心するRobinhoodについて語った。「私が第一に情熱を注ぎ、長年にわたって話してきたのは、ソーシャルとメディアでした」

今のところ、IRLは彼にとってパートタイムのギグワークであり、ここではシークレットプロジェクト部門を率いる予定だ。多くのアプリは「ユーザーの時間を奪おうとする」ものであるが、彼はIRLをこの貴重なリソースを人々に還元させることのできるチャンスと考えている。前職に関しては「Robinhoodはすばらしい企業です。私は株主としてとても満足しています」と付け加えた。

ボーダーレスなイベント

「当社は、実際のイベントに関連するアプリの使用率と成長で安定した状態に到達していました」と、Zoomでの会話中にシャフィ氏は話す。新型コロナウイルスによってもたらされたこの状況について「そして今回の出来事がおこったのです」と述べた。「イベントが開催できないため、すべてのコンテンツを回収せざるを得なかったのです」。

4月3日、IRLのiOSアプリは、ユーザーが自宅から参加できる仮想イベントを中心としたホーム画面コンテンツ「Discover」の新デザインをローンチした。ゲーム、ポッドキャスト、テレビ、教育、音楽、料理、ライフスタイル、「楽しいイベント」セクションのタブが追加された。 各イベントをカレンダーに追加してGoogleカレンダーと同期させたり、友人やファンがフォローできるよう「いいね」ボタンをユーザーのプロファイルに追加したりすることができる。また、IRLでイベントに関するグループチャットをすぐに開始したり、Instagram Storiesや他のメッセージングアプリでシェアすることも可能だ。

やりたいことが見つからない場合は、コンポーザーを使って「ビデオチャットをする」「Zoomワークアウト」「ゲームセッション」「Netflixパーティー」などの提案をし、友達とイベントの計画を立てることができる。これにより、他の人々を招待できるカレンダーイベントが自動的に設定される。また、イベントの開催日時がはっきりしない場合は、IRLの「Soon(まもなく)」オプションを使用すると、スケジュールは未定のままで、皆が参加できる時間を確認することができる。実際、シャフィ氏によるとIRLの計画の50%は「Soon」を利用して開始されるとのことだ。厳密な時間、日時カレンダーにニーズのギャップがあることがわかる。

IRLは個々のイベントだけでなく、ワークアウト、瞑想、その他の予定をユーザーがサブスクライブできるようにすることで、習慣として確立しやすくしたいと考えている。スポーツのシーズンは中断されたが、IRLを使用すると代わりにヒップホップアルバムのリリースなどの予定がカレンダーと同期できる。または、インフルエンサーの生活をサブスクライブし、デジタル上でイベントに同行することも可能だ。社会的距離戦略が収まってきたら、オフラインのイベントをIRLのコンテンツの推奨事項に少しずつ加えていくことが目標である。

IRLの最大の課題は、イベント推奨アルゴリズムを調整することである。イベントに対し従来使用されてきた関連性シグナル、例えばイベントが家にどれだけ近いか、費用がどれくらいか、イベントがユーザーの住んでいる都市で行われるかといったシグナルの多くが使用できなくなっている。 In Remote Lifeへの移行は、世界中のさまざまなイベントを誰もが利用できるようになることを意味している。また、無料でイベントを主催できることが多いため、参加するユーザーが少ない質の低いイベントが多数発生している。このためどのイベントを表示するかを決定することが非常に難しくなっている。

今のところ、IRLはホーム画面でユーザーの使用頻度に応じたリコメンド表示をしているが、それでは初期のユーザーエクスペリエンスにはかなり当たり外れがある。筆者が経験したところでは、各カテゴリーのトップイベントが面白そうだと感じることはほとんどなかった。しかし、IRLは、新規ユーザーが使い慣れていくプロセスを強化してユーザーが何に興味を持っているかを質問するとともに、Spotifyと統合することで、ユーザーがどのミュージシャンのオンラインコンサートに参加したいかを把握できるようにする予定である。

いずれにしても、シャフィ氏はIRLが他のソーシャルでない代替手段よりもすでに優れてたものになっていると考えている。「当社の主なユーザーの年齢幅は13歳から25歳で、大学生および大学卒業者のいる大都市圏、および大学のキャンパスで使用されています。IRLの一般的なユーザーは、これまでにカレンダーを使用したことがない人か、GoogleカレンダーやiCalなどのデフォルトのカレンダーを使用したことがあるだけの人です」。

孤独を癒やす

願わくば、自分と同じタイミングで友人に暇があり一緒に遊べるかどうかを把握できるようにする機能をIRLが発達させてくれることを望んでいる。 Down To Lunchがこの分野で失敗した一方、Facebook MessengerやInstagramは自動ステータス機能でその可能性を探っている。SnapMapやZenlyなどの位置情報アプリでは、ユーザーが自分がどこにいるかをシェアするだけでなく、交流する意図があるかをシェアすることができる。

「ほんの少しの刺激、透明性、サジェストによって、毎月のアクティビティを1つでも増やすにはどうすればよいのか」というのがシャフィ氏の問いだ。 IRLはユーザーが「自分は2時間空いている」ということを「相手が応答しない場合でも拒否されたと感じない」方法で、受動的に共有できる方法を見つけようとしている。

Facebookは2016年に独立したイベントカレンダーアプリを立ち上げたが、後にカレンダー機能を組み合わせて、レストランのおすすめに組み込み、Localという名前に変更した。 Facebookほど大きな企業でも、すぐ完璧にできることは限られています」とエルマン氏は以前自身が携わった企業について語った。「彼らは『イベント』機能でもっと多くのことができたのでしょうが、写真の投稿に関してほど絶対的な存在ではありませんでした」

シャフィ氏はこのような基盤となる分野でチャンスを得たことを喜び、カレンダーにおける同コンセプトが定着すると確信している。どれほど長く時間がかかっても、促進するため努力する価値があると考えている。一方で彼に投資しているGoodwater Capital、Founders Fund、Kleiner Perkins、Floodgateは、最終的に収益化につながるよう願っていることだろう。

アプリを介したイベントへのアクセス権の販売や、プロモーターや地元企業に対してディスカバリーを高めることで収益化できるだろう。だが今のところIRLは、イベントやコンテンツパブリッシャーとの深いつながりを構築しつつあり、サイトやメールに組み込むことができる無料の「カレンダーに追加」ボタンもまもなくリリースされる。エルマン氏によると、AppleやGoogleのカレンダーと連携するボタンは一部有料サービスとなるが、多くを無料で提供することで、アプリにイベントを増やし、ユーザーがより多くのことをできるようにしたいと考えている。

「当社のタグラインは『live your best life(自分にとって最高の人生を送る)』です。当社が誰かに価値観を押し付けることはありません。もしユーザーにとっての最高の生活がソファに座って友達とゲームをすることなら、それを楽しんでいただきたいのです」

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(翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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