新型コロナ変異株「デルタ株」の高い感染力の仕組みに関する研究結果が発表、スパイクの多さと複製の早さが作用

新型コロナ変異株「デルタ株」の高い感染力の仕組みに関する研究結果が発表、スパイクの多さと複製の早さが作用

数十人の科学者からなる国際的な研究チームが、新型コロナウイルスのパンデミックにおいてデルタ株と言われる種が急速に流行している理由を明らかにする研究結果を発表しました。Nature誌に掲載された研究によると、デルタ株は、これまでの新型コロナウイルスに比べ、免疫抗体に対する抵抗力が強いうえ細胞に感染して自己複製する能力も高いとのこと。

2020年12月にインドで初めて発見されたデルタ株は、日本を含め世界に驚異的な速度で感染を拡大しています。チームは、研究の第一段階において、デルタ株が過去の感染やワクチン接種で生成された免疫抗体をどれほど効果的に回避するのかを調べました。

実験室内での研究によると、新型コロナ感染から回復した人の免疫抗体に対するデルタ株の感受性はオリジナル株に比べて6倍低く、ワクチンで得た抗体では8倍も感受性が低いことがわかったとのこと。

第2段階では、デルタ株がどのように宿主となる細胞に感染し、自己複製するのかを、ヒトの気道の細胞モデルを作成して調べました。その結果、デルタ株は他の種類の株に比べてスパイクタンパク質(画像でいう棘の部分)が多くあり、細胞内への侵入能力が高いことがわかりました。研究者らはいくつかの重要な変異を模倣したシュードタイプウイルスと呼ばれるものを合成し、宿主細胞への侵入の様子を観察してウィルスの表面のスパイクの多さが侵入に効果的に作用しているのを確認しました。また、いったん宿主細胞に侵入したデルタ株は、以前の株よりも短時間で複製されることもわかりました。

これらの要因が、いま世界中でデルタ株が猛威を振るっている理由だと研究者らは考えています。ケンブリッジ大学の上席研究員であるRavi Gupta氏は、この研究でワクチンを接種した医療従事者のうち、その後デルタ株に感染した約100人も研究対象に含んでいたとして、デルタ株に特化したワクチン開発の検討をする必要性がありそうだと述べています。現在のワクチンでもすでに重症化、入院、死亡を防ぐのに非常に有効であることがわかっていますが、研究ではワクチン接種者がデルタ株に感染した際に以前の亜種よりもより高い確率で周囲に感染を拡げてしまっていることもわかったとしました。

インドのCSIR Institute of Genomics and Integrative Biology(CSIRゲノミクス・統合生物学研究所)のAnurag Agrawal氏は、このような感染は、大半がワクチンをすでに接種した地域で静かにウィルスが感染を拡げ、いつの間にか基礎疾患を持つ人たちを感染させて重大な結果を招く可能性があると指摘しています。なかでもワクチン接種済みの医療従事者がデルタ株に感染するのが大きな問題で、その場合医療従事者自身は軽症で済むものの、自身が診ている基礎疾患を持つ人を感染させ重症化させてしまう恐れがあるとのこと。

そのためAgrawal氏は、早急に医療従事者の変異種に対するワクチン反応を高める方法を検討する必要があるとしました。またパンデミックが終息したあとにも、静かな感染拡大を防止するために、感染対策を続ける必要性がある可能性を示唆しました。

(Source:Nature。Via University of CambridgeEngadget日本版より転載)

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TechCrunch Japan

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