新年からの新規制で滴滴出行に逆風――パートタイム・ドライバー排除で中国のギグ経済終焉へ

ここ数年、中国では何百万人ものドライバーがライドヘイリング(タクシー的配車サービス)に参加している。滴滴出行などの共有経済企業に登録する大きな理由は勤務時間の柔軟性だ。生活費の高い中国の大都市で車を持つにはこうしたギグ(不定期、パートタイム労働)からの収入が重要だ。また、たとえ毎月のローンに苦しめられていても、自家用車を持つことは中国ではステータスシンボルとなっている。

こうしたドライバーの大半は滴滴出行(Didi Chuxing)に登録している。コンサルティング企業のBain & Companyの2017年の資料によれば、中国のライドヘイリング・ドライバーの90%はパートタイムだ。これは2017年10月に滴滴出行は「ドライバーの半数は1日あたり稼働時間が2時間以下」と発表したことによってもも裏付けられる。

滴滴出行はこのレポートで同社を「中国の共有経済の金字塔」と自賛した。当時、中国政府は経済成長を加速するために共有経済を強く後押ししていた。シェエリング・エコノミーは交通機関だけにとどまらず、高齢者の介護サービスなど多くの分野を幅広カバーするもので、2017年だけでも7640ドルの売上があったと中国国家情報センターのシェエリング・エコノミー・リサーチ・センターは報告している。

しかし急速に成長を開始した中国のライドヘイリング・サービスには新年から急ブレーキがかかる。1月1日から施行される新規則はドライバーがパートタイムで参加することを非常に困難にするからだ。

ノーモア・ギグ・エコノミー

具体的に見ていくと、1月1日から中国のライドヘイリング・アプリはドライバーに「二重免許」の取得を義務付ける。つまりドライバーと使用する自動車の両方に免許が必要になる。自治体によって要求される免許の内容には多少の違いが出てきそうだが、乗客の輸送にあたる運転者にこれまでよりはるかに厳しく資格が求められることには変わりない。

ライドヘイリング・ドライバーの免許を得るには運転しようとする自治体の戸口(hukou)登録が必要だ。この居住許可がなければ合法的に職業につくことができない。大都市のライドヘイリング・ドライバーの多くは地方からの流入者で戸口を持っていないいない。つまり免許から自動的に排除されてしまう。

一方、自動車の営業免許を得るには、商用車でなければならない。つまり保険料、整備費用がかさむことになる。また自動車は8年で廃用となる。.

didi chuxing

1月1日以降、中国のライドヘイリング車は免許(赤丸で囲まれた部分に貼られている)が必須となる。写真:TechCrunch

新しい法律の下でもドライバーは契約による自営業者として運転できるが、パートタイム労働を排除する方向なのは間違いない。深センの滴滴出行のドライバーはTechCrunchの取材に対して「滴滴出行に参加するために自家用車を商用車として登録しようというドライバーはいない。金がかかりすぎるからだ。パートタイムではもう仕事にならない」と述べた。

滴滴出行の難題

中国の急成長市場の例に漏れず、ライドヘイリングも当初、政府の規制が比較的ゆるいものだったことが幸いした。.最初の業界規制は政府がUberなどのサービスを公式に認可した2016年に制定された(Uberは後に現地の有力ライバル、滴滴出行に買収された)。しかしその後中国当局はライドヘイリングへの規制次第に厳しくしていった。特に昨年、滴滴出行のドライバーが乗客の女性を殺害した事件をきっかけとして運転者の資格審査は厳格化の方向に動いた。

ただし新しい法律は運転者とライドヘイリング車両の数を制限する結果となる。中国城市等級制によるいわゆる2級都市である南京だけでも滴滴出行は規約違反の車両を16万台を排除する必要があったと現地メディアは報じている。しかし多数の車両が一掃されれば乗客の待ち時間は必然的に長くなる。また 評価額560億ドルの巨人の側でもドライバーの安定確保に新しい方策を考えねばならない。

滴滴出行は急成長を維持するためにドライバーに対しても乗客に対しても寛大な条件を提示してきた。そのため赤字額は 2018年上期だけで 5.85億ドルという天文学的数字だと報じられた。つまりドライバーの確保にあたってさらにキャッシュを注ぎ込む余裕はないということだ。労働力を確保するために滴滴はドライバーの訓練プログラムを開始するなどの手を打っている。またライドヘイリングに参加するハードルを下げるため、ドライバーが免許取得済の自動車をレンタルする道を開いた。12月から滴滴のスマートフォン・アプリを開くと「あなたが運転するなら私たちが車を用意します」というキャッチフレーズが表示されるようになった。

また当局の規制強化以外にも、フォルクスワーゲンのパートナーであるSAIC MotorBMW、また現地自動車メーカーもライドヘイリングに参入しており、滴滴にはライバルが増加している。

TechCrunchの取材に対し、「滴滴出行はライドヘイリングという文化を根付かせた。しかし情勢の変化にすばやく対応しなければ何十億元もの投資は無駄な終わり、利益を生まない危険性がある」と自動車レンタル・スタートップのファウンダー、Dong
Fengは述べた。

〔日本版〕「ライドヘイリング」はライドシェアリング一般と区別して特にタクシー的な配車サービスを指す用語。ただし日本では区別せず用いられることがある。Dong
Fengは中国の自動車メーカー、東風汽車集団の「東風」と同音だが関連は不明。

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滑川海彦@Facebook Google+

投稿者:

TechCrunch Japan

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