日本のVC・エンジェル投資家が予想する2017年のスタートアップ・トレンド(後編)

31903620585_6716bd3ab9_k

2016年もあと数日で終了する。今年もさまざまなスタートアップ企業が登場、活躍したが、2017年はどんな1年になるだろうか。毎年恒例となった本企画では、ベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家などを中心にして2017年のテック業界とスタートアップのトレンドに関するアンケートを実施している。本記事はその後編だ。

アンケートの内容は2つ。「2016年を振り返って、最も盛り上がったと感じる分野について挙げて下さい(自由回答)」と「2017年に盛り上がりが予想される分野やプロダクトについて、理由とともに教えてください(自由回答)」というものだ。今回はアンケートの回答順に前後編でご紹介する。なお各VCから回答を得ているとはいえ、キャピタリストは通常カバー範囲が決まっている。各回答が必ずしもそのVCを代表する意見ではないことはご了承頂きたい。

前編はこちら:日本のVC・エンジェル投資家が予想する2017年のスタートアップ・トレンド(前編)

アイ・マーキュリーキャピタル

新 和博(代表取締役社長)
2016年のキーワード:動画、FinTech
2017年のトレンド:スマホ登場以降、消費者の生活を便利にするコンシューマー・インターネット分野が一気に盛り上がり、領域ごとのビッグプレーヤーがほぼ固まってきた印象がある。複数いる勝ち組プレーヤーの中から頭ひとつ抜け出すには、動画やAIを駆使していかに圧倒的なユーザー体験を提供できるか、企業側の課題にも目を向けていかに商流に入り込めるかが今後の戦い方になってくるのではないかと考える。

また、コンシューマー・インターネットの次の波としてここ数年は企業の生産性を高めるエンタープライズSaaSが盛り上がってきた。企業がSaaSを活用するメリットは、コスト削減と付加価値創造の両方を同時に満たせること、さらに従業員にとってのユーザー体験も良くなる。企業が何かのソリューションを検討するときにSaaS型のソリューションを候補に入れない理由はほぼないため、不可逆的な波としてまだまだ続くと考える。

そして2017年に盛り上がって欲しいと考える分野は、社会全体を支えるシステムの効率化。具体的には、医療、介護、物流、教育、少子化対策、食品など。現場に目を向けるとアナログなオペレーションや非効率な情報共有、市場原理を無視した意思決定などがまだ当たり前になっており、ITによって効率化できる余地が大変大きい。規制緩和や改革の動向を的確に読み、持続可能な社会を創るための次の一手を考える骨太なテーマへのチャレンジを期待したい。

PT. CyberAgent Ventures Indonesia

鈴木 隆宏(CEO & Head of Indonesia & India Investment)
2016年のキーワード:インドネシアでは、Fintech(主にLending領域)、Helth Tech、EduTechへの投資や注目が高まっていたと感じています
2017年のトレンド:“特定の分野では無いですが、2017年Q1にAmazonがシンガポールでサービスを開始予定で、2017年以降はEC領域においてAlibaba & Ant FinancialとAmazonの東南アジアでの熾烈な争いが開始する可能性が高まっています。そんな中で各国のローカルEC事業者がどのような戦略で、EC業界の二大巨頭に対抗して行くのかが見物です。

また資金調達環境に関しては、新しいVCファンドが組成され、また他地域のVC/PEが東南アジアへの投資を開始しており活況を見せている。一方で2015年末頃から投資家がユニットエコノミクスを今まで以上にしっかりと見始めている為、B2C領域よりB2B領域のスタートアップの増加が見込まれると考えています。

個人的には、広義の意味で【“あるデータ”が一定閾値を超えると、 加速度的に価値が高まる。そんなデータを収集&活用出来るプラットフォーム】をあらゆる産業分野で注目しています。

伊藤忠テクノロジーベンチャーズ

河野純一郎(パートナー)
2016年のキーワード:FinTech、VR
2017年のトレンド:2017年に盛り上がりが予想される分野は「AI」です。

2016年は、定義や技術レベルの分類が混同されたまた「AI」という言葉が独り歩きし、期待感と危機感から過剰ともいえる盛り上がりをみせました。スタートアップのサービスやプロダクトにも「AI」と形容されるものが溢れ、資金の出し手の数的増加と多様化も重なり、多くの資金が当該領域に流入した1年であったと思います。

2017年は、過剰な盛り上がりが沈静化しつつ、それらの真価が問われるのと同時に、ディープラーニングを取り入れたAIの実用化進展、あらゆる産業での利活用の促進が進むと予想される。当該領域におけるスタートアップの質的、量的充実に期待したい。

また、ほぼ趣味に近いですが、個人的に注目している分野は「BioTech」です。ゲノム編集技術の「CRISPR-Cas9」の特許闘争の行方、老化のメカニズム解明や長寿命療法を目指す「Calico」、「Human Longevity Inc.」、微生物エンジニアリングの「Ginkgo Bioworks」、「Zymergen」等の企業の動向を注視しています。昨年本企画で言及した「農業」についても、引き続き注目していきたい。

DGインキュベーション

林口哲也(マネージング・ディレクター)
2016年のキーワード:IoT、B2B SaaS、VR、AIなど
2017年のトレンド:いずれも定義が重要ですが、VRやAIは2016年を通じて事例が多く出てきました。なので、2017年以降は、実際に効果があるのか? 事業として対価を得られるものなのか? といった点が実用例を通じて検証されるのではないかと考えております。

​B2B SaaSは2016年に引き続き、既存スタートアップの取引も増えるでしょうし、新規参入組も現れると考えられます。SaaSプロダクトの有用性は米国等をはじめ、既に十分に例示されており、日本ではまだまだチャンスがあると思います。

最後に、分野軸ではありませんが、ここ数年のM&Aを経て再び起業されるシリアルアントレプレナーの方々が、除々に増えてくるのではないかと見ております。2016年中、弊社では実際に数社、シリアルアントレプレナーの新たなチャレンジに出資させていただきました。​

YJキャピタル

堀新一郎(代表取締役社長)
2016年のキーワード:動画、IoT、バーティカルメディア
2017年のトレンド:“1)VR/AR/MR:PC、ガラケー、スマホとアプリが走るスクリーンがデバイスの発展とともに推移してきました。Google、Facebook、Apple、Microsoftと、メガネ型のデバイスビジネスへの投資は2016年に積極的に進みました。2018〜2019年ごろに本格普及していくことが予想され、スマホ時代にLINEやFacebookが大ヒットしたように、新たなアプリケーションが2017年以降に誕生していくのではないか、と予想しています。

2)ヘルスケア:シリコンバレーを中心に、ヘルスケア×Techの起業が盛んです。この波は日本にもやってくると思われます。ウェアラブルやスマホを通じて身体情報を収集し、予防医療に役立てるようなサービスが出てきて欲しいと個人的に願っています。

3)動画メディア:2016年、KURASHIRUを運営するdelyとLINE LIVEに動画コンテンツを提供するCandeeに出資させて頂きました。両社ともに自社コンテンツを制作しています。BuzzfeedやNetflix然り、自社コンテンツを持っているメディア企業が最終的にメディア競争に勝っていると見ています。中国では動画×投げ銭メディアが急成長しています。2017年以降も、インターネットを活用した面白い暇つぶしメディアが沢山出てきて欲しいと願っています。

TLM

木暮圭佑(General Partner)
2016年のキーワード:決済、メディア、動画
2017年のトレンド:“個人的に一番推したいのは「音声」だと思っています(あんまり評価されてないんですが)。

radikoのDLランキングの高さやSiri、Amazon Echo、Google Home等の音声認識技術も盛り上がってますし(Echoに関しては米国では9ヶ月だけで200万台売れているくらいの人気)、通勤もしくは仕事中のながらにおける情報収集(娯楽)はありえそう。今ある既存のプラットフォームに載せるという意味ではなく、上記の音声プラットフォームに適した形のコンテンツを作っていければいいのかなと思います。

ベンチャーユナイテッド

丸山 聡(ベンチャーキャピタリスト)
2016年のキーワード:Pokémon GOをはじめとした拡張現実やVRなどのサービスは社会的な認知が広まった1年だったと思います。
2017年のトレンド:既存産業において、SaaSやIoTなどを組み合わせた産業革新がこれまで以上に大きく推進されると予想します。

IT革命といわれてはや20年が経ちますが、特に日本においてはITと相性のいい業界を除いてはなかなかIT化が進んでこなかったところにここ数年くらいの日本企業のオープンイノベーションが推進されている流れや、スマートフォンの普及や、通信コストの低減、チップセットやセンサーなどの価格低下による専用端末の開発・量産コストの低減などによって、これまでIT化が進展していなかった多くの業界においてIT化が進展していくことになるのではないかと思います。

弊社の投資先であるHacobuが提供しているMOVO(ムーボ)はトラック業界を対象としていますが、それ以外にも畜産業界のファームノート、建設業界のCONCORE’Sといった会社をはじめとした企業が既存産業の生産性を劇的に向上させるような取り組みをしており楽しみです。

グローバル・ブレイン

百合本安彦(代表取締役CEO)
2016年のキーワード:AI、VR 、ロボティクス、ビッグデータ
2017年のトレンド:EC:KDDIによるDeNAショッピングの買収等、大資本を投下できるプレーヤー主導による合従連衡が進んだが、2017年以降も同様の流れは加速化していく。

AI:Deep Learningの自然言語処理への応用も進んできており、引き続きDeep Learningをベースとしたベンチャーが注目を集めるであろう。

IoT:BtoBの存在は高まっており、工場のみならず、自動車分野やIoTプラットフォームを提供するXSHELLなどのプレイヤーが存在感を増している。

ロボティクス:協働ロボットの導入が進んでおり、ライフロボティクスの協働ロボットは吉野家での導入が進んでおり、安全性と導入の容易さで高い評価を得ている。

Fintech:PFM領域において、銀行の資金移動系のAPI開放により口座間の振替を行うトランザクション系のサービスが本格化し、利便性の高いサービスが登場する。

BigData:クラウド技術の領域では、自動運転・IoTの発達により、位置情報やセンサー情報を大量にさばくことのできる新しいタイプのデータベースや、サーバレスアーキテクチャを用いたベンチャーなどに注目が集まっている。

最後に、2020年東京オリンピック・パラリンピックを見据え、観光・インバウド、地方創生等に関連する領域でCtoC、シェアリングエコノミー、OtoO等をテーマにしたサービスに注目したい。

プライマルキャピタル

佐々木浩史(代表パートナー)
2016年のキーワード:動画、FinTech、B2B
2017年のトレンド:・ハードウェア(IoT/ロボティクス、ドローン等)
ここ数年の環境整備により、参入障壁が比較的下がってきた分野なのではないでしょうか。先行プレーヤーが蓄積したノウハウの共有や大手によるオープンイノベーション活動が進んでいったりすると、更に活性化すると思います。付随して、画像や音声のセンシング/解析、AI、セキュリティ等のプレーヤーも非常に重要になってくると考えています。
※ウィンクル、フューチャースタンダード等

・ソフトウェア(B2B/SaaS、動画)
特定業界での知見を持った起業家が、ソフトウェアを活用して業務課題を改善するスタートアップには引き続き注目しています。活用はおろか電子化すらできていないデータが多々ある産業は多く、業務プロセスを理解している方にITソリューションが加わると産業の前進に大きく寄与すると考えています。

また、動画についてですが、視聴環境が整備されつつある中で、コンテンツ制作や流通といった領域に事業機会が大きいのではないか?と考えています。
※CONCORE’S、Crevo等

・非IT領域(メーカー、医薬品、食品、ファッション、物流等)
製造方法や流通チャネル、テクノロジーの変化を上手く活用し、多様化する顧客ニーズに上手くアジャストできる企業は、大企業に独占されている市場に切り込んでいけるかもしれません。
※LaFabric(ライフスタイルデザイン)等”

サイバーエージェント・ベンチャーズ

白川智樹(シニア・ヴァイス・プレジデント)
2016年のキーワード:Fintech、動画、AI
2017年のトレンド:・「業界目線」スタートアップ
スマホやソーシャルメディアの登場を契機に、あらゆるサービスをユーザー目線で再定義する動きがここ5〜6年で収穫期を迎えてきています。ユーザー目線のサービスは出揃いつつあるので、特定産業とITに精通したチームが「業界(事業主)目線」でのサービスに新たな着想があるように思います。支援先:favy

・「分散型」インフルエンサー
今年は、動画分野が盛り上がりを見せましたが、個人的には若年層がYouTubeに注目していたと感じました。要因はインフルエンサーの影響力拡大と多様化にあると考えています。今後伸びていくであろう、ライブ動画(LINE LIVE)、自社制作動画(AbemaTV)、SNS(Instagram)においてもその重要性が一層高まり、メディアをまたいで活躍する、いわば「分散型」のインフルエンサー(もしくは事務所)が盛り上がるのではないでしょうか。支援先:VAZ

・「モバイルハイエンド」VR
2016年は、Google Daydream、中国勢のXiaomiのMi VR、HTCのVIVEPORT M、そしてfacebook(Oculus)&SamsungのGearVRなど、モバイルハイエンドVRのプラットフォーム争いが一気に活発になってきました。技術的な課題はありつつも市場の拡大が予測される中、コンテンツ制作や配信支援を行う企業がさらに増えてくると思います。支援先:ワンダーリーグ

グロービス・キャピタル・パートナーズ

高宮慎一(パートナー/Chief Strategy Officer)
2016年のキーワード: 2016年はスマホにおいて、メッセーンジャー、ゲーム、フリマの寡占化、音楽ストリーミングの鼎立、テキストおよび動画メディアの乱立など、デバイスシフトのゴールドラッシュ終盤の盛り上がりを見せた年だった。また、AI、IoT、VR/ARなど『テクノロジードリブンなイノベーション』も、“魔の川(技術開発後の製品化の壁)”に挑む段階での投資が活況だった。
2017年のトレンド:短中期テーマとして、「ファンビジネス」、「リアルに染み出すネット」が盛り上がるだろう。

スマホで残されたフロンティアの1つが「ファンビジネス」だ。ユーザ母数としては限定的だが、偏愛的なファンのエンゲージや課金性向が高い領域におけるコミュニティサービスだ。プレミアリーグやAKB48のモデルのネット化とも言え、アイドル動画配信コミュニティのShowroomが好例で、エンタメ、スポーツ、趣味など多様な領域に展開する上でのヒントを示している。

「リアルに染み出すネット」は、ネットを活用した旧態依然とした産業の変革のことだ。泥臭い業界の現場とネットの知見を兼ね備えることが必要だ。例えば、ラクスル(印刷、運送)、みんれび(葬祭)などがある。また、Fintechもこのコンテキストだと考えている。無為に既存大企業と戦うのではなく、うまく巻き込み業界を変えていくのが肝要だ。

中長期のNext Big Thingとしては、AI、IoT、VR/ARなど「テクノロジードリブンなイノベーション」の“死の谷(製品開発後の事業化の壁)”への挑戦が挙げられる。今まではテクノロジーやプロダクトアウト視点が強かったのが、「どんな負を解決するのか? 日々の生活にどんな便利さをもたらすのか?」というマーケットイン視点との融合が求められる。“発明”から世の中を変える“イノベーション”に脱皮できるのかの試金石のフェーズだ。

大和企業投資

平野清久(取締役)
2016年のキーワード:AI、Big Data、FinTech、IoT、Inbound
2017年のトレンド:2013年頃から始まったベンチャー投資の盛り上がりは5年目となる。2017年は良くも悪くも結果が出てくる年となろう。成長してIPO、M&Aに成功する企業、期待に応えられず厳しい結果となる企業など、いろいろと出てくるだろう。

国策としてのベンチャー支援気運はさらに高まると予想するが、一方でベンチャー企業に対しても社会の一員としてのモラルがより求められてくる。今まで以上にコンプライアンスにコストを掛ける必要が出てくるだろう。

人気領域については構想、実証実験の段階から、実用レベルのプロダクトを出す企業が出てくるだろう。ここでも優劣の差が広がってくると予想する。

私自身が興味を持っている領域は必ずしも世間的に盛り上がっている分野と一致しない。2017年も世間からあまり注目されていないビジネスモデルに捻りのある企業、地方企業などを発掘していきたい。

セールスフォース・ベンチャーズ

浅田慎二(Japan Head)
2016年のキーワード:SaaS、AI
2017年のトレンド:SaaS(クラウド)分野が、引き続き大きく成長すると期待しています。

MM総研調査でも2015年に1兆円を突破したとされる国内クラウド市場は、2020年までに3兆円を超えると予想されており、その中でもSaaS分野の成長が見込めると考えています。米国に次ぐ世界第2位のEnterprise Software市場を持つ日本にて、SaaSベンチャーには大きな成長機会が目前にあると思います。SaaSテクノロジーを積極的に業務に活用さえすれば、圧倒的に生産性の向上が見込める事を、私自身の体験からも断言できます。働き方改革の必要性が叫ばれている今、精神論だけでは何も変わりません。

SaaSの中でも、HR Tech(BizReach社が提供するHRMOSやチームスピリット、CYDAS)、Fintech(マネーツリーが提供するMT LinkというアカウントアグリゲーションSaaS)、ERP(Freee)、Retail Tech(トレタ、Abeja、ユビレジ)、CommerceTech(Yappli)を活用すれば、名実ともに働き方改革が進むと確信しております。テクノロジーの力で業務改善を実現したいです。

photo by Tony Webster

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。