日本のVC・エンジェル投資家が予想する2017年のスタートアップ・トレンド(前編)

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2016年もあと数日で終了する。今年もさまざまなスタートアップ企業が登場、活躍したが、2017年はどんな1年になるだろうか。毎年恒例となった本企画では、ベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家などを中心にして2017年のテック業界とスタートアップのトレンドに関するアンケートを実施している。

アンケートの内容は2つ。「2016年を振り返って、最も盛り上がったと感じる分野について挙げて下さい(自由回答)」と「2017年に盛り上がりが予想される分野やプロダクトについて、理由とともに教えてください(自由回答)」というものだ。今回はアンケートの回答順に前後編でご紹介する。なお各VCから回答を得ているとはいえ、キャピタリストは通常カバー範囲が決まっている。各回答が必ずしもそのVCを代表する意見ではないことはご了承頂きたい。

グリーベンチャーズ

堤達生(General Partner)
2016年のキーワード:Fintechと動画系サービス
2017年のトレンド:2016年もそうでしたが、2017年も引き続き大きなトレンドはない状態が続くと思います。一方で、そろそろ広告ビジネスの新しい動きが出てくるのではないかと期待を込めて思っています。といいますのも、広告ビジネスの勃興には周期があると考えているからです。

1996年前後、インターネット黎明期にいわゆるバナー広告が誕生しました。それから7年後の2003年前後にリスティング広告が普及し始めました。そしてさらに7年後の2010年前後には、RTBを中心としたいわゆる“アドテク”が普及しました。この7年サイクルから考えると2017年は、新しい広告フォーマットや広告ビジネスが出てくるのではないかなと考えています。具体的には、インターネットで流れるコンテンツの多くが動画が占めるようになり、なかでもライブ動画が急速な盛り上がりを見せると思います。

今は、ライブ動画のマネタイズの多くは、いわゆる”投げ銭”的なものが主流ですが、それだけですと限界があります。そこで、ライブ動画における新しい広告フォーマットや広告ビジネスが生まれてくるのではないかと考えています。

エンジェル投資家/Tokyo Founders Fund

有安伸宏
2016年のキーワード:トレンド、あまりなかったですね!ニュースは色々あったけど・・・
2017年のトレンド:技術トレンドとしては、machine learning、自動運転、ロボット、VR/AR/MR、などは引き続き面白いと思います。(マクロ感把握したい方には、「Mobile is eating the world」というBenedict Evansの記事がオススメ。インスパイアされます)。日本国内での起業ネタ探しと言う意味では、みんなが飛びつくようなわかりやすいトレンドのない状態が2017年も続くと思います。

個人的に注目しているマクロトレンドは、日本の少子高齢化です。より具体的には、就労人口の強烈な減少。働く人が減るので、人件費が上がる。人件費が上がるので、AIやロボットなどの自動化・無人化テクノロジーの商業化のチャンスが高まる。2016年も、そういった会社複数にご縁をいただいて、シード期にエンジェル投資させていただきました。

このような領域は、数年後にGoogleやFacebookなどの巨人に殺されないように、レイヤー選択と参入障壁作りを慎重にやる必要があるので、初期の市場選択にかなり気を使うのですが、そういった議論を創業間もない起業家とさせてもらえたことは大変刺激的でした。日本国内で起業して、より上を目指すのであれば、シリコンバレーの文脈で競争するのではなく、日本ならではの機会と資源をベースにして頑張るしかないよな!と思う今日このごろです。僕もがんばります!

F Ventures

両角将太(代表パートナー)
2016年のキーワード:FinTech、AI、VR、Chatbot
2017年のトレンド:VRデバイスの普及によってVR事業の増加も期待できます。ゲームコンテンツだけでなく、コミュニケーション、ファッション、教育、映画、会議、不動産、旅行、医療、介護、出会いなどの分野でVRの導入が進みそうです。

また、2016年半ば頃にFacebookやLINEがBotプラットフォームを発表しており、F VenturesでもすぐにBot HackathonやBot Meetupなどを開催しましたが、残念ながらChatbot単体ではビジネスになりにくいのではないかという印象を得ました。ただ、チャットUIを活かしたプロダクトはUXを高めることができるため、どの領域の事業でもチャットUIを使うメリットはあると思います。その周辺領域は2017年も引き続き注目していきます。

一方、レガシーな領域としては、物流、農業、建設、医療、介護などの産業領域で、陳腐化された仕組みのリプレイスが徐々に起きてくるのではないでしょうか。また、金融も引き続き新たなプレーヤーが現れると思いますが、2014年に成立した改正金商法法案により、株式投資型クラウドファンディングが本格稼働になる企業もそろそろ複数出てくる頃ではないでしょうか。

最後に、ユーザーの潜在的なニーズにいち早く気付けるか、も大事ですが、参入のタイミングは非常に大事だと感じています。早すぎて時代が追いついていなくても、遅すぎでもNGでしょう。

エウレカ

赤坂優(Founder)
2016年のキーワード:SaaS、動画メディア、VR
2017年のトレンド:

■SaaS
e-Gov APIを利用した電子申請など、SmartHRやGozalなどの労務管理SaaSは更に成長。海外でもアナリティクスやシステム管理など様々なSaaSソリューションがあり、この領域は継続。

■ネット+α
医療遠隔相談の小児科オンラインや、農家や漁師からの産直サービスのポケットマルシェなど、ネット完結でなく、既存産業×インターネットが更に成長。

■動画メディア
DELISH KITCHEN、KURASHIRU、CChannelやもぐーがソーシャルを流入経路として成長したが、各社アプリをリリースした事で、2017年はリテンション勝負。

■個人間決済
メルカリや楽天、BASEやSTORESなどの普及を背景に、SmallB向けの決済サービスも堅調に伸び、銀行や利用店舗など成長環境が整った所でLINE PayやAnyPay(&Paymo)、Kyashなど個人間決済が伸びる。

■サロン予約
スマホを通じソーシャル発信が増え、WEARでもスタッフ発信が増加し、minimoやpopcornなどサロン予約でも従来型の店舗の広告掲載モデルが崩れリクルート市場のディスラプトがあるかも。

■ミールキット
“インスタ映え”などソーシャル慣れした新ママ世代の登場で、従来型の食材配達市場に変化。BlueApronが普及するように、日本でもKitOisixやTastyTableが成長。

Draper Nexus Ventures

倉林陽(Managing Director)
2016年のキーワード:SaaS、AI
2017年のトレンド:SaaS分野については、引き続きSales & Marketing分野にてcustomer Adoptionが進んで行く。特に国内市場が急拡大しているMarketing Automationの分野では、salesforce.comやMarketo等米国大手も参入し市場は加熱している。投資先のフロムスクラッチ、toBeマーケティングは運用支援、伴走力にも強みがあり、更に事業を拡大させていくだろう。

今後はインフラとしてAIの実装が進み、結果予測、最適行動の提案等が提供されるようになるため、サイカ、マツリカといった分析力やUI/UXに強みのある投資先のソリューションが求められる。また、エンジニアや管理者向けのPaaSソリューションが更に充実し、サーバーコストの最適化や運用管理コストの削減が進んで行く。Mobingiのようなサーバー&アプリケーション管理Platformに期待したい。

またUPWARDが提供するフィールド業務で使われるMobile CRMや、KAKEHASHIが手がけるようなヘルスケアSaaSのような所謂産業系SaaSアプリケーションも、既存のオンプレミスソフトウェアやSI事業をリプレースする形で拡大し国内のSaaSの経済圏を広げていくだろう。

サムライインキュベート

矢澤麻里子(インキュベーター)
2016年のキーワード:AI、 IoT、VR、Fintech、動画、インフルエンサー・マーケティング
2017年のトレンド:2016年はVR元年といわれましたが、2017年はVR/AR市場がさらに加熱すると思います。VRはヘッドセットの普及に依存してしまう部分もありますが、GoogleのDaydreamやPixelの発売も予定され、利用しやすい環境が整うことでさらに参入が増えていくと思います。

また、これまでHealth-TechやMedi-Techも盛り上がりを見せましたが、2017年はBrainTechも盛り上がりが予想される分野ではないかと注目しています。AIやロボティクスなどの技術の発展とともに、我々人間の脳からリバースエンジニアリングをして、新しい技術やサービスにつなげていくスタートアップが増えてくるのではないか、と予想しています。

個人的に注目している領域はFintech、特にブロックチェーン技術です。ブロックチェーン技術はBtoB市場においての活用が多いですが、2017年は一般の人の日常に溶け込み、当たり前に使われるサービスの下支えとして多用されていくのではないかと思います。

サムライインキュベートとしては、まだITが入りきれていないレガシーな産業のリプレイスや、ニッチな中でも深い課題を解決するサービスに対して、2017年も積極的に投資をしていきます。

慶應イノベーション・イニシアティブ(KII)

山岸広太郎(代表取締役社長)
2016年のキーワード:AI、ビッグデータ、ロボティクス、ドローン
2017年のトレンド:2017年は医療・ヘルスケア関連のベンチャーが盛り上がると予想します。特に、バイオとデジタルヘルス関連の投資が盛り上がると考えています。

バイオ関連は、リーマンショック以降のバイオ投資冬の時代から、京都大学・山中伸弥教授のiPS細胞によるノーベル賞受賞と、薬機法と再生医療新法の改正施行、そしてペプチドリームやヘリオス、サンバイオなどのIPO成功により、再び投資マインドが戻りつつあります。京都大学や大阪大学、慶應義塾大学など、再生医療分野で優れた研究成果を持つ大学から近年スピンオフされたバイオベンチャーが、今後、外部資金の調達を拡大することが予想され、公的資金や大企業の異業種算入なども絡め、この分野への投資が加速するものと予想しています。

デジタルヘルス関連は、米国での盛り上がりを受けて国内でも注目が高まっています。医療・ヘルスケア分野は安全性や信頼性の観点から規制対応もあり、他のIT分野とくらべて急成長は難しいですが、高齢者の増加や労働力人口の減少、国民医療費の増大など、解決した場合のインパクトが大きいテーマが多く、公的資金も事業会社もVCも支援先を物色しています。一方で、この分野のベンチャーは、全体としての数は少ないが、若くてスペックの高い「大人受け」する創業メンバーを擁する企業が多いので、事業が立ち上がるまでの資金をうまく調達していけると予想しています。

iSGSインベストメントワークス

五嶋一人(代表取締役 代表パートナー)
2016年のキーワード:AI、IoT、ブロックチェーン、Fintech、VR、等
2017年のトレンド:2016年から続く流れで、「インターネット完結型」のビジネスモデルより、「インターネット+デバイス」、「インターネット+リアルのサービス」、「インターネット+ヒト・モノ・場所」、といった「インターネット+α」領域での起業や事業の成長が、より活発になると期待します。

日本のスタートアップコミュニティや起業家の中で、自分が実現したい世界や成し遂げたい事業を検討し、スタートするに際し、インターネットの世界に閉じる必要は全く無い、ということがかなり浸透したのが2016年だった、と感じます。さらに2017年は「インターネット+第一次産業」、「インターネット+第二次産業」の動きが、より活性化していくと考えます。

これらの広がりの結果として、事業が立ち上がるまでに必要な時間やコストはより大きくなり、また成功の難易度もより高くなっていくケースが増加すると予想しますが、上記の領域に挑戦する起業家に対しても、iSGSはベンチャーキャピタルとして成すべき支援をしっかりと続けて参ります。

BEENEXT

前田ヒロ(Managing Partner)
2016年のキーワード:分散型動画メディア、HR Tech、C2C
2017年のトレンド:ハードウェア、ロボテイックス、そして機械学習を大きく活用したB2B向けSaaSソリューションがまだまだ増えていくと思っている。

特に古い産業や物理的な資産を管理する必要があるソリューションはソフトウェアだけでは完結しづらい。例えばVerizonが$2.4Bで買収したfleetmaticsはハードウェアを活用したトラッキングデバイスとソフトウェアを組み合わせて車両の管理ソリューションを提供していたり、Ceresimagingは画像認識、機械学習を活用した農業生産向上のソリューションを提供をしていたり、GeckoRoboticsは発電所の点検を画像認識と物理的なロボットを使って無人化している。

農業、製造業、不動産、自動車産業、運送業、保険業は特にSaaS + αのソリューションで次々と面白いソリューションが出てくるだろう。

D4V

伊藤健吾(Founder/COO)
2016年のキーワード:産業xIT、インターネット
2017年のトレンド:インターネットが登場したころからアイデアとしてはあったサービスやプロダクトが既存産業と連携するところで増えてきています。やはりスマートフォンが普及したことでユーザーとして自然に使う環境になったこと、AIやIoT、クラウドといった技術が進化したことで既存産業において適用できるレベルにサービスやプロダクトを引き上げたことが大きいのだと思います。

こうした流れは2017年以降も引き続いていくでしょうが、既存のビジネスの取引がデジタル化されることにつながっていくので、これによって取引を担保するメディアであった貨幣を中心とする貨幣経済から大きく変化し、新しい価値を産むサービスが出てくる元年になるのではないかと予測しています。

Mistletoe

足立健太(シニア・ディレクター)
2016年のキーワード:AI
2017年のトレンド:昨年のアンケートでは「2015年は『IoT』という言葉が根付いた年となったが、IoTスタートアップの多くはハードウェアがネットにつながった段階にとどまっている」とコメントしたが、2016年はそこから一歩進み、ネットにつながったハードウェアから得られる情報を活用したサービスの立ち上がりが見られた。

IoTの本質は「ハードがネットにつながる」というハード側の進化ではなく「ネットがエッジデバイスやセンサといった身体や感覚器官の獲得により賢くなる」ことにあると思う。人間の知性は、情報処理する脳、情報伝達する神経網、情報獲得する身体・感覚器から構成されるが、2016年はネットがこれら3要素を大規模に獲得して知性をそなえ始めた年であり、従来、ネットがリーチしきれなかったリアルの世界における影響力を増してきた。

その萌芽として、冒頭にも書いたサービスの立ち上がりが見られたが、この流れは2017年に入って加速するであろう。中でも特にインパクトが大きな分野、例えば、都市、交通、金融、医療、教育、食といった分野への応用が盛り上がるであろうし、Mistletoeとしても注目している。実際、これらの分野におけるイシュー選定ならびに解決へ向けた取り組みをまさに2016年から開始し、自らをCollective Impact Studioと称して、社内外はもちろん国籍を問わず、様々な技術・知見を結集しているところである。

グロービス・キャピタル・パートナーズ

今野穣(ジェネラルパートナー COO)
2016年のキーワード:Fintech、動画
2017年のトレンド:2017年に非連続にと言うわけではなく、2016年からの引き続きになるとは思いますが、以下の類型で盛り上がるかと思います。
1.テクノロジー進化
(1)産業変革型Tech
金融・教育・医療や不動産・建築など、様々な業種が更にテクノロジーが進化するでしょう。成否は、オープンイノベーションが進むか否かにかかっているように思います。
(2)企業内・企業向けTech
企業内のオペレーションにもテクノロジーの波が浸食するように思います。HR Techなどは、分解すると領域も多岐に渡りますが、注目領域です。
(3)第一次産業Tech
2016年は、農業などの第一次産業に優秀な人材が流入しているのを実感しました。2017年は事業として立ち上がることを期待しています。

2.サービス進化
(1)設備投資レス・所有レスサービス
大局的に不可逆な流れでしょう。結果、シェアリングエコノミーやサプライチェーンの変動化が更に進む領域は沢山あると思います。
(2)CtoC・ファンサービス
スマートデバイスの普及やインフラ整備により、誰でも共有者として参加できるようになっています。結果、ユーザーの粘着の仕方も見直されるでしょう。

アーキタイプ

鈴木大貴(ディレクター)
2016年のキーワード:AI、インバウンド、FinTech
2017年のトレンド:大きなトレンドが一段落しているtoC向けサービスと比べ、AIなどを活用することで顧客の課題解決を行うB2B SaaS全般の注目度が相対的に高まると考えています。労働人口の減少や長時間残業など大企業中心に高まる生産性追求ニーズを捉えるサービスを出すスタートアップが一層増えるのではないでしょうか。

個人的にはHR Techに注目しており、優秀な人材をどのように見極めるのか、採用後いかに人材を早期に戦力化するか、高いパフォーマンスで仕事を行ってもらうためにどうするか、を解決する手段としてのテクノロジーを提供できるプレイヤーがちらほら日本でも現れてきそうだと感じています。

photo by frankieleon

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。