暗号資産・ブロックチェーン業界の最新1週間(2020.10.11~10.17)

学習サービスPoL運用のtechtecが英Aaveより資金調達、日本発DeFiプロダクト構築を目指す

暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーン技術に関連する国内外のニュースから、重要かつこれはという話題をピックアップし、最新情報としてまとめて1週間分を共有していく。今回は2020年10月11日~10月17日の情報をまとめた。

学習サービスPoL運用のtechtecが英Aaveより資金調達、日本発DeFiプロダクト構築を目指す

暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーンのオンライン学習サービス「PoL」(ポル)を運営するtechtecは10月15日、英ロンドン拠点のAave(アーベ)より資金調達を実施したと発表した。DeFi(分散型金融)によるレンディングプラットフォームAaveの助成金プログラム「Aave Ecosystem Grants」からグラント(研究助成金)を獲得した日本初の企業となる。

techtecは今回の資金調達により、PoLに蓄積された学習者の学習データ「Learning Score」(ラーニングスコア。後述)を活用した、日本発のDeFiプロダクトを構築していくと明らかにした。

学習サービスPoL運用のtechtecが英Aaveより資金調達、日本発DeFiプロダクト構築を目指す

DeFiサービス大手のAaveは、主にレンディング領域でサービスを展開。Aaveは、ユーザーが預金者・借用者として参加できる、金融機関など中央集権的管理者がいない(ノン カストディアル)分散型金融サービスとなっている。預金者は預金により市場に流動性を供給し利息を得ることができ、借用者は固定金利または変動金利による方法で借り入れが行える。また、預金を担保にした借り入れも可能。

その他にも、無担保借り入れが可能なFlash Loans(フラッシュローン)や、自身の持つ与信枠を他者へ移譲するCredit Delegation(クレジットデリゲーション)といった先進的なサービスも提供している。

Aaveは2020年1月のメインネット公開以来、1日あたり1500億円超の流通額を誇る巨大市場を形成するDeFiサービスに成長。8月には、英金融行動監視機構(FCA。Financial Conduct Authority)より、「電子マネー機関」としてのライセンスを取得している。これによりAaveは、法定通貨とDeFiサービスへの直接的な接続が可能となった。

Aave Ecosystem Grantsは、DeFiエコシステムの拡大に取り組むべく、Aaveが2020年4月に開始した助成金プログラム。世界中のブロックチェーン企業対象に資金提供を行い非中央集権志向のプロダクトを育てることで、分散型金融の普及により金融民主化を促進させるのが狙いだ。Aave Ecosystem Grantsは、企業のみならず個人企業家など、あらゆる規模のチームやプロジェクトを対象に支援する。

「学習するほど金融サービスが受けやすくなる」DeFiサービスを構築

techtecは、この助成金プログラムの採択を受け、「学習するほど金融サービスが受けやすくなる」DeFiサービスの構築を進める。

同社提供中のサービスPoLは、日本で初めてオンライン学習にブロックチェーンを導入したeラーニングプラットフォーム。PoLのサービス上で蓄積された学習データは、ブロックチェーンに記録され改ざんが困難な状態で管理されている。techtecは、この学習データを「ラーニングスコア」と呼んでいる。

同社はラーニングスコアを活用し、学歴評価に代わる新たな評価軸を導入した「学習歴社会」の実現を目指している。ブロックチェーンに記録されたラーニングスコアは、真に正しい学習データを蓄積可能なため、学歴の詐称を防止することも期待できるとしている。

助成金により日本発のDeFiサービスの構築を目指すtechtecは、このラーニングスコアをDeFi(Aave)に接続し、学習するほど金融サービスが受けやすくなるサービスの提供を目指す。具体的には、DeFi市場の課題のひとつである過剰な担保率を解消するサービスの提供を行う予定という。PoLで学習することによって蓄積されたラーニングスコアを評価軸とし、DeFiを利用する際の担保率を一部PoLで肩代わりする。

まずはAaveとの接続を行い、Aaveを利用する際の担保率(借りる際の利子率)を通常よりも抑えられるか検証していく。

学習サービスPoL運用のtechtecが英Aaveより資金調達、日本発DeFiプロダクト構築を目指す

techtecは、今回海外から資金調達を行った理由についても明かしている。

これまで日本のスタートアップ(一般の企業も含め)は、日本が高度経済成長期を経てGDP世界第2位にまでのぼりつめたことから、日本国内だけでも「そこそこやれてしまう」状況にあったとtechtecはいう。しかし、日本は中国の後塵を拝しGDPは3位に転落。それでも3位だが、世界のスタートアップに目を向けると、中国はじめインドやシンガポールなどは、最初から世界を意識していることがわかる。また、GDPの伸び率の鈍化を見ても、このまま3位に甘んじていると「そこそこやれてしまう」ことは次第になくなっていくとtechtecは分析。そこでtechtecは、海外からの資金調達にこだわり、あえて世界で戦わなければならない市場を選択したという。

Securitizeがブローカー・ディーラーDTMを買収し、発行から流通市場までカバーするデジタル証券プラットフォームに

デジタル証券プラットフォームを提供する米Securitize(セキュリタイズ)は10月15日、Distributed Technology Markets(DTM)を買収するための最終契約を締結したと発表した

DTMは、米国証券取引委員会(SEC)および米金融取引業規制機構(FINRA)登録のブローカー・ディーラーであり代替取引システム(ATS)提供者。同社は、2020年にデジタル証券(セキュリティトークン)を含む私募証券のプライマリー発行とセカンダリー取引所提供の認可を取得している。今回の買収によりSecuritizeは、デジタル証券の発行から流通市場まですべてをカバーする唯一のデジタル証券プラットフォームとなる。

また、買収の一環としてSecuritizeは、米国の複数の州でマネートランスミッターのライセンスを持ちマネーサービス事業を展開するVelocity Platformの買収予定についても明らかにした。Velocity Platformの買収は規制当局の承認が必要という。買収条件は公表していない。

Securitizeがブローカー・ディーラーDTMを買収し、発行から流通市場までカバーするデジタル証券プラットフォームに

Securitizeは2017年に創業、セキュリティートークン、デジタル証券の発行と管理を行うプラットフォームをSaaSとして提供開始し、資本市場の効率化を目指してきた。同社プラットフォームは、株式、債券、不動産などデジタル証券の組成を可能にし、適格投資家により簡単に所有、管理、取引を可能にする。同社は2019年8月にSECからの認可も得ており、資金調達(STO)用のプラットフォームなども開発。すでに米国を中心に150社以上の顧客企業と契約をしている。

Securitizeはこれまで、Santander InnoVenture(現Mouro Capital)、MUFG、野村ホールディングス、SBI、ソニー・フィナンシャル・ベンチャーズ(SFV)など、世界大手の金融機関から3000万ドル以上の資金調達を行ってきた。また、本格的に日本市場でのデジタル証券事業を展開するために、日本の拠点としてSecuritize Japan(セキュリタイズジャパン)を設立している。

CryptoPieが実物の印鑑をデジタル化するブロックチェーン押印システム「Iohan」を開発

ブロックチェーン企業CryptoPieは10月12日、印章業創業98年の松島清光堂と共同で、印章文化とブロックチェーンなどデジタル技術を融合させた次世代押印記録システム「Iohan」を開発したと発表した。位置情報や回数、タイムスタンプなど関連情報とともに印鑑の押印事実をブロックチェーンに記録・共有させる特許出願技術を用いているという。

CryptoPieが実物の印鑑をデジタル化するブロックチェーン押印システム「Iohan」を開発

テレワークやDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みにより脱ハンコが話題に上がる中、非金融分野におけるブロックチェーンの社会実装を推進するCryptoPieは、印鑑のDX化に取り組む。印鑑のデジタル化は、電子印鑑などの普及により徐々に進んでいるものの、現状は印鑑と電子印鑑は二極化し、共存ができていない。CryptoPieは、その共存を目指す。

CryptoPieは印章店として老舗の松島清光堂と共同で、印影をデジタル化するのではなく、印鑑実物とデジタルが共存可能な世界を目指し、Iohanの開発を行ったという。

Iohanは、印鑑による押印事実を、位置情報やタイムスタンプと共にブロックチェーン上に保管できる。押印の履歴管理は、別途専用のスマホアプリによって管理するという。印鑑の押印事実を確保することで、印鑑が持つ「本人の意思表明」という本来の印鑑の使用方法を維持する。

また、Iohanはスマホアプリにより遠隔で押印事実を管理できることから、年老いた実家の両親など遠方の家族が不要な押印をしていないかなどの見守りや、悪徳業者による犯罪行為・詐欺行為の抑制など、さまざまなシーンでの活用が期待できるという。

Iohanは印鑑を廃止するのではなく、古くからの伝統的な印鑑による押印という文化とデジタルと結びつけることを目指した。Iohanの普及を通して、印章業界におけるDX化の課題解決が期待できるプロダクトであると、CryptoPieはIohan開発の思いを語っている。

今後両社は、Iohanをまずは業界内で普及させることに尽力し、印鑑とデジタルが共存する社会を目指す。また、将来は電子契約サービスとの連携も視野に入れ、アナログとデジタルそのものが共存可能な社会の実現を目標とするとした。

CryptoPieが実物の印鑑をデジタル化するブロックチェーン押印システム「Iohan」を開発

バハマ中央銀行が他国通貨と相互運用可能なCBDCを10月20日にも発行

バハマ中央銀行(CBOB。Central Bank of The Bahamas)は10月14日、一部地域で試験運用中だった同国の中央銀行デジタル通貨(CBDC)「Sand Dollars」(サンド・ドル)の全国展開を10月20日より開始すると発表した。サンド・ドルは、他国の法定通貨と相互運用の計画があることも明らかにした。

バハマ中央銀行が他国通貨と相互運用可能なCBDCを10月20日にも発行
今回の発表は、CBOBとバハマ商工会議所・雇用者連盟(BCCEC)が10月14日に共催したオンラインイベント「プロジェクト・サンド・ドル:バハマの決済システム近代化イニシアティブ」(PROJECT SAND DOLLAR: A Bahamas Payments System Modernisation Initiative)内にて行われた。イベントは、BCCECのFacebookページやZoomにて公開された。

発表によると、バハマ中央銀行のCBDCサンド・ドルは、2019年12月よりエグズーマ島やアバコ諸島など一部試験地区にて導入してきた。10月20日より、バハマの他の地域でも公認金融機関(AFI)を通じて、段階的にリリースしていく。

発表の際、バハマ中央銀行の電子ソリューション担当アシスタントマネージャーBobby Chen氏は、「(サンド・ドルは)現在はバハマ国内でしか使用されていませんが、最終的には他のグローバル通貨との相互運用が可能になるようなソリューションに取り組んでいます」と述べた。

また、Chen氏はサンド・ドルの発表に先立ち、バハマ国民にサンド・ドルを提供する権限が与えられた最初の6つのAFIを発表した。認可されたのは、Omni Financial Group、Cash and Go、Mobile Assist、Kanoo、Money Maxx、Sun Cashの6社となる。

バハマ中央銀行の銀行部門の責任者Cleopatra Davis氏によると、サンド・ドルの大きな特徴は、APIによるカードレスのオンライン機能という。それにより、物理的に事業所に出向くことなく、サンド・ドルにアクセスできるようになる。

そして、もうひとつの戦略的な機能は、サンド・ドルのオフライン機能。

「これは我々がハリケーン“ドリアン”のときに経験した重要なこと。電気がなくても、携帯電話のネットワークがなくても、どうやって取引を続けるのか? オフライン機能は、サンド・ドルのプラットフォームに組み込まれた重要な戦略的機能です」とDavis氏は述べた。

「また、他のウォレットと相互運用可能である必要があります。これは、私たちが取り組んでいる重要な戦略であり、具体的には銀行口座との間でサンド・ドルを移動できるようにします。それにより、CBDCは法定通貨に交換できます」と、相互運用性の必要性についても語っている。

2019年9月にバハマを襲った巨大ハリケーン「ドリアン」により、バハマの銀行ATMは数ヵ月に渡りダウンしてしまうというダメージを受けた。そのとき、携帯電話サービスはわずか数日で復旧したという。その経験からバハマは、自然災害に強い金融システムを必要としていた。バハマ中央銀行のCBDC導入計画は、すでに2018年に発表されていたが、災害によりCBDCの開発は急加速で進んだことになる。

サンド・ドルの開発には、CBDCソリューションを開発・提供するバハマのNZIA Limitedとシンガポールのブロックチェーン企業Zynesisが協力している。

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カテゴリー: ブロックチェーン
タグ: CryptoPieSecuritizetechtecバハマ中央銀行(CBOB)
中央銀行デジタル通貨(CBDC)フィンテック

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TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。