最短24時間で請求書を現金化、クラウドファクタリングのOLTAが25億円調達

右からOLTA取締役CFO 浅野雄太氏、取締役CSO 武田修一氏、代表取締役CEO 澤岻優紀氏、個人投資家として同社を支援する有安伸宏氏

既存の金融を“拡張”し、個人や企業に新たな資金調達の選択肢を提供する「オルタナティブファイナンス」は、近年FinTech界隈で注目を集めている領域の1つだ。

クラウドファンディングやP2Pのオンラインレンディングなどがその代表格だが、ABL(動産担保融資)やファクタリングを始め、テクノロジーの活用でこれまでにない資金調達手段を開発する、もしくは従来の仕組みを進化させようとするスタートアップが国内外で登場している。

今回取り上げるOLTA(オルタ)もまさにそうだ。同社が取り組むのは入金待ちの売掛債権(請求書)を売却することで資金調達ができる「ファクタリング」のアップデート。オンライン完結型のクラウドファクタリングサービス「OLTA」を開発する。

そのOLTAは6月24日、さらなる事業拡大に向けて総額で約25億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

内訳はSBIインベストメント、ジャフコ、BEENEXT、新生銀行を引受先とした第三者割当増資が約18億円。そこに三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行など複数の金融機関からの融資が加わる。

OLTAではこれまで個人投資家の有安伸宏氏、ジャフコ、BEENEXTから5億円を調達済み。2017年4月の創業以来、累計で30億円を調達したことになる。

オンライン完結、特徴は「はやい・かんたん・リーズナブル」

最初にファクタリングとはどのようなシーンで使われる仕組みなのかを簡単にだけ紹介しておこう。

例えば中小の部品工場が取引先に製品を納品した場合、その瞬間すぐに現金で代金が支払われるわけではなく、請求書を発行して1〜2ヶ月後に入金されるのが法人間の一般的な契約パターンだ。

特に相手が大手企業だとある程度の取引金額になる一方で「早く支払って」と言える関係性にないため、「売上はあるけど手元に現金がない状態」が発生し、経営者が短期的な資金繰りに頭を悩ませるケースが多いという。

そんな時、いずれ入金される予定の請求書を売却することで運転資金を調達できるのがファクタリングだ。

この仕組み自体は決して新しいものではなく、以前から日本国内でも複数の事業者がサービスを展開していた。ただこれまではアナログの側面が多かったため、郵送または面談で申込書類を提出し、審査も対面で実施。請求書を買ってもらえるかわかるまでに数日かかっていた。

運営会社としても1件ごとにある程度の手間や人件費がかかるので、その分だけユーザーが支払うサービス手数料も増える。未回収リスクも含めると、結果的に手数料が20〜30%になるのが一般的なファクタリングだった。

この一連のフローをオンライン完結型にして、さらにテクノロジーを活用した審査モデルを組み込むことで圧倒的に使いやすくしようというのがOLTAのチャレンジだ。

OLTAのクラウドファクタリングではオンライン上で必要書類(代表者の本人確認書類、売却する請求書、直近7カ月の入出金明細、昨年度の決算書)を提出すると、独自システムによる審査が実施。通過した場合には指定の口座に買取金額が入金される。

ユーザーは売掛先から支払い期日に代金を受け取った後、買取金額と手数料をOLTAに返還する仕組みだ。

OLTAの特徴はスピード感と手続きの簡単さ、そして手数料の安さにある。会社にいながらファクタリングの申し込みができ、審査も最短で24時間以内。契約完了後は即日で買取金額が振り込まれる(時間によっては翌営業日になる場合もある)。

手数料も業界最安水準の2〜9%。100万円の請求書を売却する場合、90万円以上をスピーディーに調達できる計算だ。OLTAで取締役CSOを務める武田修一氏によると、もちろん手数料の安さはOLTAを選んでもらえる1つのフックになるものの「24時間以内に請求書を買ってくれるかわかるのが画期的で好評」だという。

「銀行に融資の相談をする場合、借りられるかどうかの結論が出るまでに数週間〜1ヶ月かかることがある。既存のファクタリングもオフラインの手続きと審査が必要なので、どうしてもある程度の時間が必要だ」

「ユーザーが困っているのは、入金日までの運転資金をどう集めるか。巨額の金額を調達したいというよりは困った時に困った分だけ資金提供してもらえる方法を探しているため、圧倒的に早いスピードで、なおかつ借金ではない形で資金を調達できる仕組みにはニーズがある」(武田氏)

申込総額は100億円を突破、独自のスコアリングモデルがカギ

2017年末からクローズドβ版の運用を始め、すでに申込総額は100億円を突破。OLTA代表取締役CEOの澤岻優紀氏の話では、主な利用者は社員数が10〜20人ほどで年商規模が1億円以下の中小企業とのこと。買取金額も数十万円〜数百万円がボリュームゾーンだ。

「そこまで大きな額ではないので、銀行から融資を受けたいと思っても審査の対象にならないことすらある。仕方がないので代表者が個人のカードで借金をしたり、親族借り入れで済ませたり。中小企業が短期で少額の資金を調達したいと思った際の選択肢が非常に限られていて、ペインが大きい」(澤岻氏)

アパレルのデザインに特化したある企業では、事業は好調だがキャッシュフローが回らず、大きな仕事の話が来た時に「入金待ちの状態で手元に現金がないこと」が原因で受けれないような状況に陥っていたそう。

特に中小企業ではそのような“機会損失”が生まれていることも多く、そんな場面で「あの入金待ちの請求書を売って次のチャレンジをしよう」とOLTAが活用されるわけだ。

また上述した特徴に加えて、OLTAの場合は「二者間ファクタリング」であることもポイントだという。

ファクタリングには売却対象となる請求書の取引先(売掛先)を当事者として巻き込む三者間ファクタリングと、巻き込まない二者間ファクタリングがある。長く運営されているタイプのサービスは、売掛先から資金を回収する三者間ファクタリングが多いが、そこに抵抗感のあるユーザーも一定数いるようだ。

「三者間でファクタリングを使いたいとなった場合、当然売掛先にも知られるので『あれ、この会社資金繰りが危ないのかな』と思われ、それ以降の取引に影響しかねない。だからこそ二者間ファクタリングには隠れた需要がある」(武田氏)

もちろん、サービス運営会社にとっては三者間タイプの方が売掛先から回収できるので未回収リスクを減らせるメリットがある。二者間の場合はいかに未回収リスクを減らせるか、「審査」の工程が重要。ここに手間をかけ過ぎたり、審査精度が低かったりすると結果的にユーザーの手数料に反映され使いづらいサービスになってしまう。

OLTAの場合はこの工程でテクノロジーを活用している。具体的には約20万社のデータに基づくAI(スコアリングモデル)を開発し、現在の手数料でも事業を拡大できる仕組みを整えた。

「中長期の融資のように3年後、5年後に貸したお金が返ってくるかを予測するのは簡単ではない。ただ自分たちの場合は、1〜2ヶ月後にちゃんと入金されるかどうかを見抜きたい。つまり非常に短期間の予測である点がポイントで、ここはAIでもかなり高精度で予測できると考えている」(武田氏)

これまでにデフォルトは一定程度発生しているそうだが、サービスを継続する上で大きな影響を与えるレベルではなく、ごく一部とのこと。「デフォルトじゃないデータだけでなく、デフォルトした場合のデータもしっかりと学習データとして活かすことで、より審査精度を高めていける」(澤岻氏)という。

中小企業に融資以外の資金調達手段を

海外では「BlueVine」や「Fundbox」など、数年前からオンラインファクタリングサービスに取り組むプレイヤーがいくつか存在している。

澤岻氏によると自社の事業ドメインをこの領域に決めたのは「海外ではすでに明確なニーズとマーケットがあることが証明されていて、スタートアップとしての戦い方で挑める領域だった」ことも1つの理由だ。

もともと澤岻氏は前職の野村證券で投資銀行部門に在籍し、大企業向けに資金調達のサポートを行ってきた。その仕事を通じて自身でも起業したいと奮い立ち、事業の方向性などを明確に決める前に独立したそうだ。

「大企業はビジネスアクションに合わせて融資や社債、株式など色々な資金調達手段を選ぶことができる。一方で中小企業の場合、ほとんどは融資だけ。自社の状態に応じて複数の選択肢の中から選べる状況を作ることは、単に融資をアップデートをするよりも価値があるのではないかと思った」(澤岻氏)

退職後、現在のクラウドファクタリングの事業モデルを立案。三菱UFJフィナンシャル・グループが主催するMUFGデジタルアクセラレータに選ばれたことをきっかけに、2017年4月にOLTAを創業した。

個人投資家として同社に出資する有安氏もマーケットのポテンシャルやファウンダーとの相性の良さを感じ、TwitterのDM経由で出会った後「プロダクトなし、会社も設立前」の状態から支援している。

「海外ではすでに急成長するスタートアップが出てきていて、社会的にもファクタリングという機能が必要とされているものの日本ではあまり浸透していない。伸びしろがある領域であり、なおかつファウンダーとマーケットのフィット感もすごく良かった」(有安氏)

澤岻氏だけでなく元ソニーの武田氏や、三菱商事・楽天を経てジョインした取締役CFOの浅野雄太氏をはじめ、金融業界を筆頭に大手企業出身のメンバーが多いことも特徴。スコアリングモデルを開発したメンバーも、過去に銀行の格付けモデルを開発していたデータサイエンティストだ。

国内でもマネーフォワードグループのMF KESSAIなどオンラインファクタリングサービスを手がける企業も徐々に登場し始めているが、まだまだ認知度も低く整備も進んでいない領域。ファクタリングと言いつつ貸付業務を行う悪質な事業者も一部では存在し、ファクタリングに対してマイナスのイメージを持っている企業もいるという。

そんな未成熟のマーケットだからこそまずは正しい認知を獲得していくのが重要だ。OLTAでもこれまではステルスでプロダクトを磨きつつ、弁護士同席の元で複数回金融庁に確認を取りながら事業を進めてきた。

他社との連携強化でゆくゆくは法人版クレジットスコアの開発も

そんな中で申込総額も100億円を超え、ある程度の手応えを掴みつつある段階で実施した今回の資金調達。集めた資金は組織体制の拡充に向けた人材採用と、ファクタリング事業のさらなる拡大に用いるという。

澤岻氏や武田氏がこれからの注力ポイントにあげるのが「金融機関や事業会社とのパートナーシップ」。すでにクラウド会計ソフトを展開するfreeeとは連携をしていて、今後はこのネットワークを広げていく計画だ。

クラウド会計ソフトや受発注管理システムなどと繋げることで「会計ソフト上で債権を売るといったように、よりシームレスで使いやすい体験を設計していく」(澤岻氏)のはもちろん、地銀など金融機関とも協業を図りユーザー体験の向上とデータの蓄積を進める。

「地域経済を支えているのは各地の金融機関。ただ彼らが抱えている法人の顧客は多いものの、実際の融資先となるのはその一部に限られる。(地銀とタッグを組むことで)これまで融資の対象にならなかった層にクラウドファクタリングを普及させていきたい。地方の事業者にとっては資金調達の選択肢が増えることになり、銀行にとっても新しい層と接点を作れることに繋がる」(武田氏)

その意味で、武田氏はクラウドファクタリングを既存の金融機関を“代替”するものではなく“補完”する存在だと捉えているそう。以前からゆくゆくはスコアリングモデルを地銀などに提供することも見据えて、自社で請求書の買取をしながら開発を進めてきた。

今後は様々なプレイヤーを「競合ではなく協業相手として巻き込んでいく」ことで、ファクタリングに限らず中小企業の資金調達環境を変えていくのが目標だ。

「『あらゆる情報を信用に変えあたらしい価値を創出する』ことをミッションとしているように、ファクタリングでナンバーワンになることだけを目指している訳ではない。方向性として考えているのは、アリババが手がけるクレジットスコアの法人版のような仕組みが作れるのではないかということ」

「中小企業の本当の状況をリアルタイムにきちんと評価できるようになれば、必ずしも請求書を買い取るだけでなく(他社と連携して)別のソリューションを紹介したり、自分たちで新たな仕組みを作って提供することもできる。スコアリングモデルを核に、中小企業や個人事業主が抱える課題の解決を目指したい」(澤岻氏)

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TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。