月着陸船開発を失注したベゾス氏がNASAに約2208億円の「インセンティブ」を打診

Blue Origin(ブルーオリジン)創業者である富豪のJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏は米航空宇宙局(NASA)に契約と引き換えに月着陸船の開発費用を最大20億ドル(約2208億円)拠出し、パスファインダーミッションを自己資金で実施することを提案している。

当該の契約は、有人着陸船(Human Landing System)プログラムの月着陸船の開発に関するものだ。このプログラムではアポロ以来となる人間の月面着陸を目指している。NASAは2020年4月、契約の第1段階でBlue Origin、SpaceX、Dyneticsが選ばれたと発表し、月着陸船を開発するために競争によって最終的に2社に絞られると考えられていた。TechCrunchのDarrell Etherington記者が指摘しているように、NASAが2社を選ぶのは珍しいことではなく、商業有人飛行プログラムではBoeing、SpaceXの両社と契約した。

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しかしそれから1年後、これまでの習慣から方向転換し、NASAは契約で1社のみ選んだと発表した。SpaceXだ。Elon Musk(イーロン・マスク)氏が率いる同社は月着陸船の開発費用として28億9000万ドル(約3190億円)を提案していた。これはBlue Originの59億9000万ドル(約6613億円)のおおよそ半分だった。ベゾス氏は現在、この価格から20億ドルの値引きを申し出ている。

ワシントンポスト紙が入手した、月着陸船の契約で1社を選んだ根拠を説明する書類の中で、NASAは「現会計年度の予算は1社との契約金すら満たさなかった」と認めている。これに対し、SpaceXは「NASAの現在の予算内」に収まるように支払いスケジュールをアップデートした。NASAに厳しい予算上の制約があることは皆が知っている。議会は2021年会計年度で有人着陸船プログラムにわずか8億5000万ドル(約938億円)の予算しか認めず、NASAが求めた34億ドル(約3753億円)には遠く及ばなかった。

ベゾス氏がNASA長官のBill Nelson(ビル・ネルソン)氏に宛てた公開書簡では、予算問題を直接解決している。ベゾス氏は、提案したインセンティブは、2社ではなく1社のみを選ぶことを余儀なくされた有人着陸船プログラムで「見受けられる短期的な予算の問題」を取り除く、と書いている。

「元々意図していたように月着陸船の開発を2社に競わせることに投資する代わりに、NASAは複数年、数十億ドル(数千億円)という有利なスタートをSpaceXに与えることを選びました」とベゾス氏は書簡で述べている。「その決定は、意義ある競争に今後何年にもわたって終止符を打つことでNASAの成功的な商業宇宙プログラムの型を壊しました」。

1社のみに絞るというNASAの決定をBlue Originが公然と疑問視するのは今回が初めてではない。Dyneticsとともに、Blue Originは契約が発表された1週間後に米会計検査院に抗議した。同社は契約要件が「有意義に競争する」能力を与えなかった、と主張した。会計検査院は8月4日までに抗議内容について裁定しなければならない。

2社契約を支持するのはBlue OriginとDyneticsだけではない。米上院はこのほど、NASAに月着陸船の開発で2社を選ぶことを求める法案と、そのための追加予算を可決した、とSpaceNewsは報じた。しかし追加予算を含めることについて、すべての議員が好意的ではない。上院議員Bernie Sanders(バーニー・サンダース)氏は追加予算を「ベゾス氏を救済する措置」と呼んだが、最終的に法案から追加の予算を除くことはできなかった。

「当社は、NASAがテクニカルリスクを調整して予算上の制約を解決し、アルテミス計画をより自由競争があるものに、そして信頼でき、持続可能な道に戻すのをサポートする準備はいつでもできています」とベゾス氏は述べた。

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カテゴリー:宇宙
タグ:Blue Originジェフ・ベゾスNASAアルテミス計画

画像クレジット:Matthew Staver/Bloomberg / Getty Images

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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