有料オンラインサービス「断酒の学校」運営のTempestがテクノロジー活用で回復支援

Maveron, Slow Ventures、そしてFemale Founders Fundは、断酒に新たな道を切り開くというスタートアップに1000万ドル(約11億円)を投資した。

Tempest(テンペスト)は8週間で647ドル(約6万9000円)のバーチャル版「断酒の学校」を運営している。特に女性や「歴史的に抑圧されてきた人々」の断酒支援を目的とする。同社の創業者兼最高経営責任者であるHolly Whitaker(ホリー・ウィテカー)氏が主催し、毎週ビデオ講義と参加者向けの質疑応答セッションを実施している。プログラムで専門知識を提供する顔ぶれには、結婚および家族療法士のKim Kokoska(キム・ココスカ)氏、Eight Step Recoveryの共同創業者であるValerie Mason-John(ヴァレリー・メイソン‐ジョン)氏、健康維持のために食事や運動面のアドバイスをするウェルネスコーチのMary Vance(メアリー・ヴァンス)氏などがいる。

学校で教えるのは、依存症の根底にある原因、「依存から脱却する目的、意味、工夫の重要性」、欲求をコントロールする方法、断酒後の社会復帰方法、マインドフルネスの実践方法など。参加者はプログラムの最後に、年間127ドル(約1万4000円)のオンラインコミュニティのメンバーシップに申し込むことができる。オンラインコミュニティではプログラムの完了者同士で交流できる。

プログラムスケジュール

第1週:回復マップ+ツールキット

第2週:依存症と脳

第3週:習慣と夜の儀式

第4週:ヨガ、瞑想、呼吸

第5週:栄養とライフスタイル

第6週:関係とコミュニティ

第7週:トラウマとセラピー

第8週:目的と工夫

第8週以降 まとめ+次のステップ

毎週行う演習の例

包括的アプローチ

2014年創業でニューヨークに本拠を置くTempestは、VCからこれまで約1430万ドル(約15億円)を調達した。ウィテカー氏はOne Medicalに5年間在籍し、収益業務のディレクターを務めた。Tempestを設立してからは4000人の参加者を集めた。ウィテカー氏はランダムハウスとの契約を2本締結し、断酒へのアプローチと方法論を本にする。最初の本「女性らしくやめる:アルコール妄想社会であえてお酒を飲まないという選択」(原題:Quit Like a Woman: The Radical Choice to Not Drink in a Culture Obsessed with Alcohol)が12月31日に出版される。

シリーズAで調達した1000万ドル(約11億円)を使い、現在28人の従業員の拡充やマーケティングへの投資(いずれもこれまでお金をかけてこなかった)、さらに企業向けビジネスの開拓も狙う。

Tempestは、デトックスやAlcoholic Anonymous(断酒のための自助グループ)の「12のステップ」とは違うと強調する。他のプログラムや治療法と組み合わせて、または回復への道の第一歩としての利用が考えられる。Tempestは依存症であると診断された人や自分はそうだと考えている人だけのものではない、とウィテカー氏は説明する。そういうレッテルを拒む人や単にアルコールのない人生を望む人を歓迎するという。

以前アルコール依存症と摂食障害に苦しんでいたウィテカー氏はTechCrunchに「Tempestは私自身の経験から生まれた私なりの答えだ。飲酒の問題を抱えていたり、アルコール依存症ではないがアルコールと闘っている人が利用できる選択肢がなかった。女性向けの選択肢もなかった。すべてが男性向けだった」と語った。

Tempestは女性や歴史的に抑圧されてきた人々のニーズを念頭に置いているが、すべてのジェンダーのコース参加を歓迎する、とウィテカー氏は述べた。参加者は飲酒に陥ったそもそもの要因に対処することが求められる。「愛情の問題、栄養不足、ストレス、不安、上っ面の友情、消費至上主義、目的の欠如、未解決の家族の問題、権利の剥奪、貧困、借り入れの返済困難または不能、つながりの欠如、恐怖、嫌いな仕事、うつ病、未処理のトラウマ、意味の欠如、満たされない夢、終わりのないTo-Doリスト、得体の知れない元気」 と同社のウェブサイトにはある。

A.A.についてはどうか?

筆者も同じことを考えた。

Alcoholics Anonymous(A.A.)は、最も一般的で利用しやすい無料の回復手段だ。飲酒の問題があることを認めようとする人なら誰でも受け入れる。非営利組織であるA.A.は世界中に11万5000以上のグループがある。今年で84年目のこのプログラムは相互扶助の組織で、定期的に集まってディスカッションする。比較的古いメンバーが「スポンサー」になり、新しい参加者の「12のステップ」を支援する。

一方Tempestは営利目的の形態をとっており、テクノロジーを使ったメソッドを有料で提供する。A.A.の特色が対面のサポートグループなのに対し、Tempestはビデオストリームを使う。遠隔医療のスタートアップが健康とウェルネスケアの分野の便利なソリューションで顧客の関心を引いているが、遠隔医療、遠隔療法、バーチャルな断酒の学校といったものに本当に火がつくかどうかは議論の余地がある。TempestとA.A.の類似点についてウィテカー氏は次のように述べる「唯一の共通点はアルコールをやめる支援をしていることだけだ」。

断酒の学校を宣伝する際にTempestは「断酒は新しいスタイル」「二日酔いは消え去るが、社会生活はあなたの元に残る」といったフレーズでクールな感覚に訴える。断酒に高い課金を求め、必ずしも万人に開かれた手段を提供しているわけではないため、薬物乱用から利益を得るTempestのビジネスモデルは倫理感と動機の点で問題があると思うかもしれない。ウィテカー氏は、これまで社会的に無力であった人々にバーチャルスクールが必要な選択肢であると反論する。「我々のプログラムは、権力を奪われ、黙って耳を傾けるように強いられた人々に開かれている。白人の上流階級の男性ではなく主流から外れた人々にフォーカスしている」。

Recovery.orgが公開した調査データによると、A.A.の89%の参加者は白人、38%が女性だ。

「飲酒文化」を拒む

Tempestのブランディングは、D2C(消費者に対して商品を直接的に販売する仕組み)のセオリーからヒントを得た。女性が主導する同社は断酒のブランドになりつつあり、それを利用している。TempestのシリーズAは、VCが支援する新時代のノンアルコール飲料ブランドの台頭とともに、若い世代の間で意識されているアルコール離れを象徴する。

ミレニアル世代は飲酒量が少なく、世界保健機関によると、現在の世界のアルコール飲酒者は2000年よりも5%少ない。Tempestの学校が価値を提供できるのは、依存症のために断酒しようとしている人々ではなく、お酒を飲まないライフスタイルにはメリットがあると考える人々のようだ。

Tempest共同創業者でCEOのHolly Whitaker氏

ノンアルコールスピリッツのSeedlipとノンアルコールビールメーカーのインドのCoolberg Beveragesが最近VCから資金調達したのも同様の人口動態が背景にある。 一方、Sweet ReasonCannRecessなどのCBD(カンナビジオール、大麻由来の成分)を注入した飲料ブランドも流行しており、VCから資金を集めている。もちろん、いずれもアルコールに苦しんでいる人のための解決策にはならない。こういったブランドに流入する資金はベンチャーキャピタリストの見込みを示しているにすぎない。消費者が伝統的な酒から離れ、飲まない世代が好む新製品に向かうとみているのだ。

「断酒する。飲酒中心の文化を疑う。それだけであなたはすでに群を抜いているし、良き仲間になれる」とTempestのウェブサイトにある。「覚えておいてほしい。成人の70〜80%は環境によって飲酒するかどうか決める。 飲酒することが基本になっているのだ。飲酒をやめること、飲酒文化への迎合を拒むことは、破壊的で、反抗的で、先鋭的だ」。

Tempestによると、バッファロー大学とシラキュース大学の研究者の支援を受けて実施した有効性の研究が完了したという。ミレニアル世代がアルコールと向き合う中で行ったさまざまな試みが本当に正しかったのか、またVCの投資が浪費されたのか先見の明があったのか数年後にはわかる。Tempestに関しては、インターネット上で断酒の苦しみやメリットに関する議論の場を提供しただけでも、回復中の人々やライフスタイルの変化を求める人々に大きな影響を与えた可能性がある。

ウィテカー氏は「アルコールはタバコに非常に似ている。我々はアルコールを飲むのが自然で当然だと考えられている時代に生きている。私はそれが変わると思っていた。私にとってアルコールは毒でしかないからだ。我々は転換期を迎えている。アルコールがどれほど有毒で不必要であるかを認識する時が来たのだ」と述べた。

Tempestは、AlleyCorp、Refactor、Green D Venturesの支援も受けている。MaveronのAnarghya Vardhana(アナルギーヤ・バルダナ)氏が出資の一環として同社の取締役会に加わった。

画像クレジット:HEX / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi)

投稿者:

TechCrunch Japan

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