朝日新聞がグループのテレビ局と組んで新ファンド、日米での投資を進める

朝日メディアラボベンチャーズ 管理担当マネジャーの佐野敦氏(上段左)、投資担当ディレクターの白石健太郎氏(同右)、マネージング・ディレクターの野澤博氏(下段左)、投資担当ディレクターの山田正美氏(同右)

2013年6月に「朝日新聞メディアラボ(メディアラボ)」を立ち上げ、新規事業や投資、アクセラレーションプログラムなどを展開してきた朝日新聞社。スタートアップ投資を加速すべく同社が100%子会社として4月に設立したコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の「朝日メディアラボベンチャーズ」の活動が本格化する。同社は8月7日、ベンチャーファンド「朝日メディアグループ1号投資事業有限責任組合(朝日メディアグループファンド)」を組成したことを発表した。

ファンドの規模は約20億円。朝日新聞社に加えて、テレビ朝日ホールディングス、名古屋テレビ・ベンチャーズ合同会社、ABCドリームベンチャーズ(それぞれ名古屋テレビとABC朝日放送のCVC)がLP出資する。2017年末までに朝日新聞社グループなどから追加出資を募ることで30億円規模のファンドサイズを目指す。

朝日メディアグループファンド日本に加えて、米シリコンバレーに拠点を置いて日米で投資活動を行う。対象領域はインターネット、メディア、マーケティングといった分野でライフスタイルの変革を目指す事業を展開する、シード・アーリーステージのスタートアップ。1社への投資規模は数千万円程度を想定している。将来的には米国以外の海外投資も検討している。第1弾として、米ニューヨークで展開するアジア人特化型のマッチングサービス「EastMeetEast」への出資も決定している。

「メディアビジネスを取り巻く環境が変化し、新たなサービスが既存メディアの外から出てきている」——朝日メディアラボベンチャーズ マネージング・ディレクターの野澤博氏は、ファンド立ち上げの背景についてこう語る。冒頭で触れたように、これまではメディアラボを通じてスタートアップを発掘し、本体での投資なども行っていた朝日新聞社だが、よりスピード感を持ち、投資活動に集中するために投資部門を独立させたという。

朝日新聞社ではこれまでに、メディアラボでの活動を通じてサムライトを買収しているほか、つみき(カルチュア・コンビニエンス・クラブが買収)やスタディプラスなど複数のスタートアップへの出資を実行している。関係者に聞く限り、投資・買収先企業との連携がうまくいっているケースもあれば、そうでもないケースもあるようだが、いずれにせよ1年、2年というスパンで本体とのシナジーを求められるのであれば、投資活動の幅は狭められる。それもあってより独立した体制を作ることが必要だったようだ。

「(朝日新聞社)本社で投資をしないというわけではない。だがCVCを切り出すのは、1年でPLインパクトがあるような事業だけではなく、新しいものを生んでいきたいから。ファンドの存続期間である10年の中で新しいトレンドやメディアのかたちを見つけたい」(投資担当ディレクターの山田正美氏)

ファンドとして独立することで、本体との事業シナジー以上にキャピタルゲインを得ることがより重要になっていくことになるが、「(キャピタルゲインは)もちろんひとつのKPIになる。だが事業を作っていきたい。それをLPが買収したらいい、といったことは当然考えていく」(野澤氏)としており、自社グループへのイグジットも視野に入れているようだ。また、名古屋テレビとABC朝日放送はそれぞれCVCを立ち上げ、地元を中心に投資活動を進めている。具体的な話は現時点では聞けなかったが、今後はメディアネットワークの強みを生かした支援も視野に入れているようだ。

また野澤氏は3年前からシリコンバレーに拠点を置き、現地のスタートアップやVCなどとの交流を通じて新規事業や提携に向けたリサーチなどを行ってきた。米国での投資活動について「朝日新聞がLP出資するファンドなどもあり、現地のネットワークはできてきた。基本はハンズオフになるが、(米国のスタートアップが)日本へのエントリーをしたいときなどに手伝いできると考えている」と語る。

なお本ファンドには、General Partner, Social StartsのBill Lohse氏、ユーザベース創業者で取締役CCOの梅田優祐氏、(サムライト創業者でソラシード・スタートアップス代表パートナーの柴田泰成氏がアドバイザーとして参画している。

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TechCrunch Japan

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