未来のアメリカの雇用は、石炭ではなくハイテク産業が切り拓く

Rows of office workers working on computers with data streaming

【編集部注】著者のAbinash TripathyはHelpshiftのCEO兼共同創業者である。

ドナルド・トランプが選挙に勝ったとき、シリコンバレーの多くの者は当惑した。「いったいどうすれば、政治経験もなく落ち着きのないツイートを垂れ流す偏屈な億万長者が、米国大統領選挙に勝てるんだ?」彼らは自問した。

リベラル陣営は、この国に対する「私たち」(テクノロジー産業で働く上流のリベラル)のビジョンと「彼ら」(ブルーカラー労働者)のビジョンの大きな乖離にその理由を見出そうとしている。私たちが直面しているのは、集団的アイデンティティクライシスだ。この「ポスト真実」の世界で、ベイエリア政治とこれほどまでに対立する人物が、この国で最も重要な民主的に選ばれる座を勝ち取ったことに、完全に困惑しているのだ。

だが、それはシンプルなことなのだ。シリコンバレーがラストベルト(Rust Belt)から完全に切り離されていたことこそが、トランプの勝利した理由なのだ。策謀と、アウトソーシングと、そして工業化時代の決定的な終焉が彼を勝たせた。私たちのイノベーションこそが理由でトランプは勝ったのだ、「私たち」が「彼ら」に仕事を与えて来なかったからだ。

仕事はどこに消えた?

1960年には、アメリカ人の4人に1人は製造業の仕事をしていたが、現在その数字は10人に1人以下だ。工業化時代は終わった。米国の石炭採掘は2008年に比べて25%減少していて、このことで4年間に5万人の職が失われた。鉱業全体では、2014年以来19万1000以上の職が失われている。

とはいえ、これは特に目新しい話ではない。20世紀の後半に、私たちは情報化時代を迎えた。経済が伝統的な産業への依存から、コンピューターとデジタル情報への依存へとシフトしたことで特徴付けられる時代だ。アウトソーシングに加えて、中産階級の労働者は現在新しい競合相手に直面している。自動化だ。ドナルド・トランプが彼の選挙運動に用いたこの社会現象の中で、アメリカの中産階級は減少し、ブルーカラー労働者は失業している。

しかしトランプは、アメリカ人の失業の現実を、非論理的なソリューションへと導いた。私たちは鉱業を取り戻さなければならない、時間を遡り、情報化時代の前へ戻って、「アメリカを再び偉大な国にするのだ(make America great again)」と。彼は「私たちの炭鉱労働者と製鉄労働者を仕事に戻すのだ」と述べた。それこそが「この国を再建するアメリカの手だ」と。

私たちは、グローバルな競争に先んじる場所に私たちを置いてくれる、新しい革新的な産業に焦点を合わせる必要がある。

目標自身はもちろん極めて妥当なものだが、その目標を達成するために彼が取ろうとしている手段には意味がない。トランプは鉱業や石炭産業の衰退をアウトソーシングや政府施策のせいだと言うが、実際にはそれは市場の変化によるものなのだ。天然ガスと再生可能エネルギー源がますます手頃な価格となり、多くの場合、石炭に対してさえ拮抗し得るものになっている。

実際、これらの産業は、石炭産業の衰退と並行して成長してきたのだ。ソーラー業界は年に20%の率で成長し、研究によれば、ほとんどの石炭労働者はソーラー業界内の同様の仕事に向けて、容易に再訓練できることが分かっている。私たちには、石炭産業を再構築する必要はない。私たちは、グローバルな競争に先んじる場所に私たちを置いてくれる、新しい革新的な産業に焦点を合わせる必要がある。

自動化が、アメリカ本土に雇用を呼び戻している。

シリコンバレーに居る私たちにとっては、明らかなことだが、テクノロジー産業は現在670万人の人びとを雇用していて、この25年以上に渡って事実上すべての新しい民間の雇用は、創業5年未満の企業によって生み出されている。

「実際、1988年から2011年の間に、創業5年以上の古い企業は、8年分を除けば破壊した雇用の数が創出した雇用の数を上回っている」とKauffman財団のJason WiensとChris Jacksonは書いている

新興市場の方が、(石炭産業のような)伝統的な市場よりも、多くの雇用機会を創出していることは注目に値する。更に、もし歴史が未来の何かを指し示すことがあるとすれば、自動化の推進は既存の産業の中に仕事を注入していく結果に繋がるだろう。

例えばThe AtlanticのJames Bessenは、最近パラリーガルの仕事の大部分が電子的検索ソフトウェアによって自動化されたことを取り上げている。だがその結果、弁護士やパラリーガルが解雇されたかといえば、このセクターの仕事は、全体的な労働力以上に成長しているのだ。実際に、1980年以来平均して、「平均以上にコンピューターを使う職業」は、平均または平均以下の使用しか行わない職業に比べて「より速く(年0.9%)成長している」のだ。

この理由は極めてシンプルだ。「低価格化によって十分な需要が掘り起こされるなら、雇用は自動化を伴って増えるだけで、減ることはない」。言い換えれば、自動化が生産性を上げ、それにより価格が下がり、その結果需要が増加するということだ。

需要が増えるにつれ、新しい従業員が必要とされるようになる。こうした従業員はアメリカ人である可能性が高い、なぜなら(a)企業にはそうできる余裕がある、(b) これからの労働者は、これまでは(アウトソーシング先の)カウンターパートの労働者によってなされていた単純な仕事よりも、さらに高度なスキルを身に付ける必要がある。

ハイテク業界は、アメリカからのアウトソーシングを削減することができるし、そうすべきだ。

カスタマーサービス産業界の起業家の1人として、アウトソーシングと自動化(仕事を失わせる2つの主な要因)の両者は身につまされる。この選挙で、私はアウトソーシングへの政略が、(アウトソーシングで悪名高い)カスタマーサービスのミクロ経済に反映されるところを見てきた。

何年もの間、経済論理が、顧客サービスの仕事をインドやフィリピンといった海外へと移管し続けていた。世界的なコンタクトセンターが使う費用は年間3000億から3500億ドルに及び、そのうちの20〜25%をサードパーティへのアウトソーシングが占めている。

コールセンターが顧客サービス産業を支配したことで、サービスの品質は低下した。なぜなら顧客は、言語に対するしっかりとした理解もなく、適切な訓練もなされていない海外の従業員とやりとりを強いられることになったからだ。私たちは今、転換期にある。チャットやメールなどを用いた効率的な通信モードを好む消費者たちの嗜好は、電話による労働集約型のコンタクトセンターへの、企業の依存度を低めている。これはまた同時に、カスタマーサービスコストを押し下げている。

スマートフォンや、アプリ、そしてコネクテッドデバイス(インターネットに接続された車やサーモスタットなど)の時代は、顧客とその利用履歴に関する大量のデータを生成するため、顧客との対話は今やとても効率的になっている。これにより、カスタマーサービスの仕事を、アメリカ本土に呼び戻す経済的余裕が生まれたのだ。テクノロジーがカスタマーサービスをとても効率的にしたことで、企業はそれほど沢山の人を雇用する必要がなくなったのだ。500人の外国人の代わりに、40人のアメリカ人を雇用することができる。

自動化とテクノロジーが、アウトソーシングへの依存を減らす。

カスタマーサービスの自動化が離陸し始めた2012年頃、カスタマーサービスの仕事は米国への回帰を始めた。ある記事が指摘したように、カスタマーサービスの仕事は「経済の、よりサービスの行き届かないニッチな場所へフィットする。カスタマーサービスの仕事は、スキル不要の仕事ではない。基本的な電話とコンピューター操作能力に加えて、良いコミュニケーションスキルが求められるものなのだ。とはいえ、そのためには大学の卒業資格は不要で、訓練は仕事を通して行うことが可能だ。2010年には、こうしたカスタマーサービスの仕事が210万以上あったが、労働統計局は、その数が今後10年間で15%は成長すると見込んでいる」。

言い換えれば、自動化とテクノロジーがアウトソーシングへの依存を減らすのだ。ハイテク業界は、プロセスを合理化し自動化することで、アウトソーシングを止めることができるほどコストをカットできる能力を持っている。これはカスタマーサービス産業だけの話ではなく、エネルギーでも、自動車産業でも、そして共有経済のような新しい産業の中にも見出すことができるものだ。

シリコンバレーはアメリカを再び偉大な国にすることができる

複数の研究で、消費者たちは、本当にアメリカで作られた製品を購入することが好きだということが示されている。ちょうど私が、カスタマーサービスを探す人びとは、インドの誰かと電話で話すよりも、アメリカ人従業員とインスタントメッセージをやり取りすることを好むということに気が付いたように。私たちの望みは皆同じだ:アメリカ人の雇用、アメリカ製のプロダクト、そしてアメリカ人のカスタマーサポート。

唯一の課題がコストだ。そしてそれこそ、シリコンバレーが、自動化を使って米国に雇用を呼び戻す義務を、国に対して負うべき理由だ。私たちには石炭は不要だ。私たちにはカスタマーサービスが、私たちにはソーラーエネルギーが、そして私たちには自動運転車が必要なのだ。

シリコンバレーがラストベルトと切り離されている必要はない。私たちは隔離された世界に生きている訳ではないのだ。私たち双方が、問題と可能なソリューションの一部だ。私たちが現在目にしている技術革新は、全国規模の経済的な機会だ。単に経済に良い影響があるというだけでなく、企業にとっても良い結果となるからだ。自動化がアメリカ人の雇用を取り戻すことができる。そのことで、より高品質の仕事と、アメリカの偉大な新時代が生み出されることだろう。そして、それはこれまで私たちを世に知らしめていたものの存在を証明することになる。その名は「イノベーション」だ。

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(翻訳:Sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。