未開拓のペットテック市場に挑むシロップが資金調達、次なる構想はペットライフ・プラットフォーム

ペット関連のサービスを複数展開するシロップは12月27日、福岡銀行系のベンチャーキャピタルであるFFGベンチャービジネスパートナーズ、獣医師の佐藤貴紀氏など複数の個人投資家を割当先とする第三者割当増資を実施。融資と合わせて総額3800万円を調達したことを明らかにした。

シロップのメンバー。写真中央が代表取締役の大久保泰介氏

今回の資金調達は2016年12月に続くもの。前回はサイバーエージェント・ベンチャーズやiSGSインベストメントワークス、エウレカ共同創業者の西川順氏を含む個人投資家から数千万円規模と見られる金額を調達している。

今後は運営体制を強化しながら、飼い主とペットのデータを活用して最適な情報や商品を提供する「ペットライフ・プラットフォーム」を目指していく。

専門メディアとマッチングサービスを展開、単月黒字化も

現在シロップが展開しているのは、ペットの飼い主向けメディア「ペトこと」と保護犬猫と飼いたい人をマッチングする「OMUSUBI(おむすび)」の2つ。

2016年5月リリースのペトことは、ペットの健康管理やしつけなどを中心に飼い主に必要な情報に特化したメディアだ。既存のペットメディアではかわいい動物のコンテンツなどライトな記事も多いが、ペトことの場合は獣医師やトレーナーなど専門家が病気やしつけに関する記事を執筆。

シロップ代表取締役の大久保泰介氏いわく「マニアックだけど、飼い主にとっては絶対に必要な知識」を届けることで差別化を図っている。

もうひとつのOMUSUBIは犬猫の殺処分問題を解決する目的で2016年12月にベータ版をリリース。保護犬猫の飼い主を募集する団体と、飼いたい人をマッチングする。2017年9月からは提供範囲を拡大し登録団体が28団体、累計の会員数が1300名。累計の応募数も200を超えた。

大久保氏の話では2017年12月には黒字化も達成の見通し。「記事や動画制作、リアルイベントやソーシャルグッドのプロモーションなどタイアップ案件に加えアフィリエイトも好調。たとえばペットと泊まれる宿を紹介した記事からは月間総額で1600万円の予約が発生している」(大久保氏)という。

ペット関連事業者だけではなく自動車や住宅メーカーからの関心も高まってきていて、今後はこのような間接企業とのタイアップも拡大していく方針だ。合わせて今後は広告収入以外のマネタイズ手段の開発に向けた取り組むも強化する。それがペトことを軸としたメディアコマースだ。

メディアを軸にコマース事業を開始、サプリなど自社ブランドも

ペトことでは2018年の3月に大幅なリニューアルを実施する予定。スポット検索やQ&Aなどコミュニティとしての機能を搭載するとともに、自社ブランドや外部の商品を購入できるコマース機能を追加。コンテンツを読んで終わりではなく、ユーザーの行動や商品購入までつなげる狙いだ。

すでにペット向けのサプリメント「SUPPY」の開発に着手していて、2017年11月にはクラウドファンディングを通じて約140万円を集めた。2018年1月から国内と東南アジアで一般販売を開始する予定で、今後はサプリに加えてフードやおもちゃなどの開発も検討していくという。

OMUSUBIでもレコメンド機能の開発や団体管理ツールの開発に加えて、保護犬猫だけでなく優良なブリーダーと飼い主をマッチングすることにも取り組む。ブリーダーとのマッチングについては仲介手数料をとることも検討する。

同サービスについてはエウレカ共同創業者の西川氏の存在も大きいそう。エウレカはマッチングサービスの「Pairs」を提供しているが、そこで培った知見も生かしていくことで成長を見込む。

シロップが掲げるペットライフ・プラットフォーム構想

シロップが今後見据えているのは、既存サービスを通じて蓄積されたデータをもとに、個々の犬猫に最適な情報や商品を提供するペットライフ・プラットフォーム「PETOKOTO」の展開だ。OMUSUBIでペットを迎え、ペトことを通じて飼育するといったように、飼い主がペットを迎えてから飼い終わるまでをサポートするプラットフォームを目指していく。

その上でカギを握るのが「オーダーメイドに近い情報や商品を提供すること」であり、そのための基盤となるデータの蓄積だ。

「この業界で起業してから約3年かかって、飼い主にとって必要な情報は属性によって異なることがわかってきた。たとえばトイプードルがかかりやすい病気があるように、犬種などによっても欲しい情報は変わる。年齢やペットの状況、飼い主の生活環境なども加味すると、オーダーメイドに近いレコメンドサービスが必要になる」(大久保氏)

今後の展望としてはまずペトことやOMUSUBIを通じて会員のデータを蓄積していく。ある程度データが溜まった段階で、そのデータを活用して個々に最適化された情報や商品を提供するというのが次のステップだ。コマース事業を本格化するのもこのタイミングになるという。そしてその先には獣医療の改革などペットヘルスケア領域でも事業を展開する。

写真右は株主でもある獣医師の佐藤貴紀氏

大久保氏の話では、獣医療の需要が増えている一方で供給が不足しているのが現状。ひとりの獣医師が幅広い専門領域のニーズに応えるのは難しいことに加え、動物病院の7割が獣医師ひとりで経営しているそう。たとえばAIを活用した画像解析やIoTプラットフォームなど、獣医の負担を減らすサービスにも取り組む方針だ。

海外ではBARKのようにメディアやマッチングプラットフォームで集客をしてコマースで売り上げを作っているペットテックスタートアップもあるが、日本ではまだまだ開拓の余地が残されている領域。ペットヘルスケアとなるとなおさらだ。

「この業界は課題も山積み。事業をきちんと伸ばしながらも発生する売り上げの一部をOMUSUBIの登録団体に寄付するなど、まずは保護犬猫というところからペット産業全体を健全化し、業界を盛り上げるチャレンジをしていきたい」(大久保氏)

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TechCrunch Japan

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