東工大発バイオインフォマティクススタートアップのdigzymeが3000万円を調達

コンピュータを用いた酵素探索技術によって有用化合物のバイオ生産を後押しするdigzymeは5月29日、ANRIやReBoostなどを引受先とする第三者割当増資により総額約3000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

digzymeは昨年8月に当時東京工業大学の博士課程3年生だった渡来直生氏(代表取締役CEO)が立ち上げたバイオインフォマティクス領域の大学発スタートアップだ。バイオインフォマティクスとは生命科学で得られた情報をコンピュータを使って解析していく分野を指すが、同社ではその中でも酵素の遺伝子を探索する技術を開発してきた。

渡来氏によると酵素とはある物質を別の物資に変換する能力を持つ分子のこと。酵素は遺伝子から作られているためその情報が変われば別の機能を持つ酵素を作ることができ、実際に自然界の中にはたくさんの酵素が存在している。

ただ酵素遺伝子は1200万種類以上あると推定されている一方で、既知の酵素触媒機構は1000程度、反応化合物は1万程度であり、すべての酵素遺伝子のうち正しく機能分類されているものはほんの10%程度にしか過ぎないそう。未知の酵素の中から目的に合うものを地道に実験的に確認していくのはコストの観点でも困難なため、そこにITを活用する余地が大きいという。

digzymeでは化学反応を扱うCheminformaticsと遺伝情報を扱うGenomicsを組み合わせることで「未知の遺伝子群から目的の酵素遺伝子を掘り当てる技術」を開発。その技術を軸にバイオ生産に取り組む化学メーカーや製薬メーカーをサポートする。

バイオ生産の特徴は、有機化学生産や直接抽出法といった他の有用化合物の生産方法に比べて安全安価であること。その反面、反応柔軟性の低さや開発コストの高さが課題となってきた。要は「1回できてしまえば合成コストや環境負荷を抑えられメリットが大きいが、作るまでが難しい」(渡来氏)そうで、digzymeのチャレンジはそのギャップをコンピュータによる酵素探索技術で埋めていくことだ。

現在は複数の大手企業と有用化合物生産に向けた共同研究を始めている段階。まずは受託事業からのスタートとなるが、ゆくゆくは化学メーカーと協業して自ら新しい成分を作っていくところまで取り組む計画だ。

digzymeでは今回調達した資金を活用して組織体制を強化し、プロダクト開発や協力企業の開拓を進める。今後は自社のコア技術の一部を「digzyme Moonlight Cloud」として無料提供する予定で、ユーザーが検索フォームに任意のターゲット化合物を入力すれば、原料候補の化合物との間を結ぶ推定反応経路が得られる仕組みを作っていくという。

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TechCrunch Japan

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