次世代を担う動画プラットフォームの5原則

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【編集部注】本記事はMichael SegalEthan Kurzweilによって共同執筆された。Michael Segalは、Bessemer Venture Partnersのシニア・アソシエイトとして、コンシューマービデオやSaaS、EC業界のアーリーステージにある企業への投資を行っている。さらに彼はこれまで、Skylight FrameやCurio Roadなどのコンシューマー製品を扱うスタートアップを共同設立してきた。もう一人の執筆者であるEthan Kurzweilは、Bessemer Venture Partnersのパートナーを務め、動画やコンシューマーテクノロジー、ディベロッパー向けプラットフォームへの投資を行っている。

動画がインターネットを支配しようとしている。現在インターネットトラフィックの約75%が動画に費やされており、アメリカ人は毎日1時間以上(2011年と比べると3倍以上)オンライン動画を視聴している。

YouTubeやNetflixといった大手プラットフォームがトラフィックの大部分を占めているが、そのほかにもたくさんの新しいプレイヤーが、オンライン動画の世界でチャンスを掴もうと競いあっている。Snapchat、Instagram、Facebookはこれまで写真中心のプラットフォームだったが、現在熱心に動画コンテンツを増やそうとしているほか、TwitchMusical.lyといった新しいタイプの動画プラットフォームが急激な成長を見せている。

私たちは投資家として、常に将来のチャンスに繋がるようなトレンドを探し求めている。動画コンテンツの需要が増加する中で、BessemerもTwitch、SmulePeriscopeといった素晴らしい企業に投資してきた。動画業界が成長し続ける限り、私たちも投資を続けていくつもりだ。そして次のチャンスがどこに転がっているか理解する上で、ある問いが浮かんでくる。斬新な動画プラットフォームに共通している原則とは一体何なのだろうか?

最近私たちは、この問い(その他の問いも併せて)の答えをみつけるに、オンライン動画界のリーダーが一堂に会する、Spotlight: Videoというイベントを開催した。そして彼らの見解や、新進気鋭の動画スタートアップとの会話を通じて、私たちはこの業界で成功する上で大切な5つの原則を割り出した。

このようなリストはどう頑張っても包括的にはなりえないし、どのルールにも例外はある一方で、動画というメディアの未来に関する議論に、私たちが貢献できることを嬉しく思っている。

もしもビジネスモデルがユーザー生成コンテンツ(UGC)に依存しているなら、動画作成は数分ではなく数秒で完了できるようにする

各スタートアップは、それぞれの方法で人を引き付け、何百万人もの消費者が動画を作って共有するようなプラットフォームを立ち上げようとしている。しかしそのほとんどは、たったひとつの理由で目標に到達できないでいる。その理由とは、人目を引くようなコンテンツを短時間で作るのは、とてつもなく難しいということだ。

たとえクリエイティブな表現ができるように膨大な数の機能が備わっていたとしても、平均的なユーザーが面白い動画を30秒以内(理想的にはもっと短時間)に作れないとすれば、そのプラットフォームは全く利用されない可能性が高い。何万種類におよぶアプリが消費者の注意をひこうと競い合う中、”タイムトゥーバリュー”(例:素晴らしいモノを生み出すのに必要な時間)を減らすことが何より重要なのだ。

例えばSnapchatであれば、簡単に録画・編集ができ、フィルターやメッセージを追加すれば、数秒と数タップで複雑なコンテンツをつくりだすことができる。以下の、DJ Khaledが海で迷ったときの動画がその好例だ。


Source: DJ Khaled/Snapchat

動画制作者は人目を気にしている

良いプラットフォームは、社会的な圧力を最小化して、動画制作のハードルを下げている。動画制作とはストレスのかかる困難なプロセスなのだ。そして誰もつまらない動画や恥ずかしい動画を作ろうとは思っていない。

TwitchやMusical.lyは上手く動画制作のハードルを下げている。ユーザーが尻込みしてしまうような黒い動画キャンバスの代わりに、彼らはユーザーに「好きなゲームで遊んでいる様子を録画してみよう」もしくは「好きな曲を口パクで歌ってみよう」といったシンプルなお題を与え、楽しくて共有しやすいコンテンツを簡単に作れるような環境を提供しているのだ。成功している動画プラットフォームは全て、人の目が気にならないような対策を立てている。

さらに、フィルターやステッカー、マスクといった楽しい機能を盛り込むことで、面白いコンテンツが簡単に作れるようになっている。他にも、撮影後に仕上げる必要のない”瞬間的”なコンテンツをやりとりするプラットフォームも存在する。

via GIPHY / Giphy Credit: Jimmy Fallon fallontonight.tumblr.com

全てのプラットフォームがUGCで成り立っているわけではない

もしもあなたのビジネスモデルが、パワークリエイター(動画制作に真剣に取り組んでいるユーザー)から成り立っているなら、彼らのためのプラットフォームを構築しなければいけない。前述の2原則はUGCプラットフォーム向けのもので、UGCモデルが成功するには、膨大な数のユーザーがコンテンツを制作し共有していることが前提となる。しかし全てのプラットフォームがこのモデルを採用しているわけではない。中には、少数のパワークリエイターが時間と労力をかけて作り上げたコンテンツを、残りのユーザーが視聴して楽しむという形式のプラットフォームも存在する。

パワークリエイターを中心に据えたプラットフォームを構築するための第一歩が、その目的を認識するということだ。もしもこのようなプラットフォームがUGCに手を出そうとしても、普通の消費者がプラットフォームを使いこなせず失敗に終わる可能性がある。

その次に、プラットフォームの立ち上げ時から、パワークリエイター集めに注力することも重要だ。そのためには、パワークリエイターが大規模なファン層を築き、管理し、ファンと交流できるような環境を与え、実際に彼らがそうするように促していかなければならない。著名なクリエイターは自分の好きなプラットフォームを選ぶことができる上、彼らはどのプラットフォームに力を入れるかということをよく考えている。そのため、新しいプラットフォームはこれまでにない方法で既存のファン層を取り込み、クリエイターがファンと直接交流できるような機会を与え、さらには新しいファンを獲得できるような環境を提供しなければならない。このような要素がなければ、大物クリエイターはわざわざリスクをとって、新しいプラットフォームを試そうとは思わないだろうし、彼らのコンテンツ無しではそのプラットフォームが成功をおさめることもないだろう。

その好例がVineだった。まず6秒間の動画を面白くするのはとても難しい。しかし、中には1600万人以上のフォロワーを持つKing Bachのようにそれをやってのけてしまう人も存在し、Vineはとても上手く、彼のようなパワークリエイターをプラットフォーム上に呼び込むことが出来た。

Video credit: King Bach, “The Blind Hitman” with Christian DelGrosso , Logan Paul and George Janko

水漏れしているバケツに水を足さない

新しいユーザーの獲得を目指す前に、ユーザーを留めておけるようなプラットフォームを構築しなければならない。上手く出来たバイラルな仕組みを利用して、一時的にはトラフィックが爆発的に増加するが、その数週間・数ヶ月後には、トラフィックが元通りまたは以前よりも減少するといった動きを見せるプラットフォームを、私たちは投資家としてこれまでにいくつも見てきた。このパターンの問題はシンプルで、彼らはそもそも長期的に見てユーザーを留める力のあるようなプラットフォームを築けておらず、単に成長エンジン(もしくは彼らを成長モードに突入させるようなサプライズの販促手段)のスイッチを入れているだけなのだ。

ユーザーが離れていくこと自体が本質的に悪いわけではない。主要プラットフォームの中には、たくさんの人が試して二度と戻ってこなかったものも存在する。しかし、主要プラットフォームが違うのは、彼らの定着率はすぐに落ち着つくということだ。少なくともユーザーの20%が長期間におよんで毎週もしくは毎月彼らのサービスを利用している一方、”水漏れバケツ”型のプラットフォームは、最初の数ヶ月で定着率が5%以下に落ち込むことが多い。

長期的な定着率への取り組みは、難しいばかりか時間もかかり、永遠に終わることがない。しかし、設立初日から定着率の向上に取り組んでいないプラットフォームは、突然消えてなくなってしまうこともある。彼らは素晴らしい成長率を残し、多額の資金調達さえ成し遂げてしまうかもしれないが、長い期間生きていくことはできないのだ。

Musical.lyが良い例で、同社はリップシンク(口パク)動画のための素晴らしいプラットフォームを作り上げた。もしもMusical.lyがそこで歩みを止めていたとすれば、同社の成功は一瞬だけのものだっただろう。その代わりに彼らは最初から定着率を気にかけ、毎日ユーザーが戻ってくるようにさまざまな機能をリリースすることで、一発屋候補から長く続くプラットフォームへと進化を遂げた。

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A video posted by musical.ly (@musical.ly) on Jul 14, 2016 at 5:31pm PDT

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Video credit: @officialjoshprice on Musical.ly

動画プラットフォームの多くはもともとクリエイター向けのツールだった

長生きするプラットフォームは、短い期間で制作の場からコンテンツを提供する場やソーシャルネットワークへと変化していく。動画プラットフォームには、新しいタイプの動画を制作するための単なるツールとしてスタートするケースがよくある。成功するプラットフォームは、単なるツールではユーザーを定着させるには不十分だと理解し、すぐにこの段階を超えてコンテンツ発見システム、もしくはソーシャルグラフ(ときには両方とも)という新たな機能を担うようになる。

友人やインフルエンサーをフォローしたり、動画を作る気がしないときでも他の人が作った面白いコンテンツを視聴したりできるような仕組みは、ユーザーが動画プラットフォームを毎日、もしくはほぼ毎日利用するようになる上で欠かせない要素だ。

実際にコンテンツを効率的にみつける仕組みや、ソーシャルグラフの要素を新しいプラットフォームに盛り込むのは大変なプロセスだが、それを実現した企業は、インターネット上で最も価値あるプラットフォームの仲間入りを果たせる可能性が高い。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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