正規雇用がなくなり、個人ワーカーが台頭する近い将来の働き方

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編集部記Tad MilbournはTechCrunch Networkのコントリビューターである。彼は、Tiempoの共同ファウンダーでCEOを務めている。

契約による仕事の受発注が新しい働き方の基準となってきている。例えばUberだ。車を共有して移動手段を提供するスタートアップは、16万人の契約ドライバーを抱えているが、従業員はたったの2000名程だ。これは80対1という驚くべき割合だ。契約による仕事の受発注は、なにもUberだけが行っているのではない。HandyEazeLuxeといった企業も個人ワーカーが主体となる「1099エコノミー」に最近加入した。

訳注:1099とは、アメリカの国税庁の個人事業主向けの申請書を指している。

彼らが最も注目を集めているが、オンデマンドサービスを提供する企業だけが、多くの個人ワーカーに業務を委託しているのではない。Microsoftもフルタイムの従業員の3分の2近くの人数の個人ワーカーを抱えている。最もシンプルなビジネス形態である個人事業主でさえ、2003年の2倍、個人に業務を委託している。

雇用者と個人の双方が契約での働き方に魅力を感じる4つのトレンドが起きている。それが既存のフルタイムの雇用形態に対するビジネスと働く人の考え方を変えているのだ。

プラットフォームを選ぶだけで、カスタマーが見つかる

これまで仕事を請け負う人は仕事の紹介を受けたり、最初の顧客や継続的な仕事を獲得したりするのが、非常に困難だった。地域密着型のサービスのプラットフォーム、例えばHomejoyやHandyはそれを一変した。これらのプラットフォームでは、小さなビジネスを運営するためのマーケティング、仕事探し、決済、管理コストの大部分を代わりに負担している。

地域でのサービスを提供する個人は、プラットフォームに参加するだけで、十分な数のカスタマーとつながることができる。Homejoyで清掃を行っている人は「これまでこんなに忙しかったことはありません」と話していた。仕事を受けるには、プラットフォームに自分の空いている日を登録し、その時間に現れ、仕事をすれば良いだけなのだ。

Upworkのようなプラットフォームは、知識労働者にとって同様のギャップを埋める。世界中のどこにいようとワーカーはそこにアクセスすれば、潜在的なカスタマーにつながることができる。代金の回収と報告などの作業はプラットフォームが代行する。ワーカーは、自宅の台所からでもタイの浜辺からでも、得意とする仕事だけに集中することができ、あとの地味なビジネスで発生する作業はプラットフォームが行ってくれる。

ビジネス側にとっても十分な数のワーカーに簡単に仕事を依頼できるのは有益だ。人材に柔軟にアクセスできることで、事業に合わせて人数を多くしたり、少なくしたりとスムーズに対応できる。社内の限られた中で調整することから、組織の境界が曖昧になり、相応しい人材を必要な時に集め、プロジェクトを遂行することができるようになってきている。

映画の撮影のようだ。監督は、一本の映画を製作するのに必要な人材を招集する。キャスト、照明、音響、その他のスタッフを集めるのだ。彼らは一つのプロジェクトのために集まり、その仕事に集中し、完了すれば解散する。伝統的な格式張った組織図を持つ企業とは全く異なる手法だが、この方法も高い効果を発揮する。

価値観の変化

現在、労働市場に参入する人の多くは、仕事の柔軟さと自主性に価値を置いている。彼らはキャリアより働く場所を重要視し、昇進よりジョブローテーションを希望する。労働統計局の調査では、平均55歳の人は10年同じ仕事を続けるのに対し、一般的な25歳は3年に留まると示している。若い世代は、昇給より柔軟なスケジュールでの働き方やリモートワークを選択する場合もあるという。企業年金の付いた終身雇用を追い求める考え方は、もうそこにはない。(そして企業年金を提供する企業も今後更に少なくなるだろう。)

このトレンドを認識し、GoogleやFacebookでは、特に若い人材を惹きつけるために、 ジョブローテーションによる個人の成長プラグラム を提供している。LinkedInの共同ファウンダーのReid Hoffmanは、従業員に対して2年間の「任期制度」を取ることを推奨している。期間内に会社にとって価値のあることの達成を促し、次に動きやすくするという内容だ。

ワーカーは自身のスキルと合致して報酬の良い仕事を探すことに集中できる。そして、期間についての考え方も変わってきている。従業員として2年間の任期をほぼ毎日同じような仕事をする代わりに、1ヶ月から半年のプロジェクトを複数の雇用主から請け負うのが標準的な働き方になってきているのだ。

オンデマンド主導のエコノミーでは、これは更に加速する。多くのワーカーは、一週間の内に複数の異なる企業の仕事をするようになっている。多くて10社の仕事を請け負っている例もある。「9時5時」の概念は消えようとしている。

仕事の安定性が損なわれるという欠点もあるが、多くの人は、それと引き換えに得られる柔軟な働き方を望んでいる。

健康保険のセーフティーネット

医療給付を失うことを恐れる人は多い。それには理由がある。健康保険が無い場合のリスクは高いからだ。たった一つの事故が経済的な破滅をもたらすこともある。起業家を志す人が現在の雇用主から離れることを躊躇させる要因になっている。

Affordable Care Act (医療保険制度改革) がそれを変えようとしている。個人で働く人は保険会社を選ぶ国のマーケットプレイスから、保険を申請することができる。健康保険を雇用主に頼らないで済むようになった。「個人で働く人にとってACAはとても良い影響があります。低所得から中所得の人にとっては特にそうです」とEmergent Researchで将来の働き方についての調査を率いているSteve Kingは言う。「多くの人が自立できます。そして健康保険に加入していない個人ワーカーが減ります」と続けた。

個人で働く人を保護する

しかし、全てがバラ色ということでもない。個人ワーカーは、正規雇用者にあるような法的な保護が少ない。彼らは弱く、所得が圧迫されたり、機械の歯車のように扱われたりする危険性もある。

幸い、このような穴を埋めてワーカーを支えようとするサービスがいくつも登場している。 Freelancer’s Unionは、それぞれの個人ワーカーが必要とする保険を提供している。Peers.orgは、ワーカーがどの程度の収入を得られるかをより良く把握するためのコミュニティーだ。 QuickBooks Self-Employedは、経理や税金管理のためのツールを提供している。また世界中に、特定の場所に縛られないデジタルノマドのためのコミュニティーも登場している。それらを簡単に見つけられるTeleportのようなアプリもある。

この急成長するエコシステムは、正規雇用者と個人ワーカーの間にあった「福利厚生のギャップ」を埋めている。既存の雇用形態でなくても必要な保険、コミュニティー、資産管理の助けが得られるなら、当然一つの疑問が浮かぶ。既存の雇用に拘る必要があるのか?

労働市場の将来

テクノロジープラットフォームは、ワーカーが世界中のどこにいようとカスタマーとつながり、仕事を獲得するのを簡単にした。健康保険も購入できるようになった。ワーカーが自分の資産管理を有効的に行うためのコミュニティーやツールもできた。これらの要因により、今から5年後にでも労働市場の40%以上が個人ワーカーで構成されるとの予想が出ている。

多くの個人が選べる仕事を検討した上で、契約で請け負う仕事を選んでいる。それは、もはや自分のビジネスを始めているのとさほど変わらない。彼らにとって、それは「大きなジャンプ」ではなくなった。キャリアの次のステップに過ぎないのだ。

会社組織にとってもこの変化は大きいだろう。究極的に会社は、オーナーと人材を招集する担当者、そしてその他は全て個人の契約ワーカーで構成されるようになるだろう。プラットフォームは、特定のスキルを持ったワーカーの彼らが行ってきたこれまでの仕事と空いている時期などを会社に知らせる。会社組織で人材を探して集める担当者と個人ワーカーがすぐにマッチングされ、必要なチームがボタン一つで採用されるようになるかもしれない。

この影響は計り知れない。この働き方のシフトは、これまで起きたシフトと同じように混乱と痛みを伴うだろう。しかし長期的に考えると、組織と個人ワーカーの双方を支える地盤が整うことで、これまで以上にダイナミックな経済が出現することになるだろう。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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