歩ける範囲のご近所さん限定、地域SNS「マチマチ」がシードで6000万円の資金調達、全国展開開始

スタートアップやネット業界の人なら「ムトベ」という、ちょっと珍しい名前に聞き覚えがある人も多いだろう。六人部生馬氏はメガネECの「オーマイグラス」(Oh My Glasses)の共同創業者で、先日まではCOOだった人物だ。長身で、存在感のある黒縁の眼鏡。その風貌は、いかにも「メガネにコミットしています」という起業家・経営者という印象だと個人的には思っていたのだけど、下の写真にあるように六人部氏(左)はメガネを外して次のチャレンジを始めている。

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マチマチを運営するProper共同創業者でCEOの六人部生馬氏(左)と共同創業者でCTOの藤村大介氏(右)

「オーマイグラスは昨年3月で常任の取締役から非常勤になり、昨年9月で退任しています。引き続き株主として関わっていますが、事業が軌道に乗ってきたので離れた次第です」

また大きな挑戦がしたい、ゼロイチがやりたい――。そんな六人部氏が次に選んだ事業領域は、実はアメリカや中国でも伸びている、ご近所SNSというサービスなのだった。

Quipperエンジニアの藤村大介氏と六人部氏は約半年前にProperを設立。東京の一部地域に限定したサービスを2カ月前から開始していて、今日「ご近所さんと話そう」をコンセプトとする新サービス「マチマチ」の全国展開をアナウンスした。同時にシードラウンドとして6000万円の資金調達を実施たことを明らかにした。出資したのは独立系VCのANRIとBEENEXT、それにエンジェル投資家が数名だ。

住所確認の上で実名登録

マチマチは実名制で登録して、ご近所さん同士で気軽にコミュケーションできるソーシャルサービスだ。現状は、徒歩圏内(半径800メートル程度)と比較的小さな地域単位ごとに、そこに住んでいる人だけが参加できるオンライン・コミュニティーだ。過去2カ月のベータ期間には、東京渋谷区の富ヶ谷1丁目、2丁目、神山町、初台など約10の地域でサービスを展開してきた。今日から対象地域を全国に広げる。全国が使えば数十万という単位のコミュニティーとなる。

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地域のオンライン・コミュニティーを立ち上げるためには、リーダーが必要だ。これは「やりたい」と立候補する形をとっていて、このリーダーが初期メンバーを最低5人集められることがコミュニティースタートの条件。参加は18歳以上で登録時に住所が確認できる免許証や保険証などを郵送でやり取りすることで、スパムや不正利用を防ぐ。こうしたサービスではマルチ商法の営業が紛れ込みがちなので、通報機能や不正検知など取り入れることで安全、安心にフォーカスしていくという。

想定しているコミュニティーは1つあたり数十人から多くて200人程度。まだここは今後の推移をみないと分からないものの「300人とか400人は多すぎるのでは」(六人部氏)と考えているそう。

で、何のために繋がるのか?

町のお店やイベント情報、防犯・防災情報などをお互いに共有して、毎日の生活をより楽しく、より豊かにするためだそうだ。例えば「近くに良い病院ないですか?」とか「ペットが迷子になって探しています!」とか気軽に聞けるということだ。

「近所の人々とのつながりで地域の課題を解決するということをミッションにサービスを立ち上げました。少子高齢化や過疎化など日本社会には多くの課題があります。ところが地域をみてみると頼れる『縁』がなくなっています。都市化が進んで地縁や血縁が薄れてきている。そんな仮説からスタートしています。ちょうど良い距離感の近所のつながりが求められているのではないか、ということです」

「顔見知りが増えたら、防犯にもなりますよね。あと『あのあたりが危ないという情報を共有したい』と思っていても、そういう情報をどこに持って行っていいのか分からないということってありますよね」

すでにベータ版を開始している地域では、サービスを通して知った地元のお店にユーザーが訪れるといった例も発生している。また、町会が開催したお花見をマチマチ上で知ったユーザーが参加するなどの動きも出ているそうだ。

米国や中国には先行の大きなサービスも

実はマチマチにはベンチマークしている海外の類似サービスがいくつかあるそうだ。

2010年にスタートした米国のNexdoorは、すでに2億1000万ドル(約230億円)もの資金を調達している。面白いのはNextdoorでは当初、「コヨーテが出た」など防犯や安全のための投稿が中心だったものが、今はそうした防犯系の投稿の比率は20%にまで落ちてきていて、今は店舗・サービスの推薦情報が26%を占めるようになっていること。推薦情報がマネタイズポイントになりつつある、と六人部氏は見ているという(Nextdoorはユーザー数など非公開)。

このほかイギリスにはユーザー数が100万人規模のStreelife.comが、オーストリアにはFragNebenanが、そして中国には考拉先生というサービスなどがあるそうだ。

国内でも、マンション向けのオンラインコミュニティーや、ヤフーロコ、ロココムなど地域限定オンラインサービスというのはある(ロココムは2015年にサービス終了)。ただ、六人部氏の見立てでは、どこも大きくは成功していない。それは先行サービスの多くが、店舗クーポンや広告事業、チラシ配布など、住民同士の交流よりも先にマネタイズから入りすぎていたからではないか、ということだ。そうしたこともあって、マチマチでは商業アカウントは当面は提供しない。むしろ行政アカウントを求める自治体などと話を進めている段階だという。「自治体の多くが町会への参加率低下のこともあって住民に情報が届けづらくなっています。有事のときに防災で担い手がなくなって困っています。例えば地元避難所のカギを持ってるのが高齢の方で、地震などの有事の際に防災機能を発揮することができるか懸念されていることもあるんです」(六人部氏)。自治体や商業施設のほかにも、電鉄や不動産デベロッパー系から「沿線を盛り上げたい」というような引き合いもあるそうだ。

すでに書いたようにコミュニティー立ち上げには地域のリーダー的存在(呼び方はまだ決まっていないらしい)が必要だけど、われこそはという人は5人の仲間を誘ってマチマチに登録してみよう。そうそう、もう1つ。マチマチでは学生インターンを募集しているそうだ。

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TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。