水中でゲルが膨らむ速度の温度による変化の法則を東京大学が解明、アインシュタインによるブラウン運動の理論が糸口に

水中でゲルが膨らむ速度の温度による変化の法則を東京大学が解明、アインシュタインによるブラウン運動の理論が糸口に

東京大学は11月30日、乾燥ワカメや紙おむつの吸水材などのゲルが吸水して膨らむ速度の温度による変化を決める物理法則を、世界で初めて解明したことを発表した。この発見には、アインシュタインが提案したブラウン運動の理論が糸口になった。

大量の水を含むことができる固形物であるゲルは、長いひも状の高分子(ポリマー)のネットワークでできている。乾燥ワカメやゼリーなどの食品のほか、紙おむつの吸水材や、ソフトコンタクトレンズなどの医療分野にも広く使われている。また光や温度によって水を出し入れして縮んだり膨らんだりできるゲルもあり、それらはバイオセンサーや薬物送達キャリアーなどに利用されている。そのため、ゲルが膨らむ速度を決める物理法則の研究がこれまでも多く行われてきたが、温度による速度の変化に関しては、影響し合う要素が多く、それぞれが異なる温度変化をするなどの問題のために解明されていなかった。

東京大学大学院工学系研究科の酒井崇匡教授らからなる研究グループは、様々なネットワークを持つゲルの膨らむ速度の温度変化を「世界最高水準の精度」で測定し、明確な物理法則を解明した。水中でゲルが膨らむ速度の温度による変化の法則を東京大学が解明、アインシュタインによるブラウン運動の理論が糸口に

水中でゲルが膨らむ速度の温度による変化の法則を東京大学が解明、アインシュタインによるブラウン運動の理論が糸口に

ゲルの弾性率(固さ)とゲルの拡散係数(膨らむ速度)の温度変化の類似性。異なる高分子ネットワークを持つ4種類のゲルの結果となっている(各シンボルが測定データを表し、直線はデータを直線で近似したもの)。左図:ゲルの弾性率の温度変化を直線で近似すると、「温度軸上の1点で交わる」という性質がある。このとき、温度ゼロの切片が「負のエネルギー弾性」の大きさを表す。右図:ゲルの拡散係数(黒丸)の温度変化を直線で近似すると、「1点で交わる」が、温度軸上ではない。拡散係数を浸透圧に由来する成分(赤丸)と弾性率に由来する成分(青四角)に分離すると、弾性率に由来する成分は「温度軸上の1点で交わる」。つまり、弾性率に由来する成分は、負のエネルギー弾性と形式的に同一の法則に従う。ただし、拡散係数には水の粘度が大きな影響を及ぼすために、1点で交わる温度は、両者で大きく異なる

しかし、測定だけでわかったわけではない。解明の糸口となったのは、水中の微粒子の不規則な熱運動としてアインシュタインが提案したブラウン運動だった。ゲルの吸水も、高分子ネットワークの不規則な熱運動によって起こる。そこでアインシュタインの数式から着想を得て、実験結果を解析したところ、先に同研究グループがゲルの弾性率に関する定説を覆して提案した「負のエネルギー弾性」と形式的に同一なシンプルな法則が見出された。それは、「主として水の粘度の温度変化に由来する新しい非平衡系の法則」だという。

今回の研究により、ゲルの膨らむ速度の温度変化は「従来の想定よりもかなり大きい」ことが実証された。ゲルは食品や医療の分野で様々な温度で利用されるため、この法則の発見は、ゲルが利用されるすべての産業分野で大きく貢献することが期待される。

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TechCrunch Japan

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