消防隊がARヘッドセットで火災現場の作業状況を共有するQwake Technologiesのシステム

新技術の構築が難しい分野の中でも、消防は特に困難なものの1つだ。煙と熱はすぐに機器を損傷し、火災による障害はあらゆる種類の無線通信を妨害し、ソフトウェアを使用不可能にする。技術的観点からに見て、火災への対応方法を大きく変えたテクノロジーはほとんどない。

サンフランシスコ拠点のスタートアップQwake Technologies(クウェイク・テクノロジーズ)は、拡張現実(AR)ヘッドセットのC-THRUを使って消火活動をアップグレードしようとしている。消防士が着用するそのデバイスは、周囲をスキャンして得られた重要な環境データをクラウドにアップロードすることで、全消防隊員が現場の作業状況を共有できる。ゴールは、状況認識を改善して消防隊員の作業効率を高め、かつ負傷者や犠牲者を最小限にすることだ。

2015年に設立された同社は、今週約550万ドル(約6億円)の資金調達を終えたばかりだ。CEOのSam Cossman(サム・コスマン)氏は筆頭出資者の名前を明らかにせず、条件規定書の機密条項が理由だと述べた。同氏はその戦略的投資家が上場企業であり、Qwakeが初めての投資先であると説明した。

(通常私はこの種の詳細情報が不明な資金調達案件は無視するのだが、最近DisasterTech(ディザスターテック / 災害テクノロジー)で頭がいっぱいの私としては書かないわけにいかない)

関連記事
テクノロジーと災害対応の未来1「世界で最も悲惨な緊急事態管理関連の販売サイクル」
テクノロジーと災害対応の未来2「データとAI」

Qwakeは最近大型の政府契約を勝ち取り、2021年後半に製品展開の拡大を目指している。2020年同社は国土安全保障省と140万ドル(約1億5000万円)の契約を締結し、4月にはRSA社とともに米国空軍と提携を結んだ。さらに同社は少額のエンジェル資金を調達した他、Verizon(ベライゾン)の5G First Responder Lab(初期対応者研究プロジェクト)に初期コホートとして参加している(情報開示:TechCrunchは「まだ」Verizonが所有している)。

Qwakeを、John Long(ジョン・ロング)氏、Omer Haciomroglu(オマー・ハショムログル)氏とともに創業したコスマン氏は「火」、その中でも火山に関心を持っている。同氏は長年、探検映像作家・イノベーターとして、カルデラを探索し、視聴者と人道的対応と科学のギャップを橋渡ししようとしてきた。

「これまで私は、地球化学と火山に焦点を当てて数多く活動してきました」と彼は言った。「多くのプロジェクトが火山噴火の予測に焦点を当てたもので、センサーネットワークや自然界のさまざまな現象に注目することで、火山の脅威にさらされている地域住民の安全を守ることに役立てています」。

ニカラグアのあるプロジェクトで、彼のチームは活火山の煙の中で突然道に迷った。そこでは「厚くて濃厚な超高熱火山ガスが私たちの正しい移動を妨げていました」とコスマン氏は言った。そんな状況の中での移動を支援するテクノロジーを作りたかった同氏は、自社製品を消防隊員に利用してもらう方法を考えた。そして「『この人たちは、厳しい環境の中で何が見えるか、どうやって早く決断を下すのかをわかっている』ということを知りました」。

彼は落胆したが、同時に新たなビジョンを手に入れた。そのテクノロジーを自分で作ることだ。そうやってQwakeは生まれた。「私は誰よりも、間違いなく消費者よりもこれを必要としている人たちが手に入れる手段をもたないことに怒りを覚えました。それはまったく可能なことなのにです」と彼は言った。「しかし、それはSFの中だけで語られていたことだったので、私はこれを現実にするために過去6年間を捧げてきました」。

この種のプロダクトを作るには、ハードウェアエンジニアリングから神経科学、消火、プロダクトデザインなどさまざまな能力が必要だ。「まずこのプロトイプを作っていじることから始めました。すると消防コミュニティから非常に興味深い反響があったのです」とコスマン氏は言った。

Qwakeは消防士がヘルメットに装着して周囲のデータを集めるIoT製品を提供している(画像クレジット:Qwake Technologies)

当時Qwakeは消防士を誰も知らなかったので、ファウンダーたちが顧客訪問を行ったところ、センサーとカメラは初期対応者が本当に必要なものではないことがわかった。代わりに、欲しかったのは現場作業の透明性だった。入力データを増やすだけでなく、すべてのノイズを集め、合成し、現場で今起きていることや次に何をするべきかの正確な情報を彼らに伝えるシステムだ。

最終的に、Qwakeは完全のソリューションを作り上げた。消防士のヘルメットに装着するIoTデバイスと、入ってくるセンサーデータを処理してチーム全員から同時にやって来る情報を同期するタブレットベースのアプリケーションからなるシステムだ。そしてクラウドがすべてを結びつける。

これまでにカリフォルニア州メンロパークとマサチューセッツ州ボストンの消防署がモデルケースになっている。新たな資金を得て、チームはプロトタイプの段階を進め、2021年中の一般公開に向けてスケール可能な製造の準備をして販売領域を広げるつもりだ。

関連記事
テクノロジーと災害対応の未来3「接続性、地球が滅びてもインターネットは不滅」
テクノロジーと災害対応の未来4「トレーニング・メンタルヘルス・クラウドソーシング、人を中心に考えた災害対応スタートアップ」

カテゴリー:EnviroTech
タグ:Qwake Technologies火災拡張現実気候テック資金調達

画像クレジット:Qwake Technologies

原文へ

(文:Danny Crichton、翻訳:Nob Takahashi / facebook

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。