独立系VCのANRIが総額60億円規模の新ファンド、シードステージとハイテク領域に注力

ANRIパートナーの佐俣アンリ氏(左)と鮫島昌弘氏(右)

YouTuberの支援やマネジメントを手がけるUUUMが8月30日に東証マザーズ市場に上場し、買い注文殺到で取引が成立せずに初日を終えたことが話題になったが、そんなUUUMにもシード期(創業期)から出資しているのが独立系ベンチャーキャピタルのANRIだ。そのANRIが第3号となる総額60億円規模のファンドを立ち上げる。

新ファンドの名称は「ANRI 3号投資事業有限責任組合」。LP(Limited Partner)としてミクシィやグリー、アドウェイズ、VOYAGE GROUP(いずれも2号までに出資している)、ヤフーといったネット企業に加えて、中小機構、みずほ銀行、西武信用金庫などが出資。現時点で約50億円を集めており、最終的に60億円規模までファンドを拡大する予定だ。すでに3号ファンドからの投資もスタートしており、これまで14社に対して投資を完了している。

シードステージのスタートアップに注力

UUUMのほかにも、クラウドワークスやペロリ、コネヒト、コインチェック(当時の社名はレジュプレス)、U-NOTEといったイグジット済み企業のほか、ラクスル、コイニー、スマートドライブ、CLUE、ハコスコなどに対してシードステージから投資を行ってきたANRI。新ファンドでも引き続き、シード、アーリーステージのスタートアップに対する投資に注力するという。

「60億円もあればミドル、レイターステージの投資もやると思われるが、あくまでシードに特化する。シードマネーというのはまだまだ足りない。歯を食いしばって投資をしているシードVCというのは少ない」(ANRIパートナーの佐俣アンリ氏)。大規模な独立系VCやCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)、大学系VCなどがこの数年で立ち上がってスタートアップに流れる資金は全体としては増加しているが、その一方でイグジットまで時間がかかり、成功確率で言えば低くなるシードステージの投資についてはより一層の資金が必要だと語る。

シード投資とは言え、投資額については最大5億円(フォロー投資含む)までを想定しているという。「『シード投資は500万円』と誰が決めたわけでもない。たとえばイグジットした起業家がもう一度起業にチャレンジしたいとなった時などには、『1億円投資する』と言えるようにしたい」(佐俣氏)

本郷に拠点、ハイテク領域の支援も

またシード投資とあわせて強調するのが、大学や学術機関発のハイテク系スタートアップへの投資だ。元UTEC(東京大学エッジキャピタル)で、自身も東京大学の大学院で電波天文学を修めた研究畑出身の鮫島昌弘氏が昨年からパートナーとしてファンドに参画。これまで拠点としていた東京・渋谷に加えて、東京大学のある本郷にも拠点を立ち上げて、大学発のハイテクスタートアップへの投資やインキュベーションを進めている。今後は20代を対象としたアソシエイトの採用も検討しているという。

「Y Combinatorも数年前からバイオ領域への投資を進めているが、最近では日本でも宇宙やバイオといった領域での投資を進めているファンドがある。米国ではハイテクノロジーとインターネットが結びついてきている。日本では今までこれが分断されていたが、いよいよ(結びつく時期が)来る」(佐俣氏)

「ハイテク領域にもまだまだシードマネーが足りない。それはPOC(Proof of Concept:概念の実証)を越えるまでの研究は、あくまで公的な研究費などで行っていたから。『ここから1000万円あれば(実用化まで)いけるのに……』という事例は多い」(鮫島氏)

とはいえウェブサービスなどとは違い、ハイテク領域はピボットが難しい領域。倒産率だって高くなる。これについてはANRIでも想定しており、「基本的には死屍累々の領域。(リスクをとって)挑戦するための投資をしていくことをファンドの設計に組み込んでいる」(佐俣氏)としている。

さらに弁護士や弁理士、クラウド会計サービスなどと連携。シード期では社内に持ちにくいバックオフィス機能や法務などを支援していくほか、投資家が起業家予備軍の人材に対してビジネスプランを提案するインキュベーションプロジェクトなども展開する予定だとしている。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。