独立系VCのANRIに元ITVの河野氏が参画、シードからレイターまで起業家の挑戦に長く寄り添うVCへ

左からANRIの佐俣アンリ氏、河野純一郎氏、鮫島昌弘氏

「伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(ITV)の河野純一郎氏」と言えば、スタートアップ界隈では名の知れたベンチャーキャピタリストの1人だろう。

一部では“男気投資”“黒豹”とも言われるように、迫力のある風貌と投資先への熱いフォローが特徴の同氏は2008年からITVに在籍し、約11年間で累計28社へ50億円を超える投資を行ってきた。

その前に在籍していたジャフコ時代も含めるとVC歴は約17年。そんなベテランキャピタリストが新たな環境で次のチャレンジを始めるようだ。

独⽴系VCのANRIは6月19日、河野氏がGP(ジェネラルパートナー)として参画したことを明らかにした。今後は佐俣アンリ氏、鮫島昌弘氏に河野氏を加えた3名のGP体制となり、シードステージからレイターステージまで、起業家の挑戦を長期にわたって支援できる体制を整えていく計画だという。

1番“挑戦的な挑戦”をしているファンドだと思った

河野氏は2002年に入社したジャフコでベンチャーキャピタリストとしてのキャリアをスタート。その後2008年にITVへと活動の場を移し、数々のスタートアップを支えてきた人物だ。主な投資先はクラウドワークス、Fringe81、ラクスル、メルカリ、フロムスクラッチ、ミラティブ、ヤプリなど。複数のIPOやエグジットにも関わってきた。

「11年在籍したITVではさまざまなチャレンジをさせてもらった」と話す一方で、時にはファンドサイズや投資ポリシーの関係もあり悔しい思いをすることもあったようだ。

「近年スタートアップエコシステムが大きく発展する中で、未上場企業のファイナンス規模も拡大して状況が以前とは変わってきた。もっと大きい金額を迅速かつ、継続的に出資することで一貫した姿勢で起業家を長く支援できる。またそうすることで起業家の大きな勝負になるべく長く付き合っていきたいという思いはあった」(河野氏)

前職のITV、そして参画先のANRIが新たなファンドの組成に向けて動き出す時期だったこともあり、今回のタイミングで新しいチャレンジをするべく移籍を決断したという河野氏。独立や他のVCという選択肢も考えたそうだが、最終的には「挑戦というキーワードで考えた時に、1番“挑戦的な挑戦”をしているファンドだと思った」ことが大きな理由になったという。

「構想しているファンドのサイズや方針ももちろん、『挑戦している起業家を応援する立場として、自分たちが最も挑戦している存在でなければダメ』というアンリさんの考え方にも共感した。自分も40歳にして、11年いたITVを離れて次の一歩を踏み出す中で、安パイを取るようなことはしたくない」

「加えて様々なスタートアップを応援する立場から、ビジョンに仲間が集い、チームの結束力が高まって1人では成し得ない難しいことをやっていく様子を何度も目にしてきた。自分の中で『独立すること』が目的化していたことに気づいてからは、独立にこだわるのではなく自分1人ではできない大きなことをやりたいという思いが強くなり、最終的にこのチームで挑戦したいという結論に至った」(河野氏)

現状のままでは、起業家の成長に追いついていけない

ANRIはこれまで何度か紹介している通り、主にシードステージに重点を置いている独立系のVCで、1〜3号ファンド累計で約100億円を投資してきた。河野氏とはschooを始め4社を共同で支援していたこともあり、お互いに対して良い印象は持っていたようだ。

とはいえ当初は一緒にやることをあまり想定しておらず、河野氏は「ファンドサイズを拡大したりGPを増やす予定はないのだと思っていた」と話し、佐俣氏も「当初は独立を勧めていた」という。

「1つの転機となったのは、昨年の夏に鮫島とこれからのファンドの構想について話したこと。そこで鮫島から『めちゃくちゃ難易度は高いけれど、ファンドサイズや組織の強さなどに関して、日本のトップクラスのVCを目指したい』という話が出た。本気でそれを目指すなら河野さんを誘うに足るなと考え、構想をぶつけた」(佐俣氏)

佐俣氏や鮫島氏らがそのような話をするに至った背景には、近年スタートアップ界隈で起業家のレベルや資金調達環境に大きな変化が起こっていることもあるという。

「起業家の挑戦を応援するためには自分たちもレベルアップしなければならないが、正直今の状態でレベルアップするだけでは起業家の成長に追いつかないと思っていた。だから自分たちにはない視座を持つ河野さんにジョインしてもらって、より上のレベルのファンドを作る必要がある」(佐俣氏)

ANRIがスタートした2012年頃といえば、数億円規模の調達といえばちょっとしたビッグニュースだった。僕自身、個人的に河野氏と佐俣氏に初めて会ったのは2013年だったけれど、3億円や5億円の調達ニュースを見て「大きめのリリースがありましたね」と話していた記憶がある。

ところが現在は数億規模の調達はもちろん、二桁億円の調達ももはや珍しくはない状況だ。プレイヤーの顔ぶれを見ても一度エグジットを経験したシリアルアントレプレナーや豊富な知見をもつエンジェル投資家が増え、スタートアップに流れる資金だけでなく、ノウハウや人材のレベルも上がってきている。

「資金で言えば感覚的には10倍くらいに上がっているし、起業家にとっても事業を成長させることを考えると、『(特に初期の段階では)わざわざVCに頼らなくてもシリアルだけ、エンジェルだけでやれば良い』という状況にもなり得る。単に同じことだけをやっていては起業家の方がはるかに成長が早く、置いていかれるという感覚がある」

「一方でせっかく投資先が成長して大きくなっているのに『(ファンドサイズなどの関係で)ここから先は応援できません』というのも寂しい。金銭的なフォローに限らず、精神面やテクニカルな面も含めてしっかりと応援していけるファンドでありたい」(佐俣氏)

そんなある種の“危機感”やファンドとして目指す方向性がお互いに一致したこともあり、河野氏も加わった新たな体制で次の挑戦を始めることに決めたそう。

現段階で具体的な話はできないとのことだが、すでに次のファンドに向けて動き出していて、60億円規模の3号ファンドを上回るサイズになる計画。インターネット領域や大学発のハイテク領域のスタートアップをシードステージからレイターステージまで、長期に渡って支援する体制を作るという。

今後はシリーズAからの出資も計画

河野氏自身は今後ANRIで大きく2つの軸でスタートアップの支援をする予定だ。

1つはANRIがシード投資をしたスタートアップを次のステージに押し上げるための支援。河野氏自身はシリーズAで出資をするケースも多かったため、そこで培ってきた資本政策や事業計画の作り方などのナレッジを投資先にインストールしていく。

ANRIは3号ファンドから鮫島氏を中心に大学発ベンチャーの投資も進めているが、そのスタートアップが直面する課題やその解決策はネット系のスタートアップと共通する部分も多いそう。より多くの大学発ベンチャーが次のステージに移行し事業を大きく伸ばしていく上でも「分野は違えど、河野さんの存在は大きい」(鮫島氏)という。

また2つめとして、純粋なシリーズA投資も行っていく。これは「クラシックなVCとしてITV時代からやっていたこと」であり、河野氏の得意分野。ANRIでもミラティブやWAmazingなど一部ではシード期以降のラウンドから出資をしていたケースはあったが、今後はそういった事例も増えていきそうだ。

「ある意味では“大型新人”の登場。これまで多くの実績を積んできた河野さんが、移籍とともに過去のトラックをおいてゼロスタートで野に放たれたことに、個人的にもワクワクしている」(佐俣氏)

「一度リセットして新たにチャレンジしたいということで、ITVからも『OBとして頑張ってこい』と背中を押してもらっている。主担当がゼロということでちょっとした怖さもあるが、ここから初心に戻って投資先やスタートアップエコシステムに貢献できるような仕事をしていきたい」(河野氏)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。