生まれ変わったiPad mini 第6世代は「いにしえの理想的な電子手帳」を超える存在だった

生まれ変わったiPad mini 第6世代は「いにしえの理想的な電子手帳」を超える存在だったあくまで”個人的に”ではあるが、2021年秋のApple新製品発表会で、最も購買意欲を湧かせてくれたのはiPad miniだった。無論、iPhoneは今回も想像以上にこだわったカメラを搭載しているが、カメラは使いやすさや画質など絶対的な性能に加えて感性領域の評価もあり、必ずしもスペックやプレゼンテーションの内容だけでは結論づけられない部分もある。

しかし第6世代iPad miniは、スマートデバイスを日常的に使う上でそれらの使い方、あるいはiPhoneの買い替えサイクルや製品選びなどをも変える可能性がありそうだ。

例えば近年のスマートフォンは内蔵カメラの画質を訴求してきたが、カメラのアップデートにさほど興味がない、どちらかと言えば動画、電子書籍、ゲームなどを中心に端末を使ってる人にとっては大画面の最新スマートフォンに買い替えるよりも、iPhone SEなどのコンパクトな基本モデルとiPad miniの組み合わせの方が使いやすいかもしれない。

あるいはiPadシリーズをタブレットとして使いつつ、シームレスで相互の行き来ができるMacと組み合わせたいという人もいるだろう。MacBook Airが仕事のために必須だが、移動時や待ち時間にはコンパクトなiPad miniを活用したいなら、両方を持ち歩くというのも悪くはない。

iPad miniの300グラムを切る重量は、大型のスマートフォン2台ぶん程度。これをどう考えるかだが、コロナ禍で変化したライフスタイルの中で、スマートフォン、パソコン、タブレットの関係性、使いどころを考え直す機会になるかもしれない。

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当面は現役で活躍してくれそうなパフォーマンス

電源ボタンにTouch IDを搭載する

電源ボタンにTouch IDを搭載する

第6世代iPad miniのハードウェアとしての概観を、極めて大雑把に説明するならばiPad Airをほぼそのまま小さくしたものだ。パフォーマンスの面ではiPad Proに劣るもののiPad Airよりも強力で、1世代前のA12Zを搭載するiPad ProよりもSoC性能は高い。

12MP広角カメラを備える

12MP広角カメラを備える

搭載されるSoCは最新のiPhone 13シリーズと同じA15 Bionicとなるが、A15 BionicにはGPUが5つのバージョンと4つのバージョンがある。5 GPUバージョンはiPhone 13 ProシリーズとiPad miniに。4 GPUバージョンはiPhone 13(およびmini)に搭載される。

新しいGPUはコア数が増加しただけではなくアーキテクチャや動作クロック周波数も上昇してパフォーマンスが上昇。Neural Engineをはじめとした機械学習処理のアクセラレータも強化されている。このあたりはGeekBench 5とGeekBench ML(機械学習処理のベンチマーク)のスコアを掲載しておくので参考にしていただきたい。

興味深いのは同じ5 GPU版のA15 Bionicでも、iPad miniとiPhone 13 ProではCPUのスコアが違うこと。これはiPad miniではCPUが3GHzで動作しているのに対し、iPhone 13 Proでは3.2GHzで動作しているからだ。

これについてAppleは理由を明らかにしていない。熱の制御なのか、それとも意図しての制限か。しかし、過去の製品の例からすると、おそらくラインナップや価格差などを差別化したものではないだろう。

何らかの理由で、iPad miniではCPUとGPUの性能のうちGPU性能を重視したということなのだと推察されるが、ひとつにはiPad miniをAppleがポータブルゲーム機としても訴求していることと関係しているかもしれない。

現代のSoCは電力をどこに使うかを制御しながら全体のパフォーマンスを形作ることが多いが、iPad miniの場合は(スマートフォンに比べ)十分に高速なCPUパフォーマンスを確保しつつ、画面が大きなiPad miniの画面に見合うGPUパフォーマンスを割り当てたかったではないだろうか。

インターフェースはUSB-C

インターフェースはUSB-C

いずれにしろ、ミニタブレットというジャンルは低価格を意識した製品が大多数で、このモデルのようにパフォーマンスがトップクラスというモデルはない。言い換えればライバルは不在で、当面はパフォーマンス不足を感じずに済むと言える。

高価なミニタブレットと考えるか、最高のMac製品のパートナーと考えるかで評価が分かれる

ところで本機はiPadシリーズとしては初めて、ディスプレイの縦横比が4:3ではない製品となる。そのため縦横比4:3で固定されたアプリを使う場合は少しだけスクリーンが余るのだが、実使用上、気になる場面はほとんどなかった。

今後の話では縦横比が変化しても問題なく動作するアプリが順次増えていくだろう。さらに未来の話をすれば、iPad Proなどにも縦横比が異なる(今回のiPad miniは16:10よりも縦長で3:2よりも横長)サイズの製品が登場する可能性もありそうだ。

そうした従来のiPadシリーズと少し異なる部分はありつつだが、サイズやスピーカー構成の違いを抜きにすれば、前述のとおりiPad miniはiPad Airを小型化した上で最新のSoC搭載で高性能化した製品である。

12.9インチiPad Proと重ねたところ

12.9インチiPad Proと重ねたところ

となると、サイズが小さいとはいえ、約6万円からという価格も納得の設定だ。あらゆる体験がコントロールされた最高峰のタブレットと同等の品質をそのまま電子手帳ライクなフォーマットに落とし込んでいるのだから、大昔の電子手帳大好き世代にはたまらなく夢のある製品だろう。

ただ、ミニタブレットというジャンルに6万円は払いにくいという意見があることも理解はできる。実際のところ、Apple製品の中でも「mini」という名前が付く製品は、iPhoneを含めてかなり苦戦している。スタートダッシュは良いが、一部の小型製品ファンにはウケるものの、長続きしないのが現実。そうした人の目からは”高価なミニタブレット”と映るかもしれない。

しかし、冒頭で言及したようにMacとの連携は極めて良好で、それはiPhoneとの使い分けでも同じだ。Hand Offを使えば、それぞれの作業の続きを別の端末で継続できるし、Macを使っているならば外出先でのiPad miniとの連携は魅力的だと思う。いや、個人的にはそこがこの製品のキモだろうと。生まれ変わったiPad mini 第6世代は「いにしえの理想的な電子手帳」を超える存在だった

これこそがAppleの狙いなのである。業界標準に準拠しつつも、自社製品の間は密にOSレベルで結合していく。高価なミニタブレットと考えるなら、大ヒット商品とはならないかもしれない。しかし、MacやiPhoneのオーナーが併用する端末として価格を考えずに評価するならば、バッテリー持ちが良く閲覧性の高い、そして5Gモデムを持つ端末として面白い位置付けにある製品だと思うのだ。

いにしえの電子手帳を最新の技術で作り直したなら

生まれ変わったiPad mini 第6世代は「いにしえの理想的な電子手帳」を超える存在だった古いAppleのファンならばNewtonという端末を覚えている人も少なくないだろう。Newtonは個人のあらゆる行動をサポートするコンパニオンになるはずだった。ちなみに開発に協力していたシャープは、Newtonと同じOSを導入したGalileoという端末を発売する予定だった。

Newtonとは何かといえば、それは電子手帳の発展版だ。手帳だけにさっと記録し、アイディアを書き留めておき、ほとんど意識しないうちにデータが同期されている。そんなイメージで考えればいいかもしれない。

一方で、iPad miniは全てのiPadアプリとiPhoneアプリが動作する手帳スタイルの高精度なペン入力が可能な端末。ペン入力といってもメモ書きを書くレベルではなく、絵を描くレベルの製品だ。

生まれ変わったiPad mini 第6世代は「いにしえの理想的な電子手帳」を超える存在だったもし、いにしえの電子手帳を最新の技術で作り直したなら──そんな想いがよぎるが、当時想像していた製品はこれほど完成度が高くなかった。本機が必要、欲しい人は、自分自身で判断できていることだろう。

iPad miniは唯一無二の存在だが、その重要性は使い方による。毎日持ち歩く電子ステーショナリーとしてならば買って損はない製品だ。

(本田雅一。Engadget日本版より転載)

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TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。