画期的ドローン開発のエアロネクスト、量産化に向け農業機械メーカーの小橋工業と強力タッグ

独自の重心制御技術「4D Gravity(R)」を搭載するドローン「Next」シリーズを開発しているエアロネクストは2月19日、農業機械メーカーの小橋工業との業務提携を発表した。

写真左から、エアロネクスト代表取締役/CEOの田路圭輔氏、小橋工業代表取締役社長の小橋正次郎氏

エアロネクストは、2018年に開催されたTechCrunch Tokyo 2018の「スタートアップバトル」ファイナリスト。最終選考に残った6社のうちの1社だ。そのほか、同年10月に開催されたB Dash Campの「PITCH ARENA」、12月に開催されたInfinity Ventures Summit 2018の「LaunchPad」ではいずれも優勝するなど、2018年のスタートアップ業界で最も注目された企業といえる。

小橋工業で製造予定の原理試作機「Next DELIVERY(R)」

同社が開発中のドローン「Next」シリーズの特徴は、プロペラ、モーター、アームといったドローンの飛行部と、カメラ、積載物といった搭載部を物理的に切り離し、機体を貫通するジンバルを1本通すことで機体バランスを制御している点。従来のドローンは主にソフトウェア制御で機体のブレを制御していたが、「Next」シリーズは構造上軸がぶれないため、容易に安定飛行が可能となっている。

現在のところ、VR撮影用ドローン「Next VR(R) 」、水平輸送を可能にする宅配専用ドローン「Next DELIVERY(R) 」、対象物への接近や狭い空間への侵入が可能な「Next INDUSTRY(R) 」の3機種が発表されている、同社が公開している動画を見るとその構造がよくわかる。

今回の小橋工業との業務提携の狙いは「Next」シリーズの量産化にある。出合いは、小橋工業が「千葉道場ドローン部2号投資事業有限責任組合」(Drone Fund2号)へ出資したタイミングだったそうだ。その後、両社で産業用ドローンの市場創造について意見交換を重ね、ドローン前提社会を実現する戦略パートナーとして、商品化・量産化を目的とした提携にいたったという。実際に連携が始まるのは2月末で、共同で商品の企画・開発・製造・販売などを進めていくとのこと。

Drone Fund2号は、投資家の千葉功太郎氏が率いるドローン特化型ファンド。金額は公表されていないが、小橋工業は同ファンド最大の出資者でファンド総額は37億円。そのほかの出資者としては、みずほ銀行、KDDI、マブチモーター創業家、セガサミー、大和証券グループ、電通、松竹、そしてプロサッカー選手の本田圭佑氏などが名を連ねている。

 

小橋工業は岡山を拠点とする農業機械メーカー。1910年に鍛冶屋として創業し、1960年に現社名で設立。主力製品として、耕うん爪、トラクタ用ロータリー、トラクタ用代かき機、野菜収穫機などがある。2018年5月には、田んぼで水と土を混ぜてならす代かき作業の度合いを検知できるセンサーを販売するなど、農業の効率化を推進している。

池井戸 潤氏の小説「下町ロケット ヤタガラス」編のモデルになった企業でもあり、テレビドラマ放映を記念して限定500台で発売されたオートあぜ塗り機のコラボモデル「下町ロケットモデル ガイア」が記憶に新しいところだ。オートあぜ塗り機とは、田と田の間で土がもり上がっている部分である「あぜ」を整備して水もれを防ぐための「あぜ塗り」作業に特化した農業機械。

オートあぜ塗り機「下町ロケットモデル ガイア」(写真はXRS751R)

今回の提携にあたりTechCrunchでは、エアロネクスト代表取締役/CEOの田路圭輔氏に話を聞いた。

TechCrunch:提携先に小橋工業を選んだ理由を教えてください。
エアロネクスト田路氏:まず、エアロネクストが目指す「ドローンと共生する社会の実現」と「新しい空域の経済化」に共感していただけたことです。さらに当社取締役CTO鈴木が初めて小橋工業を訪問したとき、同社のものづくりへの真摯な姿勢と品質、安全性への強いこだわり、そしてその思いを実現するのに十分な技術力と施設に対し「量産するならここしかない!」と高く評価をいたしました。

我々が地上から150mまでの空域という今まで手付かずの領域に価値を見出し耕しているように、小橋工業の小橋社長も「地球を耕す。」というビジョンをお持ちです。我々の考え方の方向性は一致していると感じています。何より小橋社長の決断力や物事を判断するスピードの速さ、オーナー企業であることから長期のパートナーシップが期待できることが大きな理由となりました。

TC:Nextシリーズのどのようなタイプを量産するのですか?
田路氏:小橋工業は、エアロネクストが発表した原理試作を設計、製造するパートナーです。今回小橋工業で作るのは物流用の「Next DELIVERY(R)」が主体となります。

TC:量産化のメド、時期を教えてください。
田路氏:2019年6月までに量産試作機を発表、年内には量産を開始する見込みです。

TC:エアロネクストがドローンで解決したい社会的な問題を教えてください。
田路氏:多くの社会的問題が解決できると考えています。例えば、低炭素社会の実現、高齢化社会における移動や配送の問題、省人化・省力化に関わる産業課題の解決などです。

TC:今後の展開を教えてください。資本提携なども考えていますか。
田路氏:今回の小橋工業との業務提携以外にも、エアロネクストからライセンスを受けて「4D Gravity(R)」を搭載したドローンを製造する複数社との話し合いが進んでいます。小橋工業との資本提携については現時点ではお答えできる段階にはありませんが、前向きであるとお答えさせてください。

TC:小橋工業は今回の提携でどれぐらいの人員を割り当てるのでしょうか。ドローンの製造拠点(工場)はどこに置くのでしょうか。
田路氏:製造拠点は小橋工業本社がある岡山県岡山市になりますが、詳細は現在検討中です。

個人的には、2018年10月に開催されたB Dash CampのPITCH ARENAで「4D Gravity(R)」のテクノロジーを初めて知り、これまでのドローンの常識を覆す機体構造に衝撃を受けた。まずは仕様を確認するための原理試作機の製造となるが、物流向けのNext DELIVERY(R)の量産化が進めば、各地で実証実験が進められている山間部の荷物配送におけるドローンの実用化がかなり前進するはずだ。

投稿者:

TechCrunch Japan

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