盛り上がるARスポーツ、内視鏡+AIスタートアップなど:Incubate Camp 10th登壇企業紹介(前編)

国内の有力VCと起業家たちが集まる1泊2日のシードアクセラレーションプログラム「Incubate Camp 10th」が、8月25、26日の2日間にわたって千葉県のオークラアカデミーパークホテルで開催された。イベント概要については、こちらの概要レポート記事をご覧いただきたい。

ここでは18社中9社を紹介する。残り9社については後編記事「自動アートネイル機、アパレル法人向けフリマなど:Incubate Camp 10th登壇企業紹介(後編)」をみてほしい。

総合1位●HADO:AR活用で身体を動かす「テクノスポーツ」を開拓中

TechCrunch Japan読者なら、ARを使って「波動拳」を打ち出すような動画をすでに見たことがあるだろう。2014年創業のmeleapが提供する「HADO」は、スマホ挿入型のヘッドマウントディスプレイによるARを使い、目の前の現実世界の上に「エナジーボール」や「バリア」などのエフェクトを表示する体感型ゲームだ。モーションセンサーを腕に付け、腕を振って技を放ったりバリアを張ったりする。

meleap創業者の福田浩士氏のビジョンは明確だ。サッカー、野球、テニスとアナログスポーツが生まれた後、工業社会になって「モータースポーツ」が生まれた。そして、いま生まれつつあるのはIT技術を活かした「テクノスポーツ」だ。スポーツ市場は大きくて、例えば米国のアメフト「NFL」は1.4兆円規模、英国サッカー「プレミアリーグ」は5000億円。そして勃興中のe-sportsは1000億円規模になっている。

meleap創業者の福田浩士氏

 

AR/VRでは商業施設での体験型アトラクションの波が来ているが、meleapが作りつつあるのは、e-sportsが現実世界ににじみ出してきたような世界観かもしれない。HADOのプレイヤー数は40万人を突破し、常設店舗数も国内13店舗、海外30店舗の合計43店舗にまで広がっている。2017年11月期では売上1億円を突破していて、海外比率は6割にのぼっているという。

2016年11月には世界大会「HADO WORLD CUP 2016」も開催。第2回は12月3日を予定していて優勝賞金は300万円だという。今後はローカルで練習会や店舗別大会をやり、プロ・アマの大会開催によって店舗ビジネスを加速させ、常設施設でのプレイヤー数を増やすことで収益を上げていくといのが構想だ。HADO以外にもARによる球技系、陣取り系などゲームの種類も増やし、2020年までに5種競技一体型施設をプロデュースするのが目標。

いわゆる「やりこみ要素」のある戦略性の高い対人でのチーム競技としていくことで、サッカー同様に「消費されないコンテンツ、何度もリピートして100年愛されるものを作る」と福田CEOは話している。

総合2位●One Visa:ビザ申請のSaaSサービス

ペルー生まれで日本人とのハーフである岡村アルベルト氏が2015年に創業したResidenceは、ビザ申請・管理サービス「One Visa」を2017年6月から提供している。過去に友人が強制送還されるのを目の当たりにした体験から「世界から国境をなくす」ということをミッションとして、個人や法人向けに外国人労働者のビザ取得のSaaSサービスを展開している。

岡村CEOは品川の入国管理局で受付窓口現場責任者として年間2万件のビザに携わった経験がある。このため、どういう書類の作り方をすると申請が通りやすいか、といった深いノウハウまで持っているのが強みという。ビザの審査で大切なのは就労の場合であれば、会社規模、学歴、仕事内容、本人の経歴。これを「理由書」と言われる書類にまとめる。この理由書いかんで許可率が変わってくるそうだ。One Visaでは複数あるテンプレートのうち許可率が高くなるものを選べるという。

従来の手続きでは準備期間に1週間から1カ月、代理申請に10万円の費用がかかる。これをOne Visaは効率化。18種類必要な書類のうち、何が必要かを自動診断して雛形を作成。代理申請を4万円で行えるようにしている。1〜3日で申請ができて、入国管理局に出向いたときの平均4時間という待ち時間もなくなる。

法人導入の実績は68社で、大手コンビニなども導入を検討しているという。対象市場は成長していて、例えば昨年実績でビザ発給数は165万件で前年比6%で伸びているという。外国人を雇用している会社の数も17万3000社と前年比13%増となっている。より多くの日本企業が外国人を雇用しているということだ。2020年までにはビザ申請数は191万件とみていて、市場規模として2000億円規模になるという。

今後Residenceではビザ管理サービスを足がかりにして、アルバイト管理サービスや外国人居住者向けの与信情報提供サービス「One Trust」まで展開することを目指しているという。

総合3位●AIメディカルサービス:AIによる内視鏡画像診断で胃がんを発見

20年におよぶ内視鏡医師の経験と知識を生かすべく「AIメディカルサービス」の立ち上げ準備中なのは医療法人「ただともひろ胃腸科肛門科」を運営する多田智裕氏だ。医療画像をAIで診断というと、IBM Watsonの事例などが広く知られているが、内視鏡検査では日本に地の利があるのだという。

本格的な内視鏡はオリンパスによって1950年代に日本で開発され、いまもグローバルでの日本のシェアが大きい。少し古いが特許庁がまとめた2012年のデータだと、日米欧市場のすべてでオリンパスが約半分という高いシェアを取っている。医療画像データといっても、MRIやCTスキャン、X線写真などもある。これに対して内視鏡は直接臓器を中から見ているので情報量的に有利だそうだ。

内視鏡検査による画像データの蓄積と、診断経験をもつ専門医の数では日本がリードしている。「10年くらい、1万症例くらい見れば(早期の胃がんなどが)分かるようになります。でも、そういう話をするとアメリカでも中国でもクレイジーだと感嘆されるのです」(多田医師)という。

画像情報として有利とはいえ、診断が難しいことに変わりはない。たとえ医師であっても、専門医でなければ内視鏡画像を見ただけで早期がんを見つける「正解率」は31%程度にとどまるのだという。「たとえ内視鏡の専門医がやっても6〜7割程度。人工知能と専門医でダブルチェックとすることで見落としのない医療が実現できる」(多田医師)。

診断が難しいため、現在でも胃がん診断はダブルチェック体制を敷いているそうだが、人間の医師による診断に加えてAIの診断を組み合わせることで高い精度で診断が可能になるという。世界で初めてというピロリ菌胃炎の診断では、すでにディープラーニングで医師を超える診断精度がでているそうだ。「人間の医者を超える実績が出始めているので会社を立ち上げようと思った」(多田医師)。

すでに内視鏡画像を、その後の患者の病理データと結びつけるという地道な作業をすることで50万枚規模で有効なデータを収集済み。各地の医療機関と連携することで年間100万枚体制の確立を目指すという。

AIが医師を置き換えるのではないか。そんな疑問に対して多田医師は、そうではないという。見落としがないことが重要な検査であることから、ダブルチェックにAIを用いるのがポイントで、そのことで医師の検査負荷が減るという。精度があがれば、医療機関にとっては集客力アップにつながる。

胃がん検査で実用化ができれば、大腸がん、食道がん、潰瘍性大腸炎に対象を広げる。また、動画によるリアルタイム診断も可能といい、いずれそうした診断は全世界で必須の検査になるだろうという。診断に用いるAIとしてはディープラーニングのほかに、産総研がもつ「高次局所自己相関関数」という技術も利用するそうだ。医療大手と提携して世界に広めることで、年商300〜400億円を目指す。

DroneAgent:地方のラジコンショップもドローン専門店に

リクルートで「調整さんカレンダー」の立ち上げに携わったという峠下周平氏が立ち上げたドローンEC「DroneAgent」は、ドローン販売で課題となっていた実運用の情報不足やサポート不足を解決するサービス。建設・土木現場の測量目的での空撮やインフラ点検などで徐々に立ち上がりつつあるドローン市場は、2020年には1400億円市場に成長すると言われている。これに先立って、すでに「ドローンEC」という市場自体は150億円規模になっていると峠下CEOは指摘する。

DroneAgentの峠下周平氏

このドローンEC市場の課題は導入サポート能力。今のところドローンはラジコンショップや家電量販店が販売しているため、十分な情報提供ができていない。

そこでDroneAgentでは購入検討時のサポートをチャット、電話で行なったり、購入時の大型機のセッティングやメンテンスサービスを提供している。月間10万PVのドローン専門メディアで集客や啓蒙も行っている。例えば、栃木県にある販売店にノウハウを提供し、ラジコンショップだったものを月商100〜400万円のドローンショップに転身させた事例があるそうだ。ほかにも、映像制作会社からの「シネマカメラが搭載できるドローンがほしい」という問い合わせをサポートするなど500社以上の取引実績があるという。ドローン活用の法人需要では、ただ飛ばすのではなく、達成したい目的がある。だから、何ができて何ができないかといった相談が多いという。

現在DroneAgentのメンバーは9名。ドローン講師や元カメラマンなど平均31歳のチームで月商1000万円の黒字経営を達成していて、ドローン販売の商社を目指しているそうだ。

Co-LABO MAKER:実験機器のAirbnb

「研究大好き」という古谷優貴氏は根っからの研究者だ。東北大学や大手企業で、放射線検出用結晶材料とか、電力制御などに使われる「パワー半導体」の結晶の研究開発・事業立ち上げに携わってきた。そんな古谷氏が2017年4月に立ち上げたのが「実験機器のAirbnb」というCo-LABO MAKERだ。大学や企業で使われておらず遊休資産となっている高価な実験機器を、それを使いたい研究者とマッチングするプラットフォームだ。

例えば古谷CEO自身が院生時代に使っていた「フッ化物結晶成長装置」。もちろん古谷CEOが研究をしていたときには稼働率100%だったが、それが今や稼働率ゼロ。大学や企業にはそうした実験器具が多いのだという。その一方、研究したいネタがあるのに設備がないという研究者やベンチャー企業がある。実験器具は数百万円から数億円と高額であるのに対して個人や小さなチームが持つ研究費は100万円以下ということが多いからだ。

日本国内の研究開発費は18.9兆円規模にのぼり、外部委託研究費だけで3.2兆円あるという。そこにあるミスマッチにより、「価値のある人材や機器が生かされていない」(古谷CEO)というのがCo-LABO MAKERが解こうとしている社会課題だ。

「実験機器のAirbnb」とはいっても、Co-LABO MAKERはAirbnbとは大きく異る。というのも、Airbnbで扱うアイテムは「宿泊」という、ほかの出品アイテムと交換可能なコモディティーであるのに対して、実験機器というのは専門性が高いからだ。フッ化物結晶成長装置を必要としている人に、有機合成装置は無用なのだ。

現在Co-LABO MAKERはα版で、実験機器の登録を集めているところ。年内に3000台以上の登録を見込んでいるという。実験機器のシェアリングやマーケットプレイスの市場で先行するスタートアップ企業としては、「研究開発版のebay」と言われ、すでに約68億円の資金調達している「Science Exchange」があるが、国内は市場が未成熟なのだとか。Science Exchangeでは平均単価は30〜50万円、提供機関数は2500、手数料は3〜9%といったところだという。

効率化やお金を稼ぐことに関心の薄い大学や研究機関にとっては機会損失をなくすというのは大きなインセンティブになるかどうか分からない。ただ、実験器具を開放して門戸を開くことで人的な交流が生まれてオープンイノベーションが促進されるという面に期待する企業などは多いだろう、という。「企業が自社のリソースのみでイノベーションを起こすのは難しくなってきている」(古谷CEO)からだ。

Co-LABO MAKERはマッチングプラットフォームとして立ち上げてスケールさせ、その後には研究や、研究者に関するデータを蓄積していくことで、R&Dの総合プラットフォームを目指すという。

Comiru:学習塾の紙ベースの業務をデジタルで効率化

住友3M、オプトを経て2011年からは学習塾の共同経営者として塾運営に5年ほど関わってきたという栗原慎吾氏は2015年月にPOPER創業した。POPERは学習塾向けの経営支援プラットフォーム「Comiru」(コミル)を運営している。

栗原CEOは、学習塾の業務のうち授業が占めるのは3割にすぎないという。残り7割は保護者連絡、成績管理、授業準備といったことで、こうした業務が先生たちの負荷となっているという。例えば、生徒の指導報告は紙ベース。手書きで1000文字も書いていて、これだけで月間30時間の業務量になっている。

一方、学習塾の先生の80%はデジタルネイティブの大学生だ。保護者の80%もスマホを所有している。今こそ教室運営のSNSが求められている、というわけだ。栗原CEOがデモで見せたのは指導報告のWebフォームの入力画面。登録済みの教材をドロップダウンで選び、評価点を5つ星から付けるネット系サービスでは常識的なUIを使ってサクサクと入力できる。今のところ保護者コミュニケーションの業務課題に絞っていて、「業界経験者だから効率化ができる。保護者が納得しないとビジネスとして成立しない」と栗原CEOは話している。既存競合サービスに比べて、保護者向けアプリやクレジット決済の提供、講師同士の成功事例共有コミュニティーといった機能で差別化をしているという。

Comiruは2016年7月のローンチで、現在契約社数は80社、生徒アカウントは6500。10万件以上のコメントが生まれているという。ビジネスモデルとしては学習塾からIDあたり月額200円をチャージする。ただ、保護者の利用のスティッキネスは高く、MAUが98.6%、解約率が0%というのはサービスの特質を物語っている。業界最安値で競争優位を保ちつつ、API公開を進めてエンプラ向けの展開も視野に入れているという。

Comir運営のPOPER創業者 栗原慎吾氏

プランテックス:植物工場のプラットフォームを作る

モヤシやカイワレは農作物というよりも、もはや工業製品。自然のなかの土壌で育てるのではなく、実は工場で「生産」しているケースも増えている。ということは、TechCrunchの読者ならご存じだろう。植物の成長に必要な光、二酸化炭素、養分を調整した環境を用意して屋内で栽培する「植物工場」だ。太陽光ではなく白色LEDを利用する完全制御型の植物工場の産業化に取り組んでいるのが山田耕資氏が2013年に創業したプランテックスだ。

山田CEOによると「植物工場産業は始まったばかり」で、日本がいちばん進んでいる分野なのだそう。世界に約400社ある植物工場のうち半分の200社は日本にある。米国などでは広大な土地があるために農業の近代化自体は進んでいるものの、室内でチマチマ葉っぱを育てるという「都市農業」は日本のほうが先を歩んでいるということらしい。

工場出荷の野菜はメリットが多い。苦味が少ない上に無農薬で細菌が少ないため、出荷後に日持ちする。洗わずに食べられる。こうした特長によりコンビニでレタスの入ったサンドイッチの賞味期限が3日から4日に伸びた、というようなことがあるという。工場野菜は形や色、栄養価が均一にしやすく、天候に左右されずに生産量が安定するというメリットもある。

課題は植物工場の野菜は利益が出しづらいこと。上記200社のうち40%以上がいまだ赤字なのだとか。

プランテックスでは、環境制御ができるハードウェアと、それを管理・分析するクラウドプラットフォームの「SAIBAIX」を組み合わせて、植物生長の原理を数式で解明。これまで農業といえば、温度や湿度を計測して灌水タイミングを制御するというようなことはあったものの、そこがポイントではないのだそう。植物の成長は重さの変化で計測して成長速度の指標としたり、植物から水分が抜ける蒸散速度や逆に吸収速度を可視化することが大事だという。

面白いのは植物工場では根っこを「不良品」と見るような発想の転換が起こっていること。根っこは食べられない余計な生産物だからだ。

従来の畑の土での栽培では作物が根を張り巡らせるのは生存本能として自然なこと。しかし、水耕栽培の工場野菜では根っこは水を直接吸い上げることができる。根っこは浅い水にちょこっと浸している程度で十分。植物工場では非可食部の根っこの量を減らして、従来全体の重量のうち20%あった根っこを、5%程度に抑えることに成功しているという。根っこからの養分の吸収は浸透圧によるものなので、実は境界面の圧を一定に保つことが重要だそうだ。そのために流水を使う。これにより成長速度は上がる。

植物というのは成長して体が大きくなると、そのぶん光合成の速度も上がる。一種の複利効果が働く。だから上記のような数%の改善の積み重ね効果は大きく、同じ栽培日数でもレタスやバジルで平均収穫重量を2倍にするなど実績が出始めているという。

これはすごいことで、例えば年商2億円の農作物生産が薄利のビジネスだったとしても、それが利益率50%超の売上4億円のビジネスになるということだ。そして山田CEOは「生産性は2倍ではなく、3倍、4倍と上げていける」と話している。

SAIBAIXでは水耕栽培するための桶のような容れ物を利用しているが、現在は専用ハードウェア「PLANTORY 01」の開発に着手している。まるでデータセンターで19インチラックのサーバーを積み上げるかのように棚に積み上げて、部屋を満たす。温度分布が一定になるようなど精密に制御するシステムをテストし始めているそうだ。

プランテックスは、こうした人工光型植物工場の生産性向上の各種サービスを提供していて、創業2期目にして黒字化しているという。

日本の代表的な野菜であるトマト、いちご、きゅうり、ネギ、レタス、ほうれん草だけでも市場規模は2.8兆円。レタス市場をみると、米国だけで日本の7倍と農作物の市場は大きい。今後は葉物以外にも根菜類、花卉類、果物も植物工場で生産できるようになる可能性がある。そこのプラットフォームを狙うプランテックスの山田CEOは「工場と名が付く分野は日本がプラットフォームを握れる」と話している。

教育図鑑:「受験生や保護者」と「学校・塾」を圧倒的情報量でつなぐ

NTT本社企画部でロボット型検索エンジンgoo立ち上げた3人の1人という矢野一輝氏が2017年に入って本格運用を始めた「教育図鑑」は、旧態依然とした「学校・塾」の情報を網羅して整理したサービスだ。「教育は高額商品であり取替リスクも高い。それなのに購買決定のための十分な情報がない。慎重に、細かく見比べて選びたくないですか?」と矢野CEOは現状の課題を指摘する。

業界で定番となっている紙媒体だと学校名や住所を含めて27項目しか載っていないが、教育図鑑では各校共通の400項目の質問・回答でデータを構成。例えば、費用、進学実績、いじめ対応、ノート比較、父母・OBの評判、学校の雰囲気、在校生・先生に聞いた自校の好き・嫌い、入試問題分析などがあるという。項目ごとの比較ができるUIを用意しているのも特徴だそうだ。「こうしたコンテンツは読者、学校、塾からの評判が良い」(矢野CEO)

学校コンテンツはインタビュー記事も含むが、制作費は1校あたり3万円程度に抑えていて、すでに384校分のデータを用意する(取材済み40校)。掲載塾数は約8000教室、小学生会員は4万8000人となっているそうだ。

ビジネスモデルは学校・塾からのCMS利用料と資料請求報酬。例えば学校向けプランではCMS利用が40万円、資料請求1件あたり3000円といった料金。塾などは売上の7%程度を広告費に割いているが、このCMS利用料などは、塾がチラシを作って配布するときにカラーチラシを安いモノクロに切り替える程度で浮かせられる予算だという。

ネット上の競合にはイトクロの「塾ナビ」があるが、そうした最大手ですら年間3700億円あると見られる広告費や、2万5000校ある全国の塾全体の数%程度しか獲得できておらず、「ネットはまだこれから」(矢野CEO)という市場。まず首都圏の中学校からスタートし、高校・大学、専門学校へと縦に広げ、続いて近畿、政令指定都市と地理的な横展開を2018年夏以降に進めていくという。

教育図鑑は「実名」を基軸とした新世代だと説明する矢野一輝氏

 

ちなにみ、矢野CEOは「大学教授でありながら、前回起業時には(資金ショートで社員に給料を払えなくなったことから)コンビニでバイトすることにまでなった」というほどの辛酸をなめた経験がある「2度目」の起業家だ。1度目の起業では大型資金調達もしたが、結果は実らなかった。Incubate Campの会場には、1度目の起業で矢野氏に投資していたベンチャーキャピタリストも審査員として来場していた。その1度目の起業で矢野氏を支援したベンチャーキャピタリストから「前回の失敗から学んだことは?」という質問が投げられた。恐縮しきっていた矢野CEOが「あのときは大変なご迷惑をおかけしました」と述べ、手短に冷静な分析を訥々と語り終わると、会場からは温かい拍手が自然と沸き起こった。「失敗に寛容な文化」というのはお題目ではない。挑戦するべきことに挑戦して善戦したのであれば、また支援してくれる人たちがいるということだと思う。

GIFTED AGENT:発達障害者に特化したプログラミング教育

母がアスペルガー症候群の診断を受け、障害者だからという理由で才能を生かせない社会に問題意識を持ったという河崎純真氏が創業した「GIFTED AGENT」は、発達障害者に特化したプログラミング・デザイン教育を行う教育・人材事業の会社だ。

渋谷で開校したGIFTED AGENTの利用者は現在40人。未踏エンジニアなど3名が講師を務めていて、すでにセキュリティーやVR、データサイエンスといった専門性の高い領域でエンジニア4人を輩出したという。ビジネスモデルは福祉施設として国から助成金を受けることと、就職時に企業から受け取る紹介料。現在、月間売上400万円で単月黒字を達成している。

今後は渋谷に加えて東大前や早稲田にも拠点を作り、生徒数100名を目指す。対象となる発達障害の若年層は日本全国に約100万人いると言われている。2013年に改正された「障害者雇用促進法」(障害者の雇用の促進等に関する法律)において、身体の障害に加えて「発達障害」が明記されたことを受けて、事業として追い風も吹いているという。

そういう教育事業を運営しながらも、現在25歳の河崎CEOが実現したいのは、能力に偏りがあって社会適応がうまくいかない人たちでも生きやすく、適切な富の配分が行われる社会を作ることだという。現在の資本主義とそれに根ざした国家や金融システムは、資本家と、その奴隷という分離を生んでいて、そうした社会システムを新しいモノで書き換えたいという。

既存社会システムを変革するのはきわめて困難なので、それとは別に新しく国家や経済システムが回る仕組み作る。そのためにコミュニティーのための暗号通貨の交換所と、国家を作るための枠組みとして「Comons OS」というプロジェクトに取り組む。国家というのは今は地理的境界線を輪郭として言語や軍隊、文化、法や通貨を共有しているが、その一方で華僑ネットワークのように何かのアイデンティティーを共有したコミュニティーというのもある。近い将来、物理的制約と離れて、いまの10倍とか100倍程度の数の国家が生まれるのではないかと、と河崎CEOは話す。彼は試みとして南富良野で新しい社会を作るという実験をやり、70人の小さな経済圏を独自通貨を使ってみたりしたそうだ。ブロックチェーンによって税金や条例、住民の管理ができるという。

Common OSについて説明する河崎純真氏

 

残り9社については、こちら:自動アートネイル機、アパレル法人向けフリマなど:Incubate Camp 10th登壇企業紹介(後編)

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TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。