移民農業労働者が米国で就労資格を得て法的に保護されるサービスをSESO Laborが提供

Biden(バイデン)政権が、米国の移民制度を改革する際によく見られる問題に対処する法案を議会に提出しようとしている一方で、SESO Labor(SESOレーバー)というカリフォルニア州の小さなスタートアップが450万ドル(約4億8000万円)を調達して、農場が合法的に移民労働者の手を借りることができるようにした。

SESOの創業者Mike Guirguis(マイク・ギルギス)氏は、Founders Fund(ファウンダーズ・ファンド)やNFX(エヌエフエックス)などの投資家から資金を調達している。Trulia(トゥルーリア)の創業者であるPete Flint(ピート・フリント)氏が同社の取締役に就任した。同社は12の農場と提携しており、現在46の農場とも交渉中である。もう1人の共同創業者、Jordan Taylor(ジョーダン・テイラー)氏はFarmer’s Business Network(ファーマーズビジネスネットワーク)で最初の製品担当者として勤務した経験があり、以前はDropboxに所属していた。

SESOは1986年から施行されている規制の枠組みの中で、H-2Aビザの取得プロセスを合理化・管理するサービスを開始した。このサービスを利用すると移民農業労働者は、法的保護を受けながら米国に一時的に滞在できる。

現時点でSESOはビザ手続きを自動化し、労働者が必要とする事務手続きを整備することで、申請手続きを円滑化している。同社は労働者1人あたり約1000ドル(約10万6000円)を請求しているが、労働者自身へのサービスを徐々に提供していくことにより、安定した収益源を確保することをギルギス氏は想定している。「最終的には、農業経営者と農場労働者の双方に総合的なサービスを提供したい」とのことだ。

SESOは現在、2021年に1000人の労働者の受け入れを見込んでおり、現段階では収益が発生する前の段階である。ギルギス氏によると、就労ビザを扱う最大の業界関係者は今のところ1年間に6000人の労働者を受け入れているため、SESOは市場シェアを獲得するためにしのぎを削らなければならない。

米国における移民と農業労働者の複雑な歴史

国内での労働者不足を見込む農業雇用主が、移民ではない外国人労働者を一時的または季節的に農場で雇用できるように設立されたのが、H-2Aプログラムだ。労働者には米国の賃金法や労災補償の他、医療保険改革法(オバマケア)に基づく医療の利用を含むその他の基準が適用される。

ビザプログラムを利用して労働者を雇用する雇用主は、出入国時の交通費を支払い、住居を無償または有償で提供し、労働者に食事を提供する必要がある(給与からの天引きが可能)。

1952年に移民国籍法の一環として、H-2ビザ発給が開始された。これにより主に北欧への移住を制限していた出身国別割当制度が強化されたが、1924年に移民法が制定されて以来初めて、アジア系移民に米国の国境が開かれた。1960年代には入管法がさらに緩和されたが、1986年の大規模な移民法改革によって移住が制限され、企業による不法就労者の雇用が違法になった。H-2Aビザは、不法就労者の雇用にともなう罰則を受けずに農場で移民労働者を雇用する手段にもなった。

スタンフォード大学を優秀な成績で卒業し、労働政策に関する卒業論文を書いたギルギス氏によると、一部の移民労働者にとってH-2Aビザは最後の切り札だという。

ギルギス氏は給与計算関連のビジネスを展開するGusto(ガスト)を引き合いに出しながら、同社の最終的な目標について次のように語っている。「私たちは、農場と農業関連ビジネスのための人材派遣ソリューションを用意しています。農業の分野でガストのようになり、人材派遣の包括的なソリューションで農場を強力にサポートしたいと思っています」。

ギルギス氏が指摘するように、農業に従事する労働者のほとんどは不法滞在者である。「これまで食い物にされてきた労働者にとって、H-2Aは法的に就労することを可能にするビザです。雇用主が労働力を確保できるように私たちは支援しており、農業経営者が農場を維持するためのソフトウェアを構築しています」

難しい状況が続く中でも国境を開放する

労働力不足を指摘する最新の数字が現状を反映しているのであれば、農場には人材が必要だが、ロイターの記事を見てみると、問題の主な原因はH-2Aビザの発給不足ではなさそうだ。

ロイターの記事によると、農業機械を操作する労働者に発行されたH-2Aビザの数は、2019年10月から3月にかけて1万798件に増加した。ロイターが引用した米国労働省のデータによると、これは前年比49%の増加である。

H-2Aビザを取得できないということが問題ではなく、米国に渡航できないということが問題なのだ。国境管理の強化、収束しない世界的なパンデミック、パンデミックにともなう移動制限などにより、移民労働者は自分の国から出国できなくなっている。

このような状況でも適切な手段があれば、多くの農場がH-2Aビザを進んで利用できるため、不法移民を減らし、米国人労働者がやりたがらないであろう厳しい農作業に従事してくれる労働者を増やすことができる、とギルギス氏は考えている。

画像クレジット:Brent Stirton/Getty Images

David Misener(デビッド・ミーゼナー)氏は、オクラホマ州を拠点として農作物を収穫するGreen Acres Enterprises(グリーン・エーカーズ・エンタープライズ)のオーナーだが、通常雇用している移民労働者の代わりとなるふさわしい労働者を見つけるのに苦労している。

ミーゼナー氏は雇用しようとした米国人労働者について「収穫する方法や、収穫作業を仕事にするということを理解できませんでした」とロイターに対して語った。

「移民労働者がH-2Aを利用すると、自国で受け取る賃金の10倍を上回る賃金を受け取ることができます。手取りが時給40ドル(約4200円)相当になるため、誰もがH-2Aを欲しがっているのです」とギルギス氏はいう。

ギルギス氏は、適切なインセンティブと、農業経営者が申請・承認プロセスを管理するための簡単な方法を用意すれば、H-2Aビザを利用する雇用主の数が、国内の農業労働力の30%から50%にまで増加する可能性があると考えている。つまり、移民労働者が応募できる求人数が30万件から150万件に増える可能性があり、移民労働者がビザを取得して就労しながら、米国人と同じようにさまざまな法的保護を受けられるということだ。

事務処理を改善して農業労働者を保護する

創業者のギルギス氏は、いとこが農場を立ち上げるのをサポートした経験から、農場労働者のつながりとそれを取り巻く問題に関心を持つようになった。月に数回ギルギス氏が週末に手伝いに行ってたときにいとこの夫から、不法就労者として渡米した際の話を聞いた。

H-2Aプログラムを利用する雇用主は、不法労働者を雇用することで逮捕されることにともなう法的責任を負う必要がなくなる。トランプ政権下で実施されていた不法労働者に対する取り締まりが、ますます増えているのだ。

それでもこのH-2Aプログラムのルーツが、米国の移民政策の暗い過去にあることを否定することはできない。一部の移民擁護者は、H-2Aの制度が専門技術者向けのH-1Bビザと同じように、構造的な問題があると主張している。

移民労働者の支援団体であるResilience Force(レジリエンス・フォース)の創設者Saket Soni(サケット・ソニ)氏は、次のように述べている。「H-2Aビザは、雇用主が労働者を農業分野で受け入れるために使用できる短期の一時ビザプログラムです。すでに時代遅れとなっている移民制度の一部であるため、修正が必要です。米国に滞在する1150万人に市民権を与えるべきです。他国から来た労働者は必要に応じて、国内に滞在できなければなりません。H-2A労働者には市民権を取得する手段がありません。労働者たちが職場での問題について声を上げることができず、私たちのところにやって来るのです。H-2Aは労働者にとってありがたい贈り物であるだけなく、悪用される可能性もあります」。

ソニ氏がいうには、労働者が置かれている状況は非常に不安定であり、解雇されてもどこにも行けないため、仕事の問題について声を上げにくくなっている。合法的にこの国に滞在できるかどうかは、雇用主にかかっているからだ。

「労働力が必要なら、労働者を1人の人間として受け入れなければならないという考えを、私たちは強く支持しています。労働者が足りなければ、滞在を認めるべきです。H-2Aは移民が利用できる時代遅れの制度です」とソニ氏は語る。

ギルギス氏はこの制度についてはっきりと異議を唱えている。そして、SESOのようなプラットフォームが、今後このようなビザで入国する労働者の利便性とサービスを向上させるだろうと述べた。

「最終的に、移民労働者がもっと多くの給料を稼げるようなサービスを検討しています。今後、送金業務と銀行業務を開始する予定です。私たちのサービスは、このプログラムに参加する雇用主と労働者双方に利益をもたらすもので、搾取されるようなことはないと認識してもらう必要があります」とギルギス氏はいう。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:SESO Laborビザアメリカ移民農業

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Dragonfly)

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