空いた時間に「草ベンチャー」、ビズリーチ流・創業メンバーの集め方

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「事業を始めたいが、仲間が見つからない」「ベンチャーは面白そうだが、生活基盤は崩せない」――多くの起業家や創業メンバーなど、スタートアップに関わる人たちにありがちな悩みだ。

11月17日、18日に東京・渋谷で行われた「TechCrunch Tokyo 2016」ファイヤーサイドチャット「いかに仲間を集めて起業するか、『草ベンチャー』という選択肢」の中で、ビズリーチ代表取締役社長・南壮一郎氏がその解決策と、そこにたどり着くまでのいきさつを語った。

金融会社を退職→プレハブ小屋でフットサルコートの管理人

南氏が代表取締役を務めるビズリーチは、日本初の有料会員制転職サイトとして2009年に始動。その後もレコメンド型転職サイト「キャリアトレック」、地図で仕事が探せるアプリ「スタンバイ」、クラウド型採用管理ツール「HRMOS(ハーモス)」などを提供する。着々と事業を拡大し、創業7年で従業員数は700名を超えた。

大学卒業後は外資系金融会社に入社、その後は東北楽天ゴールデンイーグルスの球団創業に参加し、2009年に起業。まさに“華々しい”といった言葉が似合う経歴だが、起業に至るまでは決して順風満帆ではなかったという。

「社会人4年目、日韓ワールドカップの試合を観戦しにスタジアムに行きました。そこで鳥肌が立ち、涙が出るほどの感動を味わった。それがきっかけで『いつかはスポーツに関係した仕事につきたい』と強く考えるようになったんです。2002年のことでした」

それから南氏は、当時在籍していた金融関連の会社を退職し、スポーツの仕事探しを始める。携帯電話に登録していた300人に電話をかけ、東京・世田谷区にあるフットサルコートの管理人という働き口を見つけた。フットサルコート近くのプレハブ小屋で、学生相手にフットサルのシューズを貸したり、ドリンクを売るのが主な仕事だった。

自身が描く「スポーツの仕事」と現状の間に大きな隔たりを感じる中、新しいプロ野球球団「楽天イーグルス」が誕生するというニュースを目にした南氏。「ゼロからプロスポーツの球団を作る瞬間に立ち会えるなんてあることではない」と感じ応募した。一つの事業が地元を変え、時代を変え、地域に大いに貢献するさまを目の当たりにした。

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ようやく手にした、理想の「スポーツの仕事」。にもかかわらず、わずか3年で離れ、起業することになる。その背景には、楽天野球団・現オーナーの三木谷浩史氏や、当時の社長だった島田亨氏の言葉があったと、南氏は振り返る。

「『自分たちはゼロから球団を作った。ゼロからやるのは別のことでもできるぞ』と言われたんです。それが入社2年目のことで、そのときに『3年目に辞めて、楽天イーグルスで味わったような、新しい事業で地元の景色や仕組みを変えられるようなことをしよう』と決心したんです」

「これからの革新的事業にITは欠かせない」と直感した南氏は当時、起業だけでなく、企業で新規事業をやることも視野に入れて転職活動もしていた。そこで、1カ月間に27人のヘッドハンターを通じて、IT関連の企業をリサーチ。その結果、27人全員から違う仕事を紹介されたことに戸惑いを覚えたという。

「ヘッドハンターに相談すればするだけ、『一番ピッタリの仕事』といって異なる提案をいただく。ヘッドハンターの数だけ自分の選択肢が増えていくんです。野球のドラフトのように、多くの可能性の中から自分にピッタリの職を見つける方法はないのだろうか、と考えました」

そんな中、ビジネスインテリジェンスの研修で米国に2週間滞在中にリクルーティングサービスとしての『LinkedIn』の存在を知った南氏。「これなら転職活動の不便さを解消できる」と感じ、帰国後にビズリーチを立ち上げることになる。

草野球をするように起業する

LinkedInでは、自分のポートフォリオや職歴などを誰もが閲覧できるSNSの形式を取る。しかし南氏が新規事業立ち上げに向け奔走していた2008年の日本ではそこまで自分をネット上にさらけ出すというのが一般的ではなかったため、ビズリーチでは採用したい企業だけが見られる形を取ったという。

次に必要なのは仲間だった。それまでの金融機関や球団での営業経験を活かしてエンジニアたちに当たってみたが、なかなか見つからない。新しいことをやりたいと考えている人が潜在しているはずなのにアクセスしようがない。また、たとえ見つけられたとしても、成功するかどうかわからない事業にフルコミットしてくれるかが不安だった。

そうして、社会人の「草野球」のように、本業以外の空いた時間、平日夜や週末だけベンチャーの活動を行う「草ベンチャー」が生まれたのだ。

2009年、草ベンチャーとして仲間を集めて始めたビズリーチ事業。南氏は「オープンから1年以内に1億円以上の資金調達ができなければ解散!」と活動目標を設定。そしてその後、軌道に乗ることになったのは知られるところである。

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「面白くてインパクトのあること、世の中を変えるような仕組みを作っていくことを短い期間内にたくさんやっていきたい」という南氏は、ビズリーチをベンチャー事業として立ち上げながら“お得に贅沢体験”ができるECサイト『LUXA(ルクサ)』事業を並行して“草ベンチャー”として開始。4年半で250人規模にまで成長し、先ごろKDDI株式会社の連結子会社となった。

「大企業が新規事業を立ち上げる際にも、草ベンチャーを活用できる」と南氏。そして「社内では難しいのであれば、外部でやってもいい」と提案した。

「平日の夜や週末、特にすることがないから飲んでいる、ということもあるでしょう。1年間、そのかわりとして草ベンチャーに携わればいい。何かを得ようとするなら何かを捨てる、トレードオフですよね。そして、かかわっているベンチャーがうまくいくようであればジョインすればいいのではないでしょうか」

大人のインターンシップのすすめ

草ベンチャーは仲間を集めたいと思っているベンチャー企業にも、ベンチャーにかかわってみたいと考えている“潜在的起業家”にも便利な仕組みだが、誘う側が明確にしていなければならないこともある。それは「要件定義」だ。「それを明確にして、期限を決める。そうすれば仲間も集めやすいし、貢献具合もわかりやすい」と南氏は説明する。

最後に会場へのメッセージを求められた南氏は次のような言葉で締めくくった。

「100%、フルコミットする必要もないと思うんです。実際に成功するかはわからないんですし。今やっている仕事を捨ててまで起業できる人はなかなかいない。でも心のどこかでやってみたいと思っている。もしくは起業したいけど自分にはアイデアがない。そんな人に向いているのが草ベンチャー。いわば“大人のインターンシップ”ですよね。参加したいのであれば、“理由なんていらない”、積極的に参加しましょうよ。新規事業を通じて世の中を変えていくという体験は素晴らしく、草ベンチャーという形のお手伝いでも十分味わえるのですから」

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。