第4世代の宇宙推進システム「TILE」開発のスピードアップに向けてAccion Systemsが約46.3億円調達

宇宙推進装置を開発するAccion Systemsは、これまでで最も重要な資金調達ラウンドを終了した。同社は、Tracker Capitalが主導するシリーズCで4200万ドル(約46億2800万円)を調達し、評価額は8350万ドル(約92億100万円)に達した。

今回の投資にともない、Tracker CapitalはAccion Systemsの株式の過半数を取得した。今回の資本注入により、同社の第4世代推進システム(TILE[Tiled Ionic Liquid Electrospray]システム)の開発・製造が促進される。

TILEシステムは、電気エネルギーを使って電荷を帯びた粒子(イオン)をシステムの背面から押し出して推進力を得る。イオンエンジンは何十年も前から開発されているが、Accion ではガスではなくイオン液体(塩)という液体を推進剤として使用している。この液体は、不活性で非加圧であるため、爆発の危険性がない。また、イオンチャンバーのような大掛かりな部品を必要とせず、システム全体の小型化・軽量化を実現している。これは、ペイロードが1グラムでも多くなるとコストが高くなる宇宙では重要なポイントだ。

Accionの共同設立者であるNatalya Bailey(ナタリア・ベイリー)は、TechCrunchに次のように説明している。「既存のイオンエンジンをプリウスの大きさに縮小しようと頑張る代わりに、この推進剤を使えば、非常に小さなシステムから始めることができます」。小さいというのは本当で、スラスターのタイルの大きさは切手と同じくらいだ。

TechCrunchの最近のインタビューの中で語ったAccionのCEOであるPeter Kant(ピーター・カント)によれば、TILEシステムは拡張性とモジュール性を備えているため、キューブサットから恒星間航行用宇宙船の推進力まで、あらゆるものに使用することが可能だ。彼曰く「これは、獲得可能な最大の市場規模(TAM)と、当社が貢献できる実際の獲得可能な市場がほぼ一致している数少ない場合の1つです」。

最新世代のTILEシステムでは、サイズは従来のものと同じだが、Accionは1つのチップに搭載するエミッターの数を約10倍に増やしている(エミッターとは、実際にイオンを発射して運動量を生み出す技術のこと)。「面積あたりのイオンの数が増えることで、同じ空間からより大きな推進力を得ることができるのです」とカントはいう。

Accionは、第4世代のスラスターシステムの最初の製品を2022年の中・晩夏に出荷することを目指している。

TILEシステムは、アクシオンの共同創業者であるナタリア・ベイリーとLouis Perna(ルイス・ペルナ)が、マサチューセッツ工科大学在学中に開発したものだ。この技術は大手航空宇宙企業から大きな関心を集めたが、彼らは売却ではなく2014年にAccionを設立することを決めた。同社は、マサチューセッツ州チャールストンにある施設で、製品の製造と組み立てを行っている。

TILEシステムは、6月末にスペースXのTransporter-2の打ち上げで上がった商業宇宙船(Astra Digital製とNanoAvionics製)に搭載されていた。Accionはまず、キューブサットのような小型の宇宙船に対してサービスを提供することに注力したが、ベイリーはそれは始まりに過ぎないと述べている。

「最初はこの分野を追求し、その後、学んだことを再投資してより大型のシステムを構築し、最終的には大型の静止衛星や恒星間ミッションなどを実現したいと考えています。最近のロケットに搭載されたシステムは、おそらく50kg程度までの衛星に適していると思いますが、私たちが目指す分野の中では小さい方です」。

画像クレジット:Accion Systems

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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